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島流し130日目:防寒着*4

 紡績機、といっても、そう複雑なものは作れない。流石に、作ったばかりの織機と同じ程度の簡単なものを作ることになる。

 ……ということで、マリーリアは大体どの程度の紡績機を作るかを考えることになるのだ。


 糸を紡ぐための道具、として最も簡単なものは、紡錘である。糸の先端にコマ状の錘を付けて、それを回転させることで糸に撚りをかける助けとする。

 ……これは間違いなく作りが簡単であるので、まあ、作るのも運用するのも簡単であろう、と思われる。

 だが、もう一段階効率的なものを作るのならば……まあ、糸車くらいは、欲しいところである!


 糸車の仕組みは至極単純だ。

 回転するように作った大きな輪を回して、その回転を紐などを使って径の小さな軸へ伝える。大きな輪が一周する間に径の小さな軸は何十周もすることになる。その軸の回転を使って、糸を紡ぐのだ。

 つまり、大雑把にいってしまえば、糸車とは、大小2つの輪がそれぞれ回るように軸と軸受けを作って設置して、その2つの輪を繋ぐように紐をぐるりとかけてやったもの、ということになる。

 ……そして、その程度なら、まあ、なんとかなるだろうと思われる。マリーリアは早速、糸車を作り始めることにした!




「材料は……前だったら焼き物でお皿を2枚焼いて、それをモルタルでくっつけてたかもね。でも、今なら板で作れるものねえ。うふふふ」

 さて。

 マリーリアは早速、板を作り始める。

 丸太をそのまま輪切りにしていくことで、そこそこ円く、少々分厚い板を作りだすことができた。丸太の輪切りを更に調整してちゃんとした円盤の形にしたら、その真ん中に穴を開ける。穴は鏨を使ってなんとか開けた。

「えーと、糸が外れないように、板の側面に溝を彫っておいた方がいいわね。えーと……」

 マリーリアはそこで、『これ、アイアンゴーレムに手伝ってもらおうかしらぁ』と考えたのだが、アイアンゴーレムは元気にテラコッタゴーレム達を指揮して、食糧調達のために頑張っているところであった。……なので、マリーリアはやっぱり自分で糸車を作ることにする。糸および布も大切だが、食料も大切なのだ!


 1時間もかからず、マリーリアは円盤の側面にぐるりと溝を彫った。ここに紐を掛け、円盤を回すのだ。

「で、真ん中の穴に軸を通して……軸受けは……適当に木の枝で組みましょ」

 木の枝を3本紐で結んで三脚のようにしたものを2つ作り、三脚2つの間に、円盤を通した軸をのっける。軸が弾んで外れてしまわないように、三脚の上部には細い棒を渡してそれもまた紐で固定しておいた。

「うん……うん。いいかんじだわぁ」

 円盤をくるくると回してみると、くるくる回る。……ちゃんと滑らかに回るのだから、ひとまずこれで糸車の半分以上が完成したことになる。マリーリアは笑顔で円盤をくるくる回した。くるくる回ると、ちょっぴり楽しいのである……。




 少し休憩を挟んでから、この円盤によってものすごい速度で回転することになる小さな径の軸とその軸受けを作ることにする。

「糸巻き用の軸は取り外しできた方がいいから……やっぱり、中空の茎を使いましょ。えーと、多分、あっちの方にそういう草が生えてたわよねえ……」

 ……ということで、マリーリアは少々拠点を離れて、背の高い草叢に踏み込んだ。

「うん。やっぱりいいかんじだわぁー」

 マリーリアの身長を超えるほどに伸びたその植物は、もう秋の終わりということもあって立ち枯れている。ぽきりと簡単に折れるそれの断面を見てみれば、見事、中空になっていた。

 麦の茎もこのように中が空洞になっているものだが、似た植物は幾らでもあるものである。……マリーリアの知る限りでは、アジサイの枝が、このように中空の構造である。勿論、フラクタリアにおいて完全な園芸品種であるアジサイが、こんな無人島にある訳は無いので、この、名も知らぬ植物の茎を使うことになるが……。


