帝国最強
ていこくさいきょう・・・
数多の宇宙を統べる帝国の、最強の領主・・・?そんなの、手も足も出ないわけだ。もはや訓練の名を借りたイジメじゃないのか?
・・・いや、能力の継承の為の訓練の一環だった。一矢すら報いることが出来なくて、ちょっとネガティブになっちゃってるな。いかんいかん。
「爺、話を大げさにするな。」
なんだ、誇張してたのか。
「面倒ですねエ。はイはイ、一対一かつ近接戦闘においては帝国で最強ですネ。・・・トーヤ様、このように変な謙遜の仕方は逆に嫌味になりまス。覚えておかれると宜しイ。」
「結局、最強なのは変わらないんじゃ・・・」
いちいち父に厳しい。前に何か有ったのかな。
「ああ、トーヤよ。変に誤解しないように。確かに、私の刃が届く距離での1対1で、私に敗北はあり得ないが、それは先に言った能力の影響だ。それも、使いこなすことを前提としているからな、継承すればすぐ強いという性質の力ではない。」
うーん、能力を後出しジャンケンと仮定した場合で考えると・・・
「速さで劣っている場合は、有利が取れない。観察する力が足りなくてもまた、有利が取れない。・・・あとは、活かす為には、より繊細な魔力の制御が出来なければならない、といったところでしょうか。」
父の目が見開く。驚いているようだ。俺の考察はあたってたのかな・・・?小声でコームと話し始める。
「・・・爺、何か漏らしたか?」「そんな事するわけないでしょウ。アホですカ。」「いちいち悪態をつくな。いや、しかしここまで的確にわかるものか?」「異常では有りますねエ。前世返りの影響でしょうカ。」
うーん、聞こえてるんだけどなあ。どう反応したものか。
チルはとうに戦闘モードを解除していて、長話に飽きたのか俺の腕に頭をグリグリと押し付けてきている。
猫みたいな事するんだなあ。自然と頭を撫でる。こんど顎の下撫でてみようかな。
「何にせヨ、ご説明ヲ。」「あー、そうだったな。学校行く迄の事だったな。」
話がまとまったようだ、こちらを振り向いてきたので撫でるのを止める。
「あー、ゴホン。・・・うん、素晴らしいぞトーヤ。お前の考えている通りだ。これからの方針はそれらを伸ばす事が中心となる。」
「故ニ、トーヤ様は3年後の学園入学までの期間を、身体能力の向上、仮想現実経由で多様な相手との模擬戦、それと、魔力制御を中心に学んでいただきます。」
学校の話はチルからも出てたな。自分の力をしっかり制御出来てからのほうが、学校に馴染めなくなったりはしないだろうし、俺にとってもちょうどいい訓練項目かもしれない。
「わかりました。良き領主となれるよう精一杯励みます。」
「本当にハーキル様の子でしょうかネ・・・」
だから聞こえてるって・・・あれ、父には聞こえてないのか。
ここまで耳がいいのは俺だけなのかな?
「頼もしい子を持てたことを陛下に感謝しなければな。それとだ、トーヤ。お前はこれから統括領の中心都市へ赴いて貰う事になる。」
「統括領・・・?」
「おヤ・・・・?チル、トーヤ様のリンクをまだ戻していないのですカ?」
そういえば有ったな、リンク。
「うん、戻してないよ!だって、今のトーヤに張ると制御できないんじゃないかなあって。魔導刃、あれ幼児用の制御付きがあんな事になってるんだけど、二人共気づいてた?」
父と悪魔が顔を見合わせる。
「おい、爺どういうことだ。戦闘用をアンロックしたんじゃないのか。」「私も初耳ですヨ。戦闘映像を見た感ジ、解除されていたと思っていたんですかラ。」「制御付きであんな・・・なんかの柱みたいになってたぞアレ。」「領主級の防壁でもアッサリ抜きそうですよネ。」「他の魔法はどうなんだ?」「リンドとの戦闘映像はお見せした通りですヨ。」「あれもよくわかってないが・・・」「愚図ですネ。」「いや、お前もわかってないだろ。」
まーた始まった。チルは、俺の後頭部に抱きついて頭を撫でてきている。諦めてるなこれ。
「そう言えば、練習用の光線で子供部屋を壊してたもんなあ。」「もしや、何かしらの権能が発露しているのでハ。」「ハァ?生まれつき権能持ってた奴なんか、聞いたこと無いぞ。」「そこハほラ、前世から持ち越しデ。」「・・・無くはないか。阿迦奢は?」「この件の絡みでもう4度使ってますガ。使いまス?」「流石にダメだよなあ。」
うーん、半分以上何言ってるかわからないけど、俺も混ざりたいなあアレ。わかってる奴同士の会話って感じで羨ましい。
結局、答えは保留となったようで、父が会話を再開する。
「あー、ゴホン。リンクについては、追って指示しよう。今は凍結したままにしておいてくれるかい。チル、良い判断だったよ。」
「はーい!ありがと、トーヤパパ!」
リンクさん、まだ暫くお預けか。使いこなせれば便利そうなんだけど、残念だ。
そういえば、話の途中だったような。
「えっと、それで統括領っていうのは・・・?」
「あア、そうでしたネ。統括領というのハ、それぞれの次元の首都機能を有している領地でス。要は、各地の要人への顔合わせですネ。」
「帝国での統括領の嫡子には、各統括領への顔合わせを義務付けているんだ。トーヤにはその集団の代表になって貰う。」
「集団、ということは複数人で周るんですね。」
「えエ、領地の近しい世代の子息を引き連れることとなります。トーヤ様の場合は20名程でしょウ。」
結構多いな。しかし、リンクが有る前提だと単語の説明とか疎かになるんだなあ。
思ったより支障が有るかもしれない。
「基本は、各領地で自前の船とその護衛を出してくるのでね、総計は500人程になるだろう。貴族としての振る舞いは追って教育を就けるので安心しなさい。まあ、トーヤは基礎が出来ている。そちらも問題はないだろう。」
大所帯だなあ・・・でも、護衛考えるとそんなものか。領の権威を他領に見せる意味もあるのかもしれない。
そんな事を考えていると、突然、聞き慣れない女性の声がした。
「それで、わたくしはいつになったら、我が子と言葉を交わす事が出来るのですか?」




