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剣の舞う放課後

 








 魔術学園の体育館の向こう側には遠く山脈が見渡せる緩やかな丘陵につながる広々とした裏庭があります。


 ハーブ園があり自然を模した可愛らしいコテージガーデン風に造園された中庭、植え込みを人工的な造形に刈り込んだ厳かなナポーリ風ガーデンの前庭とは違い裏庭は草花が伸びるに任せた、いたって普通の野原といった様子です。駆け回って遊ぶにはここがいいですね。




 その裏庭では週に三度、公爵令嬢クララ様と騎士の息子のノイシュによる男爵令嬢ディアドラ、つまりわたしへの剣の稽古が行われています。



 魔術学園に来たはずですのに……なぜ?


 という疑問がいつまでも頭にちらつきますがクララ様の斬撃が容赦なく打ち込まれて来るので機敏に避けます。


「今のよくかわしたね。すごいな」


 ノイシュにほめてもらえましたよ!やった!



「そうですわね、かわした時にも隙がありませんでしたわ」


「ほんとですか?よかった~」


 クララ様は金属製の、練習用の刃のついてない模造刀を使っています。なので念のためミスリル銀の鎖かたびらをイエイツ先生からお借りして体操着の上に着込んでます。そんなにほいほい貸していいものなのか知りませんが。


 わたしはレオン様(国王陛下から名前で呼ぶが良いぞ、と仰せつかりました)からなるべく軽い剣で稽古するように、との言い付けで竹製です。オリハルコンの剣を使うなら軽さに慣れておいたほうが良いからという理由です。すでにそういう前提なのがちょちょ、ですけども。王家の剣ですよね??


 クララ様は軽いものを使うといつもと勝手が違って逆にわたしに怪我をさせてしまいそうということなので金属製です。


 ちょっと持たせてもらいましたが重い!あの白魚のような手と細腕でどうやってこんなもの振り回すのでしょう?


 クララ様愛用の実剣は幅広で大きく無骨なブロードソード。その使い方は重さを利用して叩き斬る荒々しいものです。模造刀よりも更に重くて振り回すとブオーンブオーンと恐ろしい唸り声のような風音が周囲を威圧します。

 細身のレイピアとかで華麗に立ち回るのかと思ったらまさかまさかの重量級戦士さながらのファイトなのです。ギャップってよいですよね。



「ほんの少しかすったでしょう?大丈夫かしら?」


「はい!ミスリルだけでも凄いのにイエイツ先生が防御の魔法をかけてくださったのでちっとも痛くありません」


「あれさぁ今の、ディアドラがかわしたからかすっただけで済んだけど当たってたら、まぁ魔法がかかってるなら大丈夫、なのかなぁ?」


 きれいなオレンジ色の夕空を見上げながらノイシュはいつも通りのんびりとマイペースな話し方です。


 クララ様はレオン様に剣術の稽古を頼まれたものの力任せの荒々しい感覚派の自分ではディアドラの参考にはならないだろうとノイシュを巻き込んだそうです。


 ノイシュの剣技は正統派だそうで、型のお手本は剣術に詳しくないわたしから見てもとても美しく思わず見惚れてしまいました。いつものほほんゆるゆるとしてるのに剣を振るう姿はまるで近衛騎士、いえ王子様のような風格がありますね。体操着を騎士の儀礼服かと錯覚してしまいます。


 魔術学園では剣技の授業はないので腕が鈍らないようにふたりはよくここで手合わせをしていたのだそう。



「後ろからの攻めに機敏だよね。何かスポーツでもやってたの?」


 スポーツなんてしたことはないですわね。えーと……


「あ、ユキちゃん!」


「「?」」


「山羊なんですけど、わたしが牛の乳しぼりをしてると後ろからどついてくるんです。だから背中側にはいつも気をつけていて」


「「山羊?」」


「はい!普段は可愛い山羊なんですけど、わたしがお手伝いしてるとさみしいみたいで」


 可愛いユキちゃんを思い出して思わずにたにたしてしまいました。


「ユキちゃん今ではお父様の領館で飼われているんです。山羊のミルクは栄養満点ですからね」


 あら、ノイシュが地面に俯せて肩を小刻みに揺らしています。まぁ、ちょっと、見慣れて来ましたよ?きっと彼の癖なんでしょう?あぁ、ちょ、クララ様まで山の方を向いてふるふると震えています。




「ノイシュ……今日はここまでにしましょう。ちょっともう力が……」


「……ま、ちょ、ちょっと……待ってクララ」


「……立つのよノイシュ……」


 ノイシュはまだ腹筋に力が入らなさそうです。


 なんとゆーか、クララ様とノイシュってふたりにしか分からないやりとりが多いんですよね。


 しかもクララ様、ノイシュにはずいぶんとくだけた接し方なんです。とても仲が良さそう。いつもは気高く凛となさってるのにノイシュほどではありませんがゆるゆるとリラックスしているご様子です。