「さて、じゃあこれの真ん中に……えーと、革を巻いて、革紐で両端を固定して、と。これで大きな輪から掛ける紐が外れないようにできるわね」

 名も知らぬ植物の茎を持ち帰ったマリーリアは、それの真ん中に滑り止めの革を巻く。この革の部分に紐を掛け、大きな輪に繋げて、大きな輪の回転がこの軸に伝わるようにするのだ。滑り止めを怠ると、紐だけがするすると空回りしかねないので重要である。

 ……まあ、マリーリアは『いざ滑るようだったら膠塗ってやるわぁー』と覚悟を決めているが。

「軸受けから外れないようにしてあげて……それから、中空の茎に、細い棒を挿しこんで……うん。これでよし!」

 マリーリアは出来上がった軸を軸受けに設置し、軸に『糸を巻き付けるための棒』を固定し、そして、大きな輪と細い軸とに革紐を掛け、回転がしっかり伝わることを確認する。

「うん、うん……こっちを一周させるだけで、細い方は何十周もするようにできてるから……これでようやく、簡単に糸を紡げるわぁー」

 マリーリアはにこにこしながら、出来上がったばかりの簡易糸車を前に……はた、と気づいた。

「……ところでこの糸車、どうやって回しましょ」

 ……回せば回るようになっているが、回さないと回らない。それがこの簡易糸車である!




 ……ということで、テラコッタゴーレムが1体、マリーリアの糸車の動力として連れてこられた。アイアンゴーレムには『1体借りるわぁー』と伝えたので大丈夫である。大丈夫ということにする。

「じゃ、あなたはこっちの車を回し続けていてね。合図をしたら回し始めて、また合図したら止めて頂戴な」

 マリーリアはテラコッタゴーレムに説明すると、早速、植物から採ったばかりの繊維を使って、糸を作っていく。

 最初の少しは、手作業で紡ぐ。繊維のもこもことした塊を紡いで、もこもこから糸が1本、にゅっ、と伸び出たような形にする。その伸びた糸は、糸を巻き付けるための棒にしっかりと巻き付けておいて……。

「じゃ、回し始めて頂戴な」

 それから大きな輪が回り始める。すると、糸に繋がった先の軸が高速で回転し始め、糸、そして糸が生え出ている繊維の塊の方にまで、その回転が伝わってくるのだ。

 マリーリアは繊維を適宜引き出してやりつつ、適度な分量の繊維が撚られて糸になっていくように調整した。……繊維の量だけを調整してやれば、あとは勝手に撚られて糸になっていくのだから、やはり糸車とは偉大な発明である。

「うふふ、楽しいわぁー」

 マリーリアはにこにこしながら、糸を作っていく。

 この島の植物から作った繊維は、概ね、麻と似たような具合である。亜麻と苧麻の間ぐらいの質感、だろうか。まあ、多少ごわつくだろうが、簡単に何かを拭いたり水気をとったりするのには十分使えるものができるはずだ。

 マリーリアは『布にするのがまた楽しみねえ』とにこにこしながら、できるだけ細く、そして丈夫に糸を紡ぎ続けるのであった!




 昼食時を少し過ぎて、マリーリアの糸紡ぎは終了した。たっぷり作ったように思われた繊維も、紡いで糸にしてしまうと嵩が減って少なく見える。だが、ひとまず、小さな布を織れるくらいの分量にはなった。マリーリアは昼食がてら、塩漬け肉を煮戻して食べてから、早速、昨日作った織機に糸を掛けていくことにする。


 織機に経糸を掛ける作業というのは、本来、とてつもなく面倒である。特に、大きな布を作ろうとしたら、もっとずっと長い経糸を、もっとずっと沢山の量、掛けていかなければならない。だが、今回は小さな布を作るだけなので、かなり楽である。

「今回はこんなところでいいわね」

 今回は、細く長く、1本の糸ができたので、その糸を釘から釘へとずっと繋げてジグザグとやっていき、経糸とした。経糸を1本ずつ釘と釘に結び付けていくよりずっと簡単なのだ。

「じゃ、早速……うふふ、こういうの久しぶりねえ」

 マリーリアは早速、経糸の間に緯糸を通していく。緯糸は、杼の代わりの薄い小さな板にぐるぐると巻きつけてある。それを、経糸の間に互い違いに通していって、平織りにしていくのだ。

