強化魔法
それから、ぽつぽつと、これまでの事を話す。
相変わらず、チルの頭は俺の胸の中だけれど、まだ暫くこうしていたい。
「ごめんな、チル。守れなくて。」
チルが首を振る。
「ううん、わたしもデコイを見抜けてればよかったんだけれど。・・・やっぱり、強かったねリンド叔父さん。」
「そうだな、領主って強いね。俺にもっと力があればな。」
抱き返していた手を少し離し、背中を叩いてくる。ちょっと痛い。
「だめ。一人で戦っちゃ、だめよ。みんなを、わたしを、頼って。」
・・・そうだったな。一人でなんとかしようと足掻いたけど、結局それでチルに負担をかけた。
みんなと、戦う、か。そうだ、皆と一緒に戦えば可能性は有った。
「そうだね、俺が主に防いで、チル達で大魔法は妨害。分離した妖精は・・・」
「切って捨てれば良いのでス。」
にやついた笑みを浮かべた悪魔が現れた。慌ててチルが離れる。
おのれー
「まずハ、おはようございまス。トーヤ様。」
「あ、ああ。おはようコーム。」
コホンと、咳払いをする悪魔の笑みが深まる。
「私が何を言いたいかお分かりですネ。」
「・・・ごめん。一人で戦えると思い上がっていたよ。皆と戦うべきだったんだな。」
コームが少し驚いた顔になる。
「おヤ、本当にお分かりでしたカ。ふム、手間が省けたのは結構な事ですネ。・・・今日はまア、チルと戯れていただいて結構ですガ、明日から訓練いたしましょウ。アイビーネの家訓をお教えする必要がありまス。」
カマをかけられてたのか・・・意地が悪い奴だなあ。
それにしても、貴族家ともなると家訓とかあるんだなあ。前世では縁遠かったけど。
うん、それに、訓練はこっちからお願いしたいくらいだ。
「それとチル。身体強化系を中心に登録なさイ。ある程度迄解除していますかラ。明日までには使いこなせるようにしておくこト。いいですネ?」
「はーい。やっておくねー。」
強化か、明日までって急だなあ。
「・・・返事が軽イ、ガ、まあいいでしょウ。トーヤ様。よくぞ強大な敵に打ち勝ちましタ。以後、私ハ、貴方様が次期当主とするべク、"全力"で仕えさせていただきまス。」
なぜだろう。全力で、という部分におぞましい何かを感じるけれど、悪いことを言われたわけではないのでお礼は言っておくか。
「ありがとう、俺も当主に相応しい人間になるよ。不足があったら指導して欲しい。」
ニタァ・・・と、笑みを深くする悪魔。いや、精霊か。
だが、こんなの絵面的には悪魔でしかない、なんて邪悪な笑みだ。
「えエ、えエ、おまかせくださイ!!・・・楽しみですねエ。でハ、ごゆっくリ。」
そう言い残し、悪魔は黒い霧へと変わりつつ消える。いや、最後まで怖いわ。
絶対、俺を痛めつけるのが楽しみ、みたいなニュアンスだったぞあれ。
・・・対策しないと。
「チル、身体強化ってどういうのがあるの?」
「今ロックはずされたみたいだからまってね!見てみる!」
頭なでとこ。・・・あれ、服が変わってる?緑が黒になったような。
「チル、もしかして着替えた?」
「ええー!今気づいたの!?・・・あっ、そっか。」
・・・さっきまで至近距離だったからなあ。チルもそれにきづいたようで、気恥ずかしい雰囲気が流れる。
少しの沈黙の後、チルが口を開いた。
「えっとね、あのね。トーヤの魔力が尋常じゃなかったから、私経由での出力をもうちょっと高いようにしたの。これまでの服は、どちらかというと燃費重視だったんだけど、今の服は最大出力を重視してる感じね!」
「服でそんな違いがあるんだね。」
「うん、だから私から訓練はお願いしてたの!もっとトーヤの力になりたくて。」
かわいいこと言う、もっかい頭なでとこ。
「えへへー」
・・・あれ、何か忘れてるような。
ああ、そうだ身体強化だ。
「そういえばチル、強化の種類ってわかった?」
「えっ・・・?あ!そうね、わかったよ!」
チルも忘れてたようだな。まあいいか。
「えっとね、思考加速、伝達系強化、神経系保護、反応速度強化、筋繊維保護、って感じみたいね!」
「ふうん。」
わかるようなわからないような。そんな雰囲気を察したのか、それぞれ説明してくれる。
「思考加速は、トーヤ勝手にやってるでしょ?アレをもうちょっと洗練してるよ。負荷はこっちのほうが低いから使ってね。」
「ああー、戦いにはいるなーって覚悟したときに起きてた奴か。わかったよ。」
「それでね、伝達系強化と神経系保護は思考加速の影響で発生する、あたまの負荷の軽減。筋繊維保護は、反応速度強化の影響でおきる、筋肉の負荷の軽減ってかんじね!」
なるほど、となると。
「反応速度強化は、体の動作を加速するイメージでいい?」
「だいたいそんな感じ!まずはそのセットを強化一式で登録しておくから、使いたい時はそう言ってね。」
「一式ね、わかった。」
・・・いずれ零式とか設定しよう。
「それと、なるだけ、思考加速は自分でつかわないようにしてね。トーヤの脳みそボロボロだったのよ?脳死寸前だったって!!」
あのひどい頭痛はそのせいだったんだろうか・・・
「ごめん。気をつけるよ。」
「相手が相手だから仕方ないんだけどね!・・・でも、本当にトーヤが生きててくれてよかった。」
そう言うと、チルが俺の頭を胸に抱く。少しためらいはしたが、俺も抱き返す。
・・・戯れていていいって、コームも言ってたし、少しくらい甘えてもいいだろう。
そうして、この穏やかな時間はゆっくりと流れていった。
今日もたくさんのアクセス、評価、ブックマークいただきありがとうございます。
2000ポイントを超えました・・・1週間前からは考えられない増え方で、恐縮するばかり。




