最低限の訓練
いや、ひょっとしたらだが、地獄のほうが「これから刑罰を与える」と、宣言してくれるだけ優しいかもしれない。
気がつくと俺は、両腕と右足を失って倒れていた。
何をされた・・・?鈍い痛みが走る。
領主級が撃っていたものと似た光線が、4本ずつ俺とレアに降り注ぐ。
なるほど、これを食らったのか・・・防壁を張る間もなく俺とレアは消失・・・
「安心しなさイ。痛みは最低限にしていまス。」
していなかった。四肢が生えてきている。
・・・あ、ありえない、どんな魔法をつかえばそんな。
まさか、時間遡行か・・・?
「早くなれなさイ。」
下半身が消し飛んだ。・・・どうしてこんな物をトーヤは防げたんだ・・・!?
不思議と、恐ろしい事象を目の当たりにしているのに恐怖がない。
妖精の強化の影響か。だが、困惑は消えない。
大きな反応があったかと思うと着弾している。滅茶苦茶じゃないか。
体が元に戻る。
攻撃の前に魔力の反応はあるんだ。そこを追わなければ。
目で魔力源を追う。
見えた!・・・そう思ったときには四肢がもがれている。
方法があるはずだ!
コームは訓練と言った!
体が元に戻る。
「反応出来ないのなラ。」
パリン・・・と音がした後、肩ごと右腕が消し飛ぶ。
・・・妹が防壁を出した・・・?俺は反応すら出来ていないのに。
だが、そう、何かしらの手がある。
体が元に戻る。
「反応出来るようになればよイ。」
光点が見えたが、見えたときには着弾している。
ガッ・・・と音がして、やはり貫かれているが、先程より抵抗に成功してる妹が隣りにいる。
何が違う・・・検証を・・・いや、もしや。
そうだ、自己強化すればいい。
体が元に戻る。
思考が速度を増す。
「そうでス。」
光点から、射出角度が見える。左手を狙っている。防壁を。
・・・割れる、防壁ごと左手を貫かれた。妹は1本防ぎきったようだ。
そうか、魔力で思考を無理やり加速させるのか。
体が元に戻る。
思考が加速する。
「いいですネ。思わぬ拾い物ダ。」
光点を解析、威力判断、中和に必要な最低限・・・いや保険を少し上乗せ。
4点に対し防壁。相殺。
「・・・ほウ?ですガ。」
射出点が二ヶ所だけ?
・・・いや、後ろか!
頭部をつらぬかれる。加速された思考が死を確信する。
体が元に戻る。
一体どんな魔法があればこんなことが!?
「何故妖精を与えたト?もう少し考えなさイ。」
そういうことか!
『リフ、射出元の解析を頼めるか!?』
『戦闘モード移行。射出元送信します。』
くっ・・・脳内に三次元の俯瞰図と座標情報がくる。
慣れない反応にとまど・・・
全身が消失する。
体が元に戻る。
くそっ!一本もふせげなかった!
「・・・本当二、思わぬ拾い物ですネ。」
『魔力反応、前方二ヶ所後方二ヶ所。』
目視や魔力解析とはまた勝手がちがう!
だめか!防ぎきらなかった!
体が元に戻る。
繰り返し、防壁を出し、光線を防ぎ、四肢を、体を、頭を消し飛ばされる。
だが、防げる。防ぎ始めている。消し飛ばされる度に襲ってくる鈍痛も、無視できる程に高揚している。
4方から放たれた光線を5度連続で防ぐ。妹はこれで7度目だ。
戦闘のセンスでは負けるか・・・まあいい。
パンッパンッパンッ・・・
乾いた音が聞こえる・・・拍手か。
コームが不気味な笑みを浮かべる。
安堵からか、思考が、おそく、なる。
「良いでしょウ。感覚は掴めましたネ?それが思考加速と妖精からの情報の受信でス。それト・・・」
いもうと、たおれた。・・・?こう、げきは、くらって・・・ない、はず・・・
「脳の処理速度を無理やり加速させテ、何の負荷もかからないワケがないでしょウ?伝達系や神経系にも気を使いなさイ。」
「さき、いえ・・・」
くちが、うごか・・・
「こうなるとわかっていなけれバ、無茶をするものなのですヨ。一度は体感しておきなさイ。さて、リフ、アム。5分ほど体感させてからVRを解くように。」
「承知しました。」「了解です!」
かそう・・・げん・・・じ・・・?あたま・・・いた・・・
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思考が戻る。そういうことだったか・・・
仮想現実上なら、あのありえない魔法の発動も理解できる。
しかし、移行にまったく気づかなかった。これがVRか。
「おつかれさまでした、コウ様。大変素晴らしい上達速度です。」
「貴殿もです。レア様!どうぞこれから私を使いこなしてください!」
妖精にある自我、か。チルとのギャップに少し戸惑うな。
「・・・ああ、ありがとう。研鑽するよ。」
「あ、はい、私もです!」
未だ混乱しているのだろう、今一意味の通じない言葉を発する妹に苦笑する。
だが、そう。最低限戦えるというのはこういう事なのか。
領主級との戦いの厳しさを実感する。
・・・なんだかんだ、ショーキは甘かったんだろう。あくまで対魔道士レベルの戦闘しかしてこなかった事を思い出す。
いや、だがしかし、そもそも前提がおかしいのか。
「・・・さん!」
妖精の補佐なしで、領主級と戦闘になるわけがないんだ。それで、ショーキは教えてこなかったし、コームは教える前に妖精を付けてくれたわけだ。
「・・・いさん」
しかし、基礎教育の差なんだろうか。トーヤはこれの次の段階、恐らく領主権限を使用した攻撃を防いでいた。3度も・・・いくら内蔵魔力が高いからと言って、どんな芸当なんだ。
「兄さん!考え込んている所すみません。船が目的地に到着したそうですよ!」
謝意を示すには投稿するしか無いのだと自分に言い聞かせ投稿です。
日曜にジャンル別のデイリー1位にして頂いてから、未だに継続しています。
週間、月間のランクも上がってきていて嬉しい悲鳴が・・・
次もかき上がり次第投稿しますので、引き続きお付き合いください。




