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猫の手も借りたい

王立学園は王都の端に位置するため、都会の喧騒からは離れ広大な土地を有している。

基本全寮制で色々な軋轢を緩和する為、身分でゴールド、シルバー、ブロンズと分かれている。部屋のグレードは異なるが、その分身分で支払っている補助金の額も異なっている。

グラウンドや薬草園、騎士科のための武道場、農学科のためのビニールハウスなどなど。


生徒会室は授業などで使う建物から少し離れた別棟の2階にある。

同じ階に王族専用の執務室もあった。生徒会役員を王族が兼ねることが多く、移動の短縮化や警備の効率化など実利を取ってその間取りになっているようだ。

いくら信頼のおける役員だとしても機密情報の書類を生徒会室に置いておくわけにもいかないだろう。


実は生徒会室と執務室は移動できる扉がある。殿下はそれを使っていたようなのだ。

その扉に気付いたのは本当に偶然だった。

一見わかりづらいが本棚をよくよく観察すると相応しくない本がある。それを引き抜くとカタンと音がした。本棚が軋む音を不思議に思い端を叩いたらくるりと本棚が回る。

その先には存在感のある年代物の扉があった。

好奇心は猫をも殺すという諺を知っていたけれど気になって扉を開けてしまったのだ。


開けた先には何もない空間が広がっている。少し拍子抜けした。部屋と部屋の間にこんな空間があるとは思わなかったが驚くほどまではいかない。

視界の先には今度は壁半分くらいの扉があった。金属製の分厚そうな扉だ。幅は広め。船舶の舵のようなハンドルが付いていた。回してくれと言わんばかりに佇んでいる。


すぐそばは煉瓦で覆われ、薪が焚べられている。暖炉? 足を踏み入れ、ジャリッと音が鳴る。

その時部屋の先から「誰だ」と鋭い声がした。ひどく警戒していることが伝わってくる声色だが、少し聞き覚えがあった。


少し迷って、動くのを止める。「そこにいるのは分かっている。出てこい」とはっきりと警告してくる。私はこの声を知っていた。危ない橋を渡っていることに気が付いたが、もう後戻りは出来ない。ゆっくりと暖炉を抜けて部屋に足を踏み入れた。


私を視界に入れて警戒したのちに呆気に取られた殿下の顔があった。いや、もう殿下とは呼べないから、リカルドさまと呼ぶべきか。


半分引き抜いていた刀を戻すと、机の上に置いた。そう言えば閉めていなかったとぼやく彼を私も呆然と見ていた。


本来なら開かずの扉のはずであったらしい。

王族しか開けられないように通常はロックを掛けている。

あの騒動があって生徒会室ならびに王族専用執務室は閉鎖され、証拠品として全ての品が押収された。

彼は卒業式以来出入りすることがなかったために封じ忘れてしまったようだ。


生徒会室も学園の歴史を感じる空間だが、どちらかと言えば質実剛健な内装だ。こちらのリカルドさまの部屋は豪華絢爛と言っても差し障りがないほど立派な部屋だった。



この出来事がなければ、私が姉の元婚約者と関わることはなかっただろう。

彼の顔を数秒眺めたのち、私はあることを閃いて自室に戻った。待っててくださいね、と告げることを忘れずに。



生徒会室から分厚いファイルを持って舞い戻った。もしかしたら、部屋を閉められているかもしれないと考えたけどそんなことはなかったようだ。


「この書類の作り方がわからないんです」と泣きついた私に彼は終始主導権を握られていた。

さすが前生徒会長、どの種類もしっかり把握していてアドバイスも的確だった。

生徒会には前年度の役員は庶務と補佐係しか残らなかったため、判断がつかないことも多かった。昨年の資料を探し、今年度のケースと照らし合わせるがかなり時間がかかってしまっていた。

時間もないのに上手く進まずかなり困っていたのだ。

あの時本棚に目がいったのはまさに天啓のようなものだったに違いない。


自分達の尻拭いをさせている私に罪悪感を感じたのか、その扉が閉ざされることはなかった。入る前にノックをして、機密を扱っているときは入室禁止とは言われたものの、また困った時は聞きにきていいと言われたのだ。


そうは言われたものの、関係性も関係性なので扉を叩くような事態にはならないと高を括っていた。

しかし、学園長からむちゃぶりをされた結果、その数日後に再び泣きつくことになるとは想像もしていなかった。


それが何度も続けば、遠慮もなくなるもので扉を叩くことに躊躇はなくなっていた。


何がそうなったのか、締切に追い詰められて行き詰まるとお隣にリフレッシュするようにもなった。

決して、美味しいお茶菓子に釣られたわけではない。

さすが王族専用の執務室よね。お茶菓子も一級品。

彼は庶民扱いされるのではなかったのかと疑問に思うが、王子としての仕事もこなしているようなのでその対価なのだろうか。

まだリカルドさまの弟たちは学園入学前なので出来ないことは結構ある。いつ来ても書類が山積みなので、大変そうだ。猫の手も借りたいほど忙しいのだろう。

色々気になることはあるが、余計な詮索はよろしくない。


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