預言
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「父上、管理者の兆候がでました。」
「・・・確かなのであるな。ハーキル。」
かつての領主であった老人は、その任を継いだ息子へと重苦しく告げる。
「そうと見て間違い無さそうです。どうやら、我らの代で決着を付ける事になりますね・・・爺、詳細を。」
「先のリンドーリグの反乱デ、トーヤ様より回収した腕輪ですガ、管理者の権能で作成されていましタ。左手を失ったトーヤ様の状態も合致します。カーノスの預言でいうところノ、時期とやらが来たのでしょウ。」
家令からの報告を聞き、軽いため息をついた老人の目つきが、徐々に鋭くなる。
「情報の確度については、どうなのであるか?」
「阿迦奢に接続した結果でス。」
その報告を持って、確定の情報として思考をまとめる。
家令の権能への絶対の信頼が伺えた。
「そうか、だが陛下には確定の情報として伝えるべきではなかろうな。奴の最終的な狙いが権限の奪還であるならば、狙われるのは陛下だ。コームよ、時期を見て、守りを固めるよう進言を頼んでも良いだろうか。」
「畏まりましタ。陛下の持つ権能を回収でもされたら事ですからネ。」
遠い遠い祖先、初代領主トシヤ=アイビーネが皇帝や精霊とともに管理者を打ち破ってから長い時間が過ぎた。
その間、アイビーネの家には3万年に渡り、代々託されてきた預言がある。
古びた装置から映し出された立体映像から、老いた初代当主が語りかける。
『俺がカーノスから預かった言葉を託す。この情報はコームが管理し、直系の領主以外には漏らさないように厳重に管理してくれ。』
話す内容を確認するためか、少し間を開けて初代当主が続ける。
『管理者は消滅の間際に自己を複製した事を確認した。いずれ混沌を産む事となるだろう。複製先の年代や次元は不明だが、時期を同じくして、管理者の影響で片腕を失う嫡子が現れると聞いている。その兆候に備えてくれ。管理者は力を蓄え権限の奪還を計るだろう。それを許せば、また世界を憎しみが包む事となる・・・悪いな、俺らの不始末を、まだ生まれても居ないお前らに押し付ける事になって。だが、世界の安定の為だ、頼む。』
ザッと音を立てて映像が消える。
老人は、映像を見る度に思い出す。
300年程前に当主を引き継いで、初めてこの映像を見た当時、抱いた思い。
世界を救った英雄から、世界の命運を守る重い使命。
それを託すに足る人物であると、先代より認められた喜びを。
「・・・我らの代でアイビーネの悲願を達成せねばならぬ。だが、まだ知るのは我らと陛下の側近だけで良い。我らが既に兆候を掴んでいる事を、決して管理者に悟られてはならぬ。」
呼応して家令が頷く。
「左様ですネ。この日の為にこの領で備えてきたのでス。邪魔立てさせるわけにはいきませン。」
「父上がトーヤを護衛する表向きの理由は、単に護衛の強化と、元領主が同行する事による訪問予定の領地との友好関係を示す為としております。裏向きの理由としては、先の反逆による戦力の損失を補填する為に、他領の戦力の借入交渉に赴く事となったと、それぞれ情報を流しています。」
「大半の民衆は表向きの理由へ誘導して、少し調べた者は裏向きの情報に行き着くように情報を撒きまス。併せテ、目眩ましとして欺瞞情報を混じえることデ、ジード様の目的を絞らせぬように手配しまス。」
安心したように頷いた老人は、そこで思いついた事を伝える。
「真の狙いが管理者復活の兆候を探る事であると、断定さえされなければ良いのである。陞天前の道楽として、孫と共に各領を観光したいと、儂がわがままを言った、とも流しておいてよかろう。」
「ふム、ではそれも併せて流しておきましょウ。」
「真面目一辺倒だった父上から出る言葉とは思えませんから、信憑性は薄いと思いますがね。」
「ハーキル様でしたら信憑性は抜群でしたネ。」
「あーん・・・?」「この真面目な場でそんな品のなイ。」「先に仕掛けたのは爺だろうが。」
慣れたもののようで、老人は咳払いをしてこの争いを止める。
「じゃれるのは程々にしておくようにな。それでコーム、儂はいつ孫と会えば良い?」