 ノイシュもクララ様にはタメ口です。普段、校内では接することもないのですけども。ここだけで見れる光景です。


 おふたりが仲良くしてらっしゃるのを見るのは好きなのですがなんかもやもやもします。



 今さらだけど、ノイシュって国王王妃両陛下と一緒のお茶会でも緊張するでもなくいつも通りのんびりしてましたしレオン様のことも元々名前呼びですし。色々気になることは多いんですけど……何故か聞こうとすると踏みとどまってしまうんですよね……。ううーんどーしてかしら??



 おふたりはどーしてそんな仲良しなんですか?


 のひとことがどーしても言えません……。



 だってもしかしてもしかすると……じゃないですか。だったらなんだ、ですけども。


 わたし、ここに混ざって大丈夫なんでしょうか……。まさかお邪魔虫……?
















「ファリスさん?どうしたのですか、ため息ばかりついて」




 稽古のない放課後、図書室で復習をしていると心配そうな美しい顔が視界に入って来ました。あら、ため息なんてついてたかしら?


「グリフィス様!」


 慌てて立ち上がって礼を取ろうとするわたしを微笑みで制します。


「魔法薬学だね。分からないところがあったら見てあげるよ」


「ありがとうございます!今日ですね、花の波動療法について学んだんですけど……フィトケミカルとはどう違うのか、てちょっと気になって頭に入らなくて。テストは花の種類ごとの効能を丸暗記すれば済むんですけど」


「あぁ、教科書を見せてごらん。ホメオパシーの項目を読むと理解しやすいよ」


 真横の席に腰掛け教科書を覗きこむグリフィス様の、プラチナブロンドの緩やかにウェーブした髪がわたしの肩にかかりました。ふわりと爽やかないい香りがします。


「ローズマリーの香りですね。いい香り」


「勉強するときに付ける香水だよ。頭が良くなる香りだからね」


 にこっと笑顔のグリフィス様。普段はとても優しい笑顔なんですよね。ふふ素敵です。


 図書室にいらっしゃる他の女子生徒さんたちが頬を染めて、声を上げないように口元を押さえてグリフィス様に熱い眼差しを送ってるのが見えますね。わかります、こんな綺麗な男性めったにいませんからね。


「頭が良くなっていい香りだなんてそれはわたしもほしいです。どこで売ってるんですか?」


「これはうちの田舎で採れたハーブで手作りしてるものだよ。作り方はそのうち精油抽出とか習うからファリスさんにもすぐ作れるんじゃないかな。て言っても寝かせる時間がけっこうかかるから……うちに作り置いてるのを分けようか?」


「いいんですか?」


「あぁ、今から取りに行く?新しい茶葉が届いてるはずだからついでにお茶にしようか。波動療法のエロンバック博士の詳しい本もあるからうちで勉強しよう」


 やった!グリフィス様の淹れるお茶はとっても美味しいのですよね。荷物をささっとまとめて図書室を出ます。あ、でもふたりきりはまずいのかな?


「さ、フィルドくんも」

 グリフィス様はたまたま図書室に入ろうとしたノイシュの肩を抱き寄せてくるりと方向をチェンジさせるとそのまま連行します。一瞬、は?という表情をするのですがノイシュは相変わらず察しが良いようで小さくため息を吐くと肩を抱かれたままおとなしく連れて行かれます。良い光景ですね。


  ノイシュも一緒!ふふ。あ、これもまずいのですよね?と顔に出ていたのでしょうか?


「クララも帰ってるはずだからね」


 とグリフィス様が微笑みます。稽古のない日までご一緒出来るなんて嬉しいですね!


 最初にここでお会いした時はノイシュとグリフィス様は初対面の振りをして他人行儀にしてましたけど、やはりクララ様と同じく仲良しのようです。人前では内緒にしてますけど。わたしには国王陛下とのお茶会の時から諦めたように、普段通りくだけた態度です。


 何かがバレたかのようなご様子ですけど、わたし何にも察してないですからね?お貴族さまの関係性はばばっとしか学んでないので深く存じ上げないのですよ?


 どうやらノイシュのお母様が騎士様でレオン様とはお知り合い、というとこが精一杯です。ヒュトラン家ともそういうことかなぁ?


 でもここで関係性を問い質せるほど空気読めない……人になりたいですね。切実に。話してくださるのを待とうと思います。仲良しなおふたりを見るのは好きですし。ふふ。












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