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島流し127日目:防寒着*3

 そうしてコートが完成した。

 ホーンラビットの皮を繋ぎ合わせて作ったコートは、コートというよりローブといった風情であるが、それでも着てみれば暖かい。

「うふふ、案外あったかいわねえ」

 マリーリアは早速、毛皮のコートを着てみると、くるくるとその場で回る。多少動きにくくはあるが、それはコートとしては当然のことなので仕方がない。

「後は……襟首と肩のためにケープは作るとして……後は、手ね。手袋もできれば作りたいわぁ。ミトンくらいならなんとかなるわよね」

 防寒のため、マリーリアは次々と欲しいものを考えていく。材料は幸いにして、それなりに沢山ある。何せ、向こうから来てくれたので!ということで、後はアイデアと手間暇さえかければいくらでも物を作れる状況にある。マリーリアは『あとは何があったらいいかしらぁ』と考えつつ、あれこれ計画を立て……。

「……あっ、そうだわ」

 1つ思いついたので、マリーリアはアイアンゴーレムが戻ってきたところで、1つ言づけておく。

「真っ直ぐな茎の植物を見つけたらできるだけ揃えて刈り取ってきて頂戴。蔓の類でもいわ」




 翌日。島流し128日目。

「今日はケープを作りましょ」

 マリーリアはケープを作り始めた。

 こちらも昨日と同じく、毛皮を繋ぎ合わせてから裁断して、それをまた縫い合わせていき……とやって作る。

 ケープとはいえ、首と肩を温めるだけのものだ。そう複雑な作りでもないので、すぐに作り終わった。

 首元で革紐を縛って留める形にしたので、着脱は簡単である。……喉が少し冷えるので、中にリネンの布か何かの襟巻でもしておいた方がいいかもしれないが。


 ケープに続いて、ミトンも作っていく。

 指5本を独立して動かせるような手袋にするのは素材と道具の都合で難しいが、ミトンのような大雑把な形であれば十分に作ることができる。

 内側は毛を抜いた柔らかな鞣し革で作り、外側は毛皮で作る。これで、滑らずに物を掴むことができ、かつ温かなミトンができる。

「ま、これで十分よねえ。冬の間に行軍するでもないし、外での用事といったら、まあ精々薪をとってくるとか、水を汲んでくるとか……お風呂への移動だとか、後は、ゴーレムの様子を見る、とかだものね」

 冬の間に無理をするつもりは無い。冬の間に無理をしないために、今無理をしてアイアンゴーレムを作ったのだから。

 なのでマリーリアの防寒具は、機動性よりもぬくぬく具合を重視したものになっている。……ひとまず、今日できたケープとミトンを昨日作ったコートと一緒に身に付けて、『ぬくぬく!』とにっこり微笑んだ。まあ、ぬくいことは良いことである。


 そうこうしていると、家のドアをアイアンゴーレムがノックした。マリーリアは『はーい』と返事をしてから外に出て……そこで、どっさりと収穫されてきた植物の茎や蔓を見つけた!

「……結構沢山集まったわねえ」

 あらぁ、と感嘆のため息を吐きつつ、マリーリアはゴーレム達の仕事が上出来であったことににっこりする。

「これだけあれば何とでもなりそうね」

 マリーリアはそれら植物の茎を……浴室の方に向かって、運び始める。

「お風呂の後、これ、茹でるわよ!」




 その日。

 マリーリアは入浴の後、焼き石をもう少々足した。

 お風呂の栓になってくれているスライムがちょっとかわいそうな温度になったところで、そこに植物の茎を入れていく。

「このまま漬けておきましょ」

 植物を茹でるには、やや低い温度である。それこそ、筋の部分が残るような、そんな温度だ。

 ……そう。マリーリアは、このように植物の茎や蔓の柔らかな部分だけが煮溶けるくらいの温度でこれらを湯がき、放置して腐らせ、繊維だけを手早く取り出すつもりなのである!

「そろそろお外の気温も低いし、池に浸けておいても腐らずに結構残りそうだものねえ……」

 夏場であれば、池の水に浸けておいて組織を腐らせる手も悪くなかった。だが、如何せん、今は朝夕はめっきり冷え込むようになってしまった。この状況では、植物の組織が腐るのは遅くなりそうである。

 だからこそ、風呂で茹でた。今日はこのまま茎や蔓を風呂に浸けておいて、明日の夕方ごろ、繊維だけ取り出せないかやってみるつもりである!




 更に翌日。島流し129日目。

「帽子はあった方がいいわね。頭があったかいのは大事だもの」

 マリーリアは毛皮で帽子を作ることにした。

 案外、頭部の防寒というものはバカにならない。頭には血が沢山流れているので、冷やすとすぐ全身が冷えてしまうのである!

