祖父への興味
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「トーヤ様!もう一本お願いいたします!」
「・・・レア、ここまでだ。トーヤはカリス伯との面談が有るんだぞ。準備をしないと。」
最近、レアがどんどん体育会系な思考になってきているな・・・
妖精を得て、中距離戦で出来る幅がかなり広がったみたいだし、それが楽しいんだろう。
指摘を受け、ハッとした表情でレアが返す。
「申し訳有りません、トーヤ様。お付き合いいただき有難うございました。」
「うん、こっちこそありがとう、お疲れ様。」そう返事を返し、VRから抜ける。
最近少し慣れてきて、VRと現実では少しだけ魔力の流れが違う事に気づいた。
感覚的なものだけれど、アナログ的な現実に対して、デジタル的なVRっていう差を感じる。
当たり前といえば当たり前の違いなんだけれど、それがわかった時はちょっと嬉しかった。
未来世界も万能ではなかったのだ!と、なんとなく拭えずに居た未来への敗北感に一矢報いた気分だった。
ただの自己満足なんだけれど。
「それでは、失礼致します。」「お疲れ、後でな。」
双子と妖精達が消える、応接間へ転移したのだろう。
しかし、お爺様との面談、かあ。
基礎知識で埋め込まれた記憶では、精悍だが軽い感じの父より、厳格そうなリンドに近い顔立ちをしている。
領主時代には、領主主導の交通網に関する事業で、領地を富ませてきた人物。らしい。
「おじいちゃん、たのしみだねー!」
楽しみ、よりかは緊張するな・・・
「大丈夫かな・・・俺、こっちきて大した礼儀作法学んでないんだけど。」
ここ数日戦闘訓練に明け暮れていて、大した作法を学んでいない。
特殊な言葉遣いとかはないらしいけれど、立ち居振る舞いとか問題無いんだろうか。
俺の心配そうな雰囲気に気づいたのか、チルが後頭部に飛びついてきて、フォローしてくれる。
「大丈夫よ!前世の影響なのかな?トーヤって敬語は普通に使えるし、動きも綺麗だから!」
「そっか、ありがとう。」
チルが大丈夫って言ってくれているんだし、それを信頼しよう。
あとは、妙なことを口走らないように気をつければいいかな。
「ぬふふ。トーヤは心配しすぎなのよ!相手はトーヤのおじいちゃんなんだから、自然にしてあげたほうがいいよ!」
・・・それもそうか。領主だから、大貴族だからって力が入ってたのかも。
冷静に考えてみれば、今のままでいいから、父上もコームもそこら辺の教育をしなかったんだろうし。
「確かにね、もうちょっと気楽にするよ。」
抱きつく位置を頭から腕に変え、頭をグリグリしはじめたチル。
その頭をお礼代わりに撫でてから、身なりを整える。
整えると言っても、前世のように鏡をみたり、ブラシでホコリを落としたり、アイロンかけたりしない。
今着ている礼服、軽く魔力を通せば勝手にしわがとれ、汚れが落ち、ちょっとした傷なら修復する。
ちょっとした攻撃や妨害魔法なら弾く効果もあるそうだ。昔着ていた安物のスーツみたいな、動きにくさもない。
いろいろ楽だなあ、未来世界。
あれ、でもまてよ、勝手に綺麗になるのって服だけか・・・?
「今更なんだけどチル、もしかして俺の体って汚れない?」
「うん、そうだよー!代謝はしてるけれど、それは血液に乗せて私が濾過してるから、老廃物はでないね!ホコリとかでの汚れは定期的に私が除去してるよ!」
どうりで、俺がお風呂に入りたいと言う度に、コウもレアも不思議そうにするわけだ。
いや、でもなあ。汚れを洗う以外にもいいこと有ると思うんだけどなあ、お風呂。
それに、なんとなく不潔なような気がして、2日も入れないともう落ち着かない。
「そうなんだ、ありがとうね。しかし、そうなると、お風呂入りたがる俺って変かな?」
「うーん。習慣としてお風呂入る人って、確かにあまり多くないみたいね!でも、確かおじいちゃんお風呂好きなはずよ?」
おお、話が合いそう。顔合わせの道中でいい温泉教えてもらおう。
「陞天するに至った功績もねー、長距離転移網の整備と、隣接次元との連携による領内の移動経路を効率化して、自領のみならず、隣接次元の流通効率を格段に引き上げ、経済発展に寄与した!っていうのが大きかったらしいんだけど、それって、僻地の温泉巡りをしやすくしたかったからなんだって!」
・・・俺の中の厳格な祖父イメージが崩れそうになる。
いや、でも、趣味と実益は兼ねているわけだし、それで領地が潤ってるなら名君なんじゃ?
判断が難しいな。
「しかし、そんな大事業企画できるってのはやっぱりすごいよね。領地の予算でたりるような規模なの?」
「全然無理よ!でも、いろんな領地の領主や有力者が協力してくれたらしいの。」
「流通が整って利益があるのはどこも同じだから、ってことかあ。」
交渉上手でもあったのかな。そこらへんも聞いてみたいな。
「そうみたい!皆温泉好きなのね!」
「・・・いや、そっちじゃなくて、自領の経済規模を上げたかったからじゃないの?」
でもそうか、見方を変えると、お爺様は趣味の為によその領地まで巻き込んだ事になるか。
うーん、やっぱり判断が難しいなあ。
そうやって、思案している間に時間がきてしまったようで、レアから通信が入る。
『ご歓談中失礼します、トーヤ様。カリス伯、ジードリグ様が間もなく到着致しますので、応接間へ移っていただけますか。』
「ああ、わかったよ。」
さて、移動するか。まあ、疑問は様子を見ながら聞いてみればいいだろう。
そう考えつつ、短距離転移を使い、自室の青空空間から応接間へと移動した。




