大切な日
感情がジェットコースターのように急上昇急降下していた後に、尋問のようなことをされると流石について行けない。元々相談するつもりだったが、どこから話せばいいか思考が一旦停止したのは許してほしい。
殿下に相談した内容を彼に話していく。
「君の懸念はおそらく外れていないだろう」
彼はそう言いながら鞄からファイルを取り出した。手渡されて首を傾げる。
「調べさせてもらった」
調査報告書を言われるまま開く。しっかりと調べられていた。お姉さまの婚約騒動の時も思ったけれど学園内の出来事をどうやって詳しく調べているのかしら。でも、この短期間でここまで調べ上げるなんて。唖然と見上げれば、罰の悪い顔に変わった。
「悪いと思ったが、資料漁らせてもらった」
しれっととんでもないことを言った彼に固まる。え、ちょっと待って。家に持ち帰る資料だから当然個人情報などには配慮してあるけれど。見られても…まあ悪用はしないだろうしそこまで困らないけれど。何より気になるのが。
「…パスコード分かったんですね?」
顔が上げられない。誕生日は安直過ぎるから避けた。分かりにくいけど忘れない数字。思い浮かんだのが、それだった。
「俺が君に婚約を申し込んだ日だった、な?」
両手で顔を覆った。婚約パーティーの日付などは公にされているが、申し込まれた日はよほど身近な者でなければ知り得ない。ちょうどいいと思った。大切な日だから。その日を当てられてしまうなんて、恥ずかしい。
「俺も大切なパスコードはその4桁にしているから…同じだな」
茶化すような声ではなかった。目元を染めながら穏やかに笑っている。珍しい表情に釘付けになる。ときめいて胸が苦しい。
落ち着こうと資料に目を落とせば、内容が内容だけに自然とクールダウン出来た。
「今回の件は関係があると疑っているが、君の見立ては?」
「かなりの確率で繋がっていると思います」
タイミングが良過ぎた。私をあの場で連れ去ろうとしたと言うことはずっと尾けていたのだろうか。
連れ去られる直前、何か言われたような気がするが思い出せない。あの辺りの記憶はほとんど抜けたままだ。ぼんやりと考え込んでいれば、ぽそりと零された。
「相談してくれなかったな」
「拗ねてます…?」
「ああ」
不服そうに眉を歪める姿に、また何やらときめく。落ち着け自分。惚れた方が負けって真理だと思う。今日だけでも心臓が忙しなく働いているのがわかる。ときめき過ぎて心不全とか、ならないよね? 恥ずかし過ぎる。
「本当はしたかったんですよ。いつもならあなたを頼れるのに。ちょっと話しかけづらくて抱え込んでしまいました」
言い訳のようになってしまった。
「殿下も調べていると聞いたが?」
「協力を仰ぎました。一令嬢には調査をする術が限られているので」
「王族を使うなんて…」
「ダメでした?」
「最高だ」
もっと使ってやれ、と悪い顔で笑われて力が抜ける。ここの二人の関係はいまいち掴めない。仲はよくはないが、いい意味で遠慮がない。
まだ懸念段階だけど聞いてほしいことがある。ずっと考えていたことを打ち明けるなら、今かな。彼から冷静に判断してくれると思うから。
「私体動かせない間ずっと考えていたんですが…もしかしたら大変な思い違いをしているんじゃないかと思うんです」




