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青天の霹靂

誰かに相談したかったが、出来るわけもない。友人にうっかり漏らして噂が広がっても面倒だし、こんなことを打ち明けられるような親密な人もいない。


殿下の顔も浮かんだが、さすがにここまで付き合わせるわけにはいかない。

考え込むとなぜかそわそわとして落ち着かない。婚約者と話をしなければならないとは分かっているが、とりあえず冷静にならないと顔も見れる気がしなかった。

人目を避けて街に出る。やっと息が出来る気がした。


噛み付かれた首に自然と手が向かう。

吐息が感じられる距離だった。唇が離れていくときの何とも言えない甘い余韻を思い出した。あれはきっと快感と名のつくもののはず。顔がどんどん熱くなっていく。


嫉妬ゆえだと言われたがなぜあんな凶行に走ったかに関してはよく分かっていなかった。

弟は何やら察しがついたようだったが、教えてくれない。私が気づかなければ意味がないと、大人びた笑みで言われた。

いつの間にあんなに大人になったのだろう。寂寥感と、少しの喜び。


善は急げと気になる少女がいる伯爵家に縁を繋いだが、上手くやっているだろうか。手紙のやり取りをしているとの侍女からのタレコミがあったからそれなりに仲良くしているとは思うけれど。もしかしたら私たちよりも上手く言ってるかもしれない。


人との仲を築くのは割りかし得意だけど、恋愛は別物だと初めて知った。



領内の市場に紛れ込んで、品物を眺める。市場の活気が好きだった。人がイキイキと暮らしていて、喧騒が心地いい。この町が好きだった。


町娘として紛れ込めそうなワンピースを着てきたから"私"だとは思われないだろう。昔から度々降りて来ていたから抜け道なんてお手の物だ。顔見知りに声を掛けられて、せっかくなのでいくつかお土産を見繕うことにした。


現実逃避にしかならないと言うことは十分理解していた。それでも逃げたくなる時は来る。向き合わなければならない。ただでさえ、今回の顛末で悪いのは私だから。


街の中央の噴水の縁に座り込む。水遊びをしていた子供たちの声はもうなくなっていた。茜色の空を眺めて、ぼんやりする。



(このまま帰らなかったらどうなるだろうか)



ふとそんなことを考えて頭を振る。前向きが取り柄なのに一度悪いことを考えると中々抜け出せなくなってしまう。いつもはウィルや姉に相談していたが、今回は出来そうにない。せっかく気分転換に来ていたのに、また後ろ向きに戻ってしまった。


さすがに帰らないといけないと思い、立ち上がる。少しぼんやりとしたまま足を進めた。

そんなことを思っていたから罰が当たったのだろうか。路地裏から来た人に気付かなかった。連れ込まれて口にハンカチを当てられ、意識が遠のく。



(狙われていたんだった。しくじった)


持っていた紙袋が落ちる。音を立てて落ちるが、街の喧騒の中では不審には思われない。それでも誰かが攫われたことを示すには十分だろう。このままでは私には繋がらない。咄嗟に踵を蹴って靴を見えない場所に蹴り飛ばす。誰かが見つけてくれれば良い。


記憶がはっきりしていたのはここまでだ。何やら呟く声が聞こえた気がする。








何かに揺られていた。


最後に覚えているのは急ブレーキのけたたましい高音。ぶつかる衝撃。上から降って来た無象の荷物。


それ以外のことは何もわからなかった。


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