 ということで、帽子だ。ひとまず頭部を覆って温まれるようなものがあればいいので、円筒のような形に毛皮を縫い合わせたものを作る予定だ。あまり凝ったものは作らないが、いつかは凝ったものを作ってみてもいいかもしれない。来年はまた別のものを考えてみてもいい。余裕があれば、だが。


 そうして昼ごろ、帽子が完成した。……そしていよいよ、マリーリアは毛皮ではなく……植物繊維を使うことになるのだ!




 浴室へ向かったマリーリアは、そこで、植物の組織が煮溶けたものをもりもりと食べているスライムの姿を発見した。

「……そうね。うん。食べていいわよ。でも繊維は食べないでね」

 スライムは昨日、熱すぎる風呂の栓をやっていたためか、多少、体の組織が駄目になってしまったようである。それを回復するためにも食事がたっぷり必要であろうから、マリーリアは目くじら立てずにスライムの元気な食事を応援するのだった。


 スライムがもりもりと元気に食事を進める傍ら、マリーリアは植物の繊維だけを取り出すべく、浴槽に残った植物の繊維を土器に張った水の中で揉んで、綺麗にしていく。

「うん……もう一日くらい置いた方がよさそうね」

 組織は煮溶けて、更にふやけて、上手く脆くなってくれている。だが、まだ繊維には汚れが残っているので、もう一晩水に漬けておいてからこれらの繊維を紡ぐことになるだろう。

「まあいいわぁ。織機を作る必要があるし、どうせ作業は明日以降になるものね」

 マリーリアはにっこり笑って繊維を浴槽から取り出していく。揉み洗いしてからまた水に浸けておくためだ。

 そして何より……。

「……だから、あなたもゆっくり食べていいわよ。ご苦労様」

 浴槽の中には、まだ、もりもりと食事を進めるスライムが居るので!食事の邪魔をしてしまってはかわいそうである!




 午後、マリーリアは織機を作ることにした。

 織機、とはいっても、そう大層なものではない。至極単純なつくりのものだ。それこそ、小さい頃、マリーリアが手芸遊びの一環で使ったような、そんなものだ。

「板に釘を打つだけだから、まあ、簡単よねえ」

 作り方は簡単。木の板の上に、釘を2列、打ち付けていくだけである。釘は少し長めのものが望ましい。

 2列の釘の間を渡すようにして糸を張っていき、経糸とする。それらの糸の間に緯糸を通していって、布を織ることができるのだ。

 勿論、このやり方ではあまり目の細かな布は作れない。また、大きな布も、作ることができない。だが、手や顔を拭く程度の、そう大きくない布を作るくらいなら……まあ、何とかなるのである。

 そう。マリーリアは、『拭くもの』が欲しいのだ!


 冬場の防寒対策として、『濡れたままでいないこと』は必須だろう。だからこそマリーリアは、浴室に『体を温めながら乾かす部屋』を併設している。

 濡れていると、体温がどんどん奪われていく。それは体全体もそうであるが……顔や手といったごく一部であっても同じことだ。

 特に、手はよく使う道具の1つ。それが水に濡れた上で、冬の乾いた冷たい風に晒されていると……すぐに指先まで冷え切って、精密な動作ができなくなっていく。更に、手荒れも進んでいき、痛みが余計に感覚を鈍らせていくだろう。

 ということで、マリーリアは手や顔を拭くための布が欲しいのだ。

 だが、ペチコートの布の残りもそう多くはない。これらは何かを濾したり絞ったりするのにも使うと考えると、そろそろ、目が粗くてもいいので植物の繊維を使った布が欲しい。

 そういうわけで、今回の繊維と、簡易織機なのだ。

 植物から採った繊維は、よく水を吸う。そしてすぐ乾く。

「えーと、2列の釘は平行に……。あと、経糸がちゃんと平行に並ぶように釘の間隔は揃えて……」

 マリーリアは板の上に炭で補助の線を描きつつ、それに沿って鉄釘を打ち込んでいく。……そうして、ごく簡易的な織機ができることになったのである!




 翌日。島流し130日目。

「よし、いいかんじ!」

 マリーリアは、水に浸けておいた植物の繊維を取り出して、にっこり笑った。

 白っぽく、ほぼ繊維だけになったものがそこにある。まあ、これならば紡いで糸にできるだろう。それを織れば、いよいよ布の完成である!


 ……だが。

「……指だけで紡ぐの、そろそろ辛いわぁー」

 1時間ほど糸を紡いだところで、マリーリアは疲れてきた。連日針仕事に糸紡ぎに、とやっているので、肩や目の疲れが出ている!

「やっぱり駄目ね」

 なのでマリーリアは、さっさと諦めた。

「紡績機作りましょ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 積み重ねのない冬支度、あれこれ並行で作るバタバタ感がリアル。 [一言] 織り機が先に出来て、後から繊維を糸にする紡錘車、というのが島流し生活らしいです。 紡錘は一番シンプルな紡錘車なら、錘…
[一言] 時間は無制限にあるようなものとはいえ、ちょっと…色々と…なんだか…ねぇ…
[一言] 紡績機を拵える事が可能なご令嬢とは………?
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