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敗北の捉え方

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コームの事務的な連絡の後、父が閉会のセレモニーの締めとなる演説をしている。


観客たちは大いに盛り上がっているけれど、俺自身はあまり気分は晴れない。

原因は明らかで、あの1戦の敗北が心から離れてくれない。

生まれ持った莫大な魔力と、基礎教育のお陰で得ている冷静な心が有ったから、最後に反撃に出られたけれど、実際には敗北としか思えなかった。


「とーや、ここのところずっと元気がないけれど、大丈夫?」


チルが心配そうに、俺の顔を覗き込んでくる。


結局、あのロボとの1戦から一度も負けなかったけれど、それは彼から少しだけ駆け引きを学んだお陰だ。

敗北の後、コームから聞いた事だが、あのロボ、カツミさんは俺に見せた装備しか手札は無かったらしい。

俺のこれまでの戦いを見て、動きを見極め、狙いを絞り、俺の考えを誘導して、極めて限られた手札で勝つ。


リンドとの戦いの時にアレができていれば・・・そう考え、また心にもやがかかる。


そうだ、チルには一言返しておかないと。


「俺は、自惚れていたんだなって、反省してるところなんだ。体調が悪いわけじゃないから、大丈夫だよ。」


正直、自分の力に溺れていたと思う。

少しの工夫として覚えたデコイと、魔力量に任せた加速に頼っていれば、この模擬戦では全勝できると過信してしまっていた。

そこから先の戦術を1つでも多く練っていれば、また少し違った結果に出来たかもしれない。

それに、攻撃手段を魔導刃に限られただけなのだから、その他の絡め手にも力を入れたほうが良かった。


「他の人には負けてないじゃない!それに、カツミさんって、30年くらいずーっとVRで戦ってたんだって。経験の差があるのはしょうがないと思うよ?」


30年も・・・でも、そうだろうな・・・

決め手になった、腕を斬り飛ばさせて、その飛んだ腕の魔導反応に釣ってスキを作る流れ。

あれは、その場の思いつきで出来ることじゃないと思う。

そうなるように、誘導されていたと今では思う。そこに気づいていれば・・・


「それでも、悔しいんだ。出来たことは有ったはずなのに、それに気づけなかった。」


入念に準備していたはずだし、きっと、あれ以外の流れとなっていた場合の代案もあっただろう。

・・・それらを引き出すこと無く、敗北した。それがとても悔しい。


チルが光学隠蔽をしたまま、頭を撫でてくる。

いつもと逆だな・・・


気づけば、閉会の演説は終わって、退場の時間となっていた。

結局、コームや父が何を言っていたか、聞いてなかったなあ・・・



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自室に転移すると、こぼれんばかりの笑顔のコームが待っていた。

こわい。こわすぎる。嫌な予感しかしない。


「お疲れ様でしタ、トーヤ様!無敗とハ、素晴らしい戦果でしタ!この催しを始めて13000年程になりますガ、初の快挙ですヨ!」


あれ、褒められるのか。でも、無敗ってのはおかしい。


「いや、でもカツミさんには負けたよ。無敗じゃないでしょ。」


コームが首をかしげる。俺なんか変な事言ったかな。


「あの状況、実戦でしたら適切な処置を施せばトーヤ様は死にませン。逆ニ、頭部を切り飛ばされたカツミに延命の目は有りませんヨ。まア、盛り上がるので相打ちと判定はしてはいますガ、実質的な勝利はトーヤ様でス。」


・・・そういう見方もあるのか。でも、心にモヤは残ったままだ。


「でも、圧倒的な戦力を持っていたのはこっちなのに、その戦力差をひっくり返して戦術で勝ったのはカツミさんだ。同等な条件なら負けていたかもしれない。」


コームが、諭すようにゆっくりと話す。


「トーヤ様。同等な条件なド、絶対に存在しえませン。経験、体調、武力、知識、戦場、戦況、ありとあらゆる要素が戦いには影響を及ぼしまス。今の勝った負けたに精神を左右されるよリ、次どうしたら良いかを考察なさるのがよろしイ。」


・・・反論できない。確かにそうだな、次に活かさないといけない。

落ち込んでいる時間があったら、改善しないと。


「それにカツミとハ、今後いつでも再戦出来るようになるわけですシ、思う様叩きのめしてやると良いでしょウ。」


・・・ん?

いつでも再戦ってのはなんだろう、政庁で雇ったとかかな。


「そうね!カツミさんはトーヤの騎士になるからね!戦い方いろいろ教えてもらおう?」


俺の騎士。そんなのがあるのか。

でも、そうか。あの人に護衛に就いて貰えるのなら、頼もしいかもしれない。


「あれ、でもコウとレアは?」


「コウ達は侍従ですからネ。最低限の護身は叩き込みますガ、基本の仕事は身の回りの補佐でス。やはり戦闘に関しては専門職を就けねバ。取り敢えずハ、従騎士からですがしっかり仕上ゲ、半年内で騎士に仕上げまス。」


あ、これ地獄が待ってるやつだ。

コウ達の特訓でもかなりきつかったって聞いたけど、それでも最低限だったか。

となると戦闘の専門職用の特訓って・・・


・・・頑張れ、カツミさん。



「それデ、顔合わせ迄の話ですガ、道中の供をする諸侯の嫡子との顔合わせが予定されていまス。併せテ、先方のお時間が取れ次第ですが、お爺さまとの面談を行って頂く予定でス。」

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