「雨の日に雨音を聴きながらやりたい作業だわぁ……」

 こうして手芸紛いのことをしていると、やはり、オーディール家の屋敷の屋根裏で刺繍や読書を楽しんでいた時のことを思い出す。外の音に耳を傾けながら自分の手元に没頭する時間の、なんと甘美なことか。マリーリアはこうした作業が案外好きだし、1人でそれをやるのが好きだ。そして雨の音や風の音も。

「雨、降らないかしら。うふふふ……」

 ……まあ、今雨が降ると、食料集めをしているゴーレム達が大変なのと、干している肉の乾燥が遅れるのとで良いことが無い。真面目な雨乞いはしないことにして、マリーリアは鼻歌交じりに楽しく布を作っていくのだった。




 そうして夕方になる頃には、小さな布が1枚、出来上がった。

「麻袋……よりは、柔らかいわね!よし!」

 ……出来上がった布は、やはり、少しごわつく。上質なリネンのペチコートの布のようにはいかない。

 だが、頑張って細く細く糸を作ったおかげで、今できる限りで最高に手触りの良い布ができたのだ。まあ、今のところはこれでヨシとするしかない。

「冬の間、布の研究をしてみてもいいかもね。うふふふふ……」

 マリーリアはにこにこしながら、『冬ごもりの準備に、繊維づくりも加えなきゃね』と決めた。食料はもうそろそろいいだろう。肉が向こうから来てくれたおかげで、少なくとも肉だけなら、冬を越せるくらいの量がある。

 なので……冬の間を楽しく過ごすための準備に、そろそろ切り替えてもいいだろう。どのみち、冬はもうすぐそこまで迫っているのだ。あとは『おまけ』の準備に充ててしまってもいいだろう。或いは、冬に差し掛かって、マリーリアが家にこもるようになった後でゴーレムを動員して繊維づくりをやってもらってもいい。

「……冬がちょっと楽しみになってきたわねえ」

 マリーリアはにこにこしながら、もうじき来る冬に向けて、手芸の計画をぼんやり考える。

 ……冬は長く厳しい。なので、楽しく越せるに越したことは無い。その上で実用品が生まれるなら、やはり、それに越したことは無いのである。




「冬の間にすることって、ほとんどがお料理と手芸になりそうね」

 その日の晩。夕食を摂りつつ、マリーリアは皮紙にメモを書き連ねていく。

 それは、『冬の間、何をして過ごすか』だ。

 ……まあ、冬の間は、料理に時間を使うことになるだろう。何せ、保存食は保存のため、カチカチカラカラに乾燥していたり、しっかり塩漬けになったりしているものばかりだ。それらを水で戻したり、塩抜きしたり、そして柔らかく煮込んだり……といった工程には、今まで以上に時間がかかる。

 だが勿論、料理だけで1日を終えるつもりは無い。

「革の細工は色々と作っておきたいわぁ……。鞄とか、あと、靴も!冬用のあったかいブーツじゃないのも作らなきゃ。いつまでも植物の蔓のサンダルっていうのもねえ……」

 欲しいものは幾らでもある。そして、革については……まあ、向こうから来てくれたこともあり、それ以前から鞣すだけ鞣して放っておいたものもあり……かなりの量が溜まっている。皮製品を作るなら、冬の間だろう。

「後は……うーん、冬の間じゃなくてもいいけれど、そろそろ、ガラスが欲しいのよねえ」

 ……それから、マリーリアはまた、別のものについても考え始めている。

「窓もそうだし、花瓶とか、ちょっとしたものもあるとかわいいもの。ああ、磁器もできたら楽しいけれど、それはまた難しいかも……」

 あれこれと考えながら、マリーリアは『窓ガラス欲しいわぁー』と、皮紙張りの窓を眺める。

 ……と、その時だった。

「あら」

 窓に、何かがくっついたように見えて、マリーリアはちょっと外に出てみる。

 ……すると。

「あらぁ……初雪、かしらぁ」

 外には、ちらちらと、ごく細かな雪が、舞っていた。

 ……案外、冬はもうすぐ近くまで来ていたらしい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 話数タイトルがこっそり変わってるのは意図的ですか? 防寒着→防寒具
[一言] 糸車作れるの器用だな…
[一言] とうとうアイアンゴーレムと並んで課題になってた、冬が来ちゃった…防寒対策はそろそろ整ったかなぁ
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