終局
怪物に腕を切り飛ばさせた直後に、魔導刃を格納し隠蔽を発動。
これなら、切り離された腕にだけ隠蔽がかからない。
重心を下げ、視界を失った怪物の次動作に備える・・・
切り飛ばされた俺の腕に反応してくれた!
今だ!
「上か!」防壁を上空に展開した怪物の隙を突く。
「わりぃな、下だ。」伸ばした魔導刃で胴を分断。
成功した!!やってやった!!
視界に光が満ちる。
「はっ!?」気づけば、控室に戻されていた。
総会長や技術者連中が叫んでいる。・・・何が起こった?
「素晴らしい、素晴らしい戦いでしたカツミ殿ぉ!」「いま一歩、いま一歩のところで!」「だが一太刀どころか相打ちだぞ!とんでもない快挙だろう!」
何泣いてんだ総会長・・・
ざわついている中から聞こえてくる、いま一歩、相打ちという声・・・そして控室に戻され、椅子に座っている俺。
つまりは・・・
「よもや上半身だけになりつつも、カツミ殿の頭部を両断してくるとは!やはりご子息様はお強い・・・ですが!そのような方と、引き分けたというのはとんでもないことですぞ!」
・・・あー、油断したな。
そうか、流石だわ坊っちゃん。胴ぶった切られたからって、即死するわけじゃねえもんなあ。
想定外だったろうに、あそこから反応しやがったか。
「クククク・・・」思わず笑いが出る。なんつーバケモンだよ、たいした経験積んでなくてソレかよ。
「フッ・・・ハハハハハハ」だめだ、笑いが止まらん。
「いかが・・・されましたか?」
総会長が心配そうに俺の顔を覗き込む。
「ハハハ・・・あー、いえね、ククク。ぼっちゃんがとんでもなさ過ぎて、考えると笑えちまって。」
俺の妙な様子に気づいたのか、技術者連中も黙っちまった。
あー、説明が足りなかったか。どうにも昂ぶっちまっていて、話が纏められん。
「あー、なんつうかですね、坊ちゃんはお貴族様のとこの教育込みで考えても、正味んところ、戦闘経験なんて一ヶ月も無いと思うんですわ。」
「確かに、そうでしょうな。」
オレの話の続きを皆が待ってるってのは、くすぐったいもんだな。
あー、なんて言えば伝わるかねえ。
「まあなんだ、そんな戦闘の素人がだ、胴体ぶった切られてんのに反撃しようなんて考えてんですよ?普通は体が真っ二つになっちまったら、思考がついていきやしませんよ。」
「・・・確かに、そうですな。」
「末恐ろしくて笑えてくるってもんですわ、肝が座ってらっしゃる。余程キツい訓練でも受けたんですかね?」
また周囲がざわつく。
ぼっちゃんの特異性について、話してんのかと思ったが違うようだ。
「家令様」とか聞こえてくる。そうか、あの方の差し金なら頷けるな。
「ああー、あの悪魔家令サマなら、坊ちゃん相手だとしても、地獄みたいな訓練してそうだなあ。」
周囲がまた静まる。あれ、オレなんか変な事言ったか?
いや、意味は通じていたようだ、背後から返事がする。
「まア、私がやらなくても、反逆者が用意した死線を超えたような方ですがネ。」
「あー、カリス伯様・・・いや、反逆者リンドーリグかあ。領主を撃退しちまってんだもんなあ、あれなら納得だわ。」
「か、カツミ殿・・・」
総会長が小声で話しかけてくる。
・・・そんなに顔を青くしてどうしちまったんだ?
「しかシ、直接私を悪魔と呼んだのハ、幼い頃のハーキル様以来ですかネ。」
ん?
なんでここで領主様の御名が出てくるんだ?
「戦いの様子からも察してはいましたガ、肝が座っているのは貴方も同じようですネ、カツミ=ハラシさン?」
「そ、その。か、家令様。カツミ殿は、極限の戦いのあとで、冷静さを欠いておりまして、その・・・」
総会長がおかしなことを言っている。
この場に家令様がいらっしゃるわけが・・・いや、VRだってのに顔が青を超えて白になっちまってる。
本体の心境が反映されてる演出でこれだ。血の気が引きすぎて、今にも倒れそうだってことは・・・
唾を飲む。いや、まさか、本当に?
たかだか、挑戦者の、一人にわざわざ家令様が・・・?
恐る恐る振り返るとそこには、残酷さを絵にしたような微笑みを顔に貼り付けた家令様が立っていた。
強化しきった速度を活かす!思考回路を加速、体の操作を最速で、精密に行っていく。
椅子から軽く飛び、体の前後を反転。
そのまま着地する勢いに任せ、体を折り曲げていく。
膝を折り、地面に正座し、腰を折り、手を付き、頭を地面に擦る。
「スミマセンでしたァ!!」
そう、土下座だ。
今のオレに出来る最速の土下座を実行する。
大帝国が、一惑星を治める弱小国だった頃からの伝統的な、数万年の歴史のある謝罪だ。
大帝国が興る、きっかけの一つを作ったという伝説的な実績もある。
これでなんとか死罪だけは避けなければ・・・
「命だけはお赦し下さい!」
気づけば、周囲に居た総会長や技術者も土下座してくれている。
代表して総会長が叫ぶ。
「どうかお慈悲を!!」
・・・暫くの静寂。
それを打ち破ったのは、家令様のため息だった。
「ハァ・・・まア、良い土下座ですネ。・・・しかし、恐れられているのは知っていますガ、重罪人以外の命など奪ったことは有りませんヨ、今の帝国でハ。」
今のってなんだ。前はやってたってことか。
「高速の土下座ト、トーヤ様に経験を提供した功績に免じテ、不敬罪には問わないで差し上げまス。皆、楽になさイ。」
た、助かった。緊張していた空気が弛緩する。
「それデ、ここに来たのはこんな問答をする為では無いんですヨ。」
「はぁ。」緊張が解けていたせいか、気の抜けた返事をしてしまう。
しかし、そうか。
そういえば坊ちゃんを撃破したら、政庁での採用だったっけか?
正直、そっちはどうでもいいんだがなあ。
いや、まて。相打ちだとどうなんだ?
そう考えていると、オレの扱いを家令様が説明してくれる。
「貴方をトーヤ様の騎士として採用する事を決定しましタ。7日程与えますので首都星に移り住む準備をなさイ。」
・・・は?




