続・風華となずな
「それはね――セゾンstationの復活だよ」
クラクションにおいて、VRアイドルのプロデュースを私にお願いしてきたなずなは、目的をそう明かした。
正直、意味が分からなかった。
「……なずな、どういうこと?」
「文字どおりだよ。セゾンstationを再結成するの」
なずなは一体何を言っているのか――
セゾンstationは、なずな以外全員、非業の死を遂げているのである。
オリジナルメンバーがあんな死に方をしたのに、再度「セゾンstation」の看板を掲げてアイドルユニットを作り直すなど、正気の沙汰ではない。
上手くいくはずない。
好奇の目で見られればまだ良い方で、おそらく不吉だと避けられて、終わる。
「なずな、無茶なこと言わないで」
「無茶じゃないよ。VRアイドルならできるんだよ」
なずなの提案の意図は、私の考えをはるかに超越していた。
「……どういうこと?」
「ゆうき、すみれ、みま、ひなのをVRで再現するの」
「再現……?」
「これを見て」
なずなはテーブルの上に、四枚の方眼紙を広げる。
そこには、ボールペン書きで、女性のキャラクターが描かれている。
それは――
「セゾンstationだ……」
キャラクターは、それぞれ、ゆうき、すみれ、みま、ひなのにそっくりだった。
「似てるでしょ。当時の写真を見ながら、私が描いたんだ」
うろ覚えだが、五年前のなずなは決して絵を描くのが下手だったはずだ。
おそらく、この絵を描くために相当練習をしたに違いない。
なずなが書いた絵を見ただけで、私の目は反射的に潤んでしまう。
「この絵をVR処理して、二.五次元アイドルにするの。そうすれば、セゾンstationを復活させられるでしょ?」
あまりにも突拍子のないアイデアである。
そのアイデアに驚愕すると同時に、私は、なずなの心の中の深い闇を見た気がした。
なずなは、この五年間、セゾンstationに囚われたまま、前を向くことができていないのである。
なずなは、五年前から一歩も進めていないのだ。
――それは私も同じだ。
五年前、私は全てを諦めた。
他方、なずなは、五年前に失ってしまったものを取り戻そうと足掻いた。
それだけの違いしかない。
なずなの提案は狂っていると思った。
しかし、私も同様に狂っている。
私も、なずなのアイデアに希望の光を見出してしまったのである。
「……でも、なずな、みらいの絵はどこ?」
セゾンstationは五人組である。
しかし、なずなが広げた方眼紙は四枚しかなく、みらい――なずなの絵がないのである。
「ふうかちゃん、私さっき言ったよね? 私はメンバーにならない、って」
たしかにそう言っていたかもしれない。だが、腑に落ちない。
「でも、それはオカシイでしょ? だって、セゾンstationを再現するんだよね? セゾンstationは、ゆうき、すみれ、みま、ひなの、みらいの五人が揃ってはじめて成り立つでしょ?」
なずなは首を振る。
「違う。私にはセゾンstationにいる資格はないの」
なずながなぜそのようなことを言うのか、私には理解ができなかった。
「とにかく、私はただの発起人。まずは、私とふうかちゃんとで、ゆうき、すみれ、みま、ひなのと似た人を選別する。あ、ここで言う『似た人』っていうのは、声とか歌い方とかダンスの癖とかルックス以外の部分ね」
VRアイドルの場合、たしかにルックスは度外視できるだろう。なずなが描いた絵がそのままビジュアルになるのだから。
「そして、楽曲作成から振り付けからマネジメントまで、全部風華ちゃんにやってもらう……できるよね?」
「それはできるかもしれないけど……」
だいぶ腕は鈍ってしまったとは思うが、それでも、コンビニの店長よりは向いているだろう。
なずなはトントン拍子に話を進めていく。
「じゃあ、決まりね。私、メンバー募集の方法を考えるね。あとはVRアイドル事務所とのコネクションも……」
「ちょっと待って!」
なずなの挑戦にできるだけ協力したい、という気持ちにはなっている。
しかし、私には、やはり譲れないところがある。
「なずな、私がプロデュースを引き受けるのに、一つだけ条件を設けて良い?」
「……何?」
「ユニットのメンバーになずなが加わること。そうしないと、私はプロデュースを引き受けられない」
「ふうかちゃん……」
なずなは何か言いたそうにしていたものの、私の真剣な表情を見て、言葉を飲み込んだ。
「……ふうかちゃん、分かった」
でも、となずなは続ける。
「私、みらいにはなれないから。それだけは許して」




