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6手目:

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『お疲れさまでしたカツミ殿、本日分は終了となります。明日は8時にご自宅にお邪魔させていただきますぞ。』


通信越しに総会長が今日の収録の終わりを告げる。

VRとは言え、騎士としてのお作法とやらの練習は酷く疲れる。慣れねえなあ。


「了解っす、明日は・・・あー、なんでしたっけね。」


ここ数日の密着収録の疲れからか、頭がまわらん事が増えたな。

そう思っていると、総会長が笑顔で答えてくれる。


『明日は現実側での食事を予定しております。今日の昼に、消化器の活性化手術が完了したと、報告を受けましたのでな。これで、カツミ殿も実物の食事を摂取することができますぞ。』


4層民の俺は、生まれてこの方現実側で食事をとったことがない。

住居や義手に接続さえしていれば、栄養素は血管に流しこまれるからだ。

うまいもん食いたいんなら、VRの中で好きなだけ食えばいいしな。


「あまり気乗りはしませんがね。まあ、しょうがないと割り切ってはいますが。」


『流石に騎士ともなると、付き合いや格に合わせた生活を送らねばなりませんからなあ。手術についてはご安心ください!私もここで消化器系の活性化を行ったのですが、まもなく大還暦を迎えますが現実側の食事でも困っておりませんぞ!』


大還暦ってーと120歳か、黒髪に肌もテカテカしてるからもうちょっと下だと思ってたんだが。

流石は総会長、1層民様は違うねぇ・・・いい生活してんだろな。

まあ、俺も騎士爵。当代限りだが、1層民だ。思えば遠くにきたもんだなあ。


「そういやあ、改めて礼を言わせて下さい。助かりましたよ、家令様相手に時間稼いで貰って。」


『なんのなんの、家令殿もまさか、カツミ殿が先月まで4層に居たとは思わなかったのでしょうな。アレ程の才を示す方は、普通はそうそう埋もれておりませんから。』


領主様に次いで、力を持ってるらしい家令様相手に、「1層民の常識については自腹で教えるから半年くれ。」だなんて交渉できる度胸はすげえもんだ。

結局、それ程はいらんだろうと言いくるめられて、2ヶ月しか確保できなかったが。

それでも、1週間で終わるのと比べりゃ大分楽になる。

しかしまあ、埋もれてたってのはちと落ち込むな。


「腕を褒められんのは嬉しいんですが、それで売れないってことは、俺の動画を作る力が劣ってたって現実が見えちまいますね。」


『何をおっしゃいますやら。突出した才を一つ持てただけでもお羨ましい話です。なに、動画についてはお任せを。優良な作品を適切に宣伝すれば、自然と評価されるものです。』


俺なんかの密着収録なんかして、何が面白いのかねえ・・・

正直なところ、まったく自信がもてん。

だが、総会長は何か確信を持ってるみたいだな。


『カツミ殿の成り上がりの物語は、良いコンテンツになりますからな。我々としても、7日では足りないと考えていたのですよ。時間に余裕ができた分、キッチリ収録させていただきますぞ。』


ちゃっかりしてんなあ。まあ、俺が助かったのは事実だ。

密着収録とは言っても、日に8時間程度だしな。

常時撮影しっぱなしだった頃と比べりゃ、気の抜ける時間がある分楽なもんだ。


「ええ、それくらいの義理は果たしますよ。しかし、現実側でのメシねえ・・・一体何を食えばいいんです?」


『こちらからの指定は御座いませんとも。カツミ様の召し上がりたいものをどうぞ。費用はもちろん弊社が負担致しますので、ご遠慮無く。』


さて、そう言われてもな・・・

確かに、現実側の食事っつったら金持ちの道楽だ。贅沢な行為だってのはわかる。

・・・でもなあ、別にVRでいいしなあ。


「つうか、こんなん面白くなるんですかね?俺が飯食うだけでしょう?」


『いえいえ、民衆が求めるものは、己の力で4層から成り上がった男の素顔です。どんな人柄なのか、どんな生活を送っているのか、どんな暮らしをしているのかを知りたいのですよ。食事についても、その一環というわけですな。』


生まれてこの方、ゲーム一筋だったからな。

正直、そういうコンテンツに興味がなかったからさっぱりわからん。

だがまあ、「仮想現実世界で、人間が考え得るあらゆる体験が可能。」ってのがウリのゲームで、稼ぎに稼いで2層から1層に上がった男の話だ。わからんが真実なんだろうな。


「そんなもんですかね。まあ、俺にそっちの才が無いのはわかってるんだ、お任せします。」


『信頼いただけて幸いでございますぞ。それでは、長らくお付き合いいただき有難うございました、明日までごゆっくりお休み下さい。』



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通話を切断する。

カツミ殿は、ぶっきらぼうだが実直で好感が持てるものだ。

それに、言葉遣いについてはあのままで良いと、家令様よりお達しを頂いている以上、何かお考えがあるのだろう。


「総会長、本日もお疲れ様でした。一昨日分は編集を終えたので、アップロードしております。」


「わかった、ありがとう。本日分の編集についても、焦らなくて良いので品質を重視するよう伝えておいてくれ。・・・それで、どうだね?これまでの伸びは。」


「先程、初日分が5兆再生を超えました。それと、投資を申し出てきた貴種様が二人いらっしゃいます。」


まあ、金の匂いを嗅ぎつけてくる頃だろうな。

共に男爵か、家令様の息がかかっている事をほのめかせば手を引くだろう。


「私が対処しよう。予定の調整はたのんだよ。」


家令様は、貴種の手が回っていない存在が必要だそうで、

成し遂げた暁には、私を男爵へと引き上げてくださるとのことだった。


破格の条件の影に、何かが隠されている気がしてならない。

先々月のトミーリの失脚に続き、リンドーリグの反乱と、物騒な話が続いているからだろうか。


カツミ殿も巻き込まれなければ良いのだが。


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