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茶番

近頃婚約者に悪癖が出来た。それはパーティーでのとある一幕がきっかけだった。まさかそれに味を占めるとは思わなかったけど、なあ。


無表情の婚約者が美しい女性に捕まっている。柳腰で腕に絡みついているところを見ればそれなりにやり手なのだろう。

若くして公爵を継ぎ、宮廷では司法の重要な役職についている出世頭である。眉目秀麗であり、更に国内有数の資産を有している。

条件はピカイチとは言え、よくあの鉄面皮の状態で絡んでいけると逆に感心してしまう。視線なんて絶対零度だろうに。切長で鼻筋の通った美形だからこそ表情が抜け落ちていると迫力がある。

私だったら心が折れる。


「また狙われているわよ」

「じゃあ行ってきます」


ウィル、と呼び捨てにしながら背中から抱き着く。甘えるように頬を寄せながら、顔が見えるように体を傾ける。振り返った彼を覗き込むようにして笑い掛ければ、決着はすぐだった。

掴まれていた腕を振り解き、体を翻して正面から抱き寄せられる。ピクリとも動かなかった表情が和らぎ、目には優しさが灯る。


そのあまりの変貌に女性は目を見開いた後、退散していった。ふっ、造作もない。

離れようとしても腰に回った手は解放してくれない。目が笑っている。何度も繰り返している茶番をお気に召しているらしい。


「あなた、あの状況を楽しんでいたでしょう?」

「君がどうやって助けてくれるか、楽しみにしていた」

「もう、今度は放っておきますよ」


以前は問答無用で振り払っていたらしい。彼の友人には放っておけばいいと言われるが、甘えられているのが少し嬉しいと思ってしまっている。どうなのとも思うけど、何でもできる人だから嬉しいの方が勝るのだ。




ほぼ私のエスコートから離れることのない彼だが、さすがに仕事の話の時に私を連れて行くことはない。同派閥の方々に連れられてシガールームに向かう際、後ろ髪を引かれるように私を見ていたがヒラヒラと手を振った。


王家主催のパーティーはクラシカルなドレスで出ているが、個人の家のパーティーこそ腕の見せ所だ。



今回の装いは、公爵家の新たな絹産業を流行らせる為にふんだんに盛り込んできたものだった。


今までになかった淡い青を鮮やかに染め上げている。色もさることながら、シルクオーガンジーはチュールとは異なり柔らかい印象を引き出している。エンパイアラインは胸下からストンと落ちたボリュームレスのラインが特徴的。


生地に焦点を当てたかったため、胸元の刺繍以外はシンプルに仕立てた。髪型は緩くシニヨンにした後、敢えて宝石ではなく花冠のヘッドレストを使った。

そのおかげでシンプルだけどクールになり過ぎず、愛らしい出来上がりになっている。次代のデビュタントの流行になればいい。

一風変わったドレスはかなり人目を引いた。

コルセットやパニエを取り去り、ハイウエストで体を締め付けないデザイン。ウエストからヒップの体のラインが見えづらくなっているから、若者以外も向いている。


歩くたびに裾が舞い、ドレスラインが綺麗に見えるように計算した。少しスカートはアシンメトリーに生地を重ねているおかげで濃淡が出ている。

デザイナーとああでもないこうでもないとかなり意見をぶつけ合わせた結果満足のいく仕上がりになった。



動きやすく、動くことで色々な広がりを見せてくれる魅力的なドレスのため、広告塔になるために誘われるがままにダンスを踊っている。

視線を集め続けることに成功し、色々な方に話しかけられた。喜んで生地とドレスの形の説明をする。売り出しに成功するか否かは、はじめの一歩が肝要だ。異色なドレスではあるが、概ね好感触だった。


が、そうも言ってられない輩もいるわけで。


「あら、乳臭い小娘がいるわ」

「ねえ。忙しいあの方を振り回してパーティーで遊びまわってるって言うじゃない?」

「幼稚過ぎて相応しくないと思いません?」

「何であの方はこんなのを選んだのかしら」


愛らしさを全面に出したせいで、舐められるのは良くはない。

久しぶりの戦いに口角が上がるのが分かった。これだから好戦的だと言われるのか。

どこからともなく視線が突き刺さってくる。マダム達の視線だ。今までの印象は悪くはないが、ここで彼女たちを卸せなければ舐められて終わってしまう。

私の脳内で戦いのゴングが鳴り響いた。


なるほど。珍しいと思ったが、婚約者がいなくなったのは品定めの意味もあるのね。


標的は4名。中心人物は名門伯爵家の御令嬢。取り巻きはそこまで力はない。伯爵の部下の娘達ね。おべっか使うのも良いけど喧嘩する相手は選ばないと。諫めることが出来なければ一緒に落ちて行くしかないと言うのに。


「ご機嫌よう」


柔らかな笑みを心掛けて、挨拶をする。弟には獲物を狙う目をしないように気をつけるように言われている。そんな目をしているつもりはないけれど。


聞こえるように陰口を言っている癖に、こちらから挨拶されたら怯むのはさすがに小者過ぎる。生憎陰口に泣くような可愛い性格も、育て方もされていない。


さて、どう出るべきか。


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