初めての食事会
翌日、用意された礼服に袖を通し・・・いや、着るって行為をしないから袖は通してないな。
なんだろう、まあ、装着した。
「普段よりちょっと装飾が多いんだね。」
「そうね!フォーマルな場では身分を示す服じゃないといけないの!」
身分を示す・・・?胸元に銀と金で縫われた紋章がそれなのかな。
誰かに確認する間もなく、レアに呼ばれる。
「トーヤ様、皆様お揃いです。」
「ああ、わかったよレア。このまま転移していいの?」
「いや、今回は会場上空から降り立って貰う、ハーキル様のお言いつけだ。」
え、なにそれ嫌だ。
「なんでそんな事を・・・?」
「領主の宿命である、とのことでした。申し訳有りませんがトーヤ様、転送致しますね。」
視界が切り変わり、当たり一面の雲につつまれる。
なにもみえないぞ・・・?
そうおもっていると、足元からコームの声が聞こえてきた。
「それでハ!この旅にて皆様を導ク、アイビーネ家の嫡男であらせられル、トーヤ様のご入場でス!!」
誰かの魔法なんだろう。
ゆっくりと体の高度が下がって行くのに合わせ、雲が晴れ、会場の全景が見えてくる。
あ、これ前のVRで見た立食パーティの会場と同じかな。
などと思った矢先、会場中から響く大きな拍手に包まれる。
・・・恥ずかしいなこれ。皆を見渡せる位置で下降が止まる。
宙に浮いたまま、予め脳内に渡されていた原稿を読み上げる。
「紹介に預かったトーヤだ。此度は、長らく我が領に献身的に仕えてきた、諸君らと共にこの任につけたこと、嬉しく思う。諸君らの才覚を存分に発揮する場は、私が整えよう。是非、今後の我が領の発展のために、互いの力を知り、互いの人柄を知り、より有機的な領地提携の足がかりになれば幸いだ。」
液体の注がれたグラスが手元に現れる。それで、次は乾杯の音頭を取るんだったな。
ええと、乾杯のタイミングに合わせてグラスに魔力を込める・・・と。
「それでは諸君らとの出会えた、この佳き日を迎えられた事を陛下に感謝を示す。乾杯!」
カッっとグラスが輝き、会場が光りに包まれた。
まぶしっ・・・ほんとにこれであってた・・・何か間違ったかもしれない?
暫くの静寂は、しばらくすると困惑するようなざわつきへと変わった。
さて、どうしたものか。下手に動けずに固まっていると、コームが片手を上げ場を制してくれる。
「さテ、此度のリンドーリネの反逆を制したのがトーヤ様である事、これで皆も疑いようが無くなった事かと思ウ。是非、親睦を深めていくと良イ。」
んん・・・?俺の魔力量のアピールだったんだろうか?。
ああー、俺が解決したっていうのが、プロパガンダか何かだと思ってる層もいるってことかな。
実際、父が深手を負わせてたのもあるから、俺一人で解決したわけでは全然ないけれど。
でもまあ、将来こういう積み重ねが人心の掌握に繋がるんだろうし、コームに任せておくかあ。
正直なところ、かなり恥ずかしかったけれど。慣れないとなあ。
『お疲れ様!トーヤ!後は好きに飲んだり食べたり話したりしてればいいよ!』
そうだな。よし、切り替えよう。
俺からは話しかけちゃダメらしいから、まずは適当に食べるか。
グラスはなんか消え去っちゃったし。飲み物は後で貰えばいいかな。
会場を見渡すと、ふと、一つの料理が目にとまる。
穀物の白い粒を握り固め、三角形にしたそれ。
そうか、牛丼やざるうどんがあるんだ。おにぎりもあるよな。
いやあ、久しぶりだなあ。なんとなくおにぎりって貴族感無いから、頼みづらかったんだ。
こんな格式高そうな場でも出せるってことは、この時代では高級品なのかもな。
そう思いながら齧り付く。
・・・あっまぁ。
え?なにこれ?柔らかい砂糖の塊?
おいしくなくはないけれど、ひどく裏切られた気分だ。
盛り付けている皿の横に、「至甘米10割使用」とか書いてある。
(チル、至甘米ってなに・・・?)
『お砂糖みたいに甘いお米ね!トーヤパパのとこの名産品の一つで、帝国最高ランクのお米なんだって!』
ええ・・・うちの特産なら、食べないとだめかな。
うわあ、あっまぁ。
・・・チルはある程度俺の好み把握してるから、これ出してこなかったんだなあ。
「おや、トーヤ殿は甘味はお嫌いかな。」
甘すぎるおにぎりに悪戦苦闘していると、金髪金眼のエルフのお姉さんが声をかけてくる。
ドレスにしては、中性的にみえる格好だけど、それが長身を引き立てているように見える。
ええと、このかっこいい人は・・・ミナーヴァ=アカイア、25歳だったな。
代々、天領の警備隊の剣術指南役を務めている家の三女で、うちの伯爵クラスの中では一番偉い、と名簿には書いていた。
『トーヤ、敬語はだめよ。ほどほどに偉そうにしてね!』
ほどほどって、難しいな。まあ、普通に話してみよう。
「いやあ、思っていた味と違ってね。甘くない米が好きなんだよ。」
「ハハハ。拙者も握り飯にするなら甘くない米が好ましいな。」
まさかの拙者・・・でも語尾はござるじゃないのか。
しかし、よかった。この時代でも普通の米がいいっていう感性はあるのか。
「しかし、先の戦は見事だった。久しぶりに胸が踊ったものだ。まさか全員抜きとは。」
模擬戦見ててくれたのか、細身からは想像できないけれど、この人も武人なんだろうなあ。
「ああ、ありがとう。でも上には上がいるから、慢心はしていられないよ。」
「ハハハ、その年齢で既に自制なさるか。末恐ろしい方だ。であれば、どうだろう。道中、空いた時間で良いのだが、私と手合わせいただけないだろうか。武芸に関しては陛下に見初められる程だからな、なかなかのものと自負している。トーヤ殿の武力の向上に、お役に立てるかと思う。」
おお、天領の剣術指南役と戦う機会があるってありがたいな。
でも、タダってのも悪いか、何を対価に渡せばいいか・・・聞いてみるか。
「こちらからお願いしたいくらいだけれど、流石に無料で教えを乞うのは申し訳ないよ。何か見返りに俺に出来ることはあるかい。」
「それなら、拙者をトーヤ殿の妾に選んでくれないか。まあ、この貧相な体ではあるが、夜伽の相手も極力努めようではないか。どうだろう?」
いや、どうだろうと言われましても。




