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不本意な同盟

朝日の中、ソファで目覚めて頭を抱えた。

男女過ちなんて犯してはいないが、冷静に考えれば昨日やらかしたこと全てが過ちだった。


ちらりと横を見れば同じように顔を覆っている男がいる。うめき声をあげているのは二日酔いのせいか。

頭が痛くなるので考えたくないが、彼だって私と同じくらい醜態を晒していた。

ここ暫くは強請るネタには困らないだろう。最も私も右に同じなのでするつもりはないが。


王族専用の部屋で起きた事を見聞きする手段があるわけないので、外に漏れることはないと分かっている。私と殿下が漏らさない限りは。


やってはいけないことだと反省はしているが、後悔はしていない。お酒が残り少しだるさはあるが、気分はすっきりとしていた。久しぶりに清々しい心持ちだ。


失恋が人を強くするとは誰の言葉だっただろうか。

強くなりたいと切に願う。





「どうするんだ?」

「あの二人が両思いなら私がウィルの婚約者の立場に縋り付く必要はないと思いました。

所詮、家と家との結びつきの問題なんだから私である必然がない」


ここの部屋に入ってきた時は衝動で婚約解消と口走ったけれど、現実的な話にする覚悟はできた。

胸は未だにキリキリと痛むけれど、腹は据わった。女は度胸だから。


「男は星の数だけいるって励ましたのは私ですから。探さないといけないのは憂鬱ですけども」

「誰か紹介してやろうか?」

「たとえば?」


自分で言ったくせに思い浮かばなかったのだろう。当然と言っちゃ当然だ。

古くからの友人はみな王都を離れている。まさか彼らを私に紹介することもあるまい。


「弟、とか?」


迷いながら口にした言葉は、冗談でも出していい人間ではなかった。

私は一瞬息を止めそうになったが、何てこともないように流して返す。気に留めた瞬間泥沼だ。王位継承問題に巻き込まれたくもない。


「王子妃かあ…面倒だから熨斗付けてお返しします」

「そう言ってやるなよ」


公爵夫人になろうがあんまり面倒は変わらないだろう、と付け足されて頷きそうにはなる。

いや、やっぱり重みは全然違う。

否定をしようとしたが、真剣な目で見据えられて少し構える。威圧感が部屋を占める。



(分かってるから言ってくれるな)



「俺の兄弟がお前を嫁にするんだったら、そいつが次期国王陛下になるだろうな」



(やっぱり念を押してくるか)



姉はもう王族には嫁がないだろう。

王妃になり得る能力があって一番家柄が良い未婚女性は私だ。

わざわざ戦いの火種になりに行くほど刹那的な生き方はしていない。抜け道はあれどそこまでの危険を冒してまで嫁ぎたい相手ではない。


この男の敵になるつもりもなかった。とはいえ味方になるつもりも更々ない。


無垢な笑みを意識して作る。何も知りませんと全身でアピールをする。


「じゃあお断りしなきゃいけませんね」

「え?」


「あなたまだ諦めていないのでしょう?」


静かな声で問いかける。


「それは王位か? それともあの子のことか?」

「どちらもです」

「ああ」


そこで空気が緩んだ。場所を支配する力はさすがと言うしかない。


「いざとなったらもらってやるよ」

「嫌よ。傷の舐め合いは御免ですもの」

「あーあ、リアに会いたい」

「ウィルが恋しい」


「本当に失恋同盟だな」

「不本意ですわ!!!」





生徒会室に戻り、身支度を整えた後もう一度先程の部屋に訪れた。迷惑をかけた自覚はあるので深々とお礼をすれば、笑って流される。

こういう懐の広さをアピールすればもっと人が集まってくると思うのだけど。

イメージ戦略を一新するべきじゃないか。

側近でもない私が考えてもどうしようもない。


まあ王子殿下にここまで迷惑を掛けられる人もいないか。国の最高権力者の一人だものね。


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