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見えざる手の蒐集家

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小さな世界が有る。くらく、せまく、さむい、直方体の小さな世界だ。


そんな、明かりのない部屋に、ブラウン管テレビが乱雑に積み上げられ、

それらの淡い光が、一人の男の輪郭を映していた。窮屈に見えるが、男が気にする様子はない。


男は、光線や、火球が飛び交う映像を、食い入るように見つめ、ブツブツと呟く。


「おっかしいなー、あれってかなり前に【変質】をプレゼントした子だよね。死んだら、宿主書き換えたあと戻る設定だったはずなんだけど。」


大きな光線が飛んだ後、【変質】を行使した青年をみて、叫ぶ。


「あ!やっぱそうじゃん!【変質】だこれ!うわー、こっち飛ばしてたから戻ってこなかったのか【変質】!気づかなかったなあ。クロノスだよなこれ!絶対そうだ!・・・いやあ、やっぱずるいわー【時】。こんなんアリなんだもんなあ。削っておいて尚これかよー、どうにもなんねえー!」


愉快げに話す男は、その声色とは裏腹に、能面のような顔でさらに画面を食い入るように見つめる。


「いやいやいや!でもそうだ、【変質】回収できたらでっかいわ!頑張れヒゲ!やっちまえ!俺に回収をさせろ!」


応援とは裏腹に、画面に映るヒゲの男は、幾度となく放たれる炎に焼かれて絶命した。

愉快げな声は一転、失意に暮れた声に変わる。顔は変わらず能面のまま、嘆きの言葉が続いた。


「うわぁー、失敗したよあのヒゲぇ!めっちゃ偉そうにしてたじゃーん!それならそこでやらかすなよなー!吾輩なら楽勝であるー的なこといってたくせにぃー!地獄行きだ地獄行き!」


視聴していたブラウン管は、不快さを隠さない声に怯えたかのように消え去ってしまう。

男は、そんな些事は気にならないようだ。


「あー、やっぱでかいことばっか言う奴はあんま役に立たないなあ。いや、でもなあ、使いやすいのはああいう感じのだしなあー。あーあ!リソース結構割いたのになあ。」


きょろきょろと他の画面を探し、暗闇の中、青年が倒れている画像を覗き込む。


「ちぇー!せっかくこっちに飛ばして来てくれんだから、回収したかったなあ。・・・あーあ、こっちも死にかけてるじゃんか。お、頑張れ女の子!治せ治せー!・・・治癒よっわ、これは最悪諦めるかあ。」


ふと、なにかに気づいた様子で、画面から目を離し、首をかしげた。


「あっれ、何に使ったらああいう変化するんだっけ。魂自体に直接使った?元の設定が、えーと、うーんと・・・ああそうそう!死後、死の変質と運命の変質だ!そうだそうだ、したら極悪国家元首になって暴れる可能性めっちゃ高いから。そうそう、そんなだったなあ、懐かしいなあー・・・楽しかったなあー・・・」


声色が憤怒に染まる。


「クッソ、人の庭荒らしやがって!ありえないだろ!?ルールは遵守しろよなー!・・・はあ、むなし。・・・まあ、こつこつやってこうかね。そうそう、変質がどう働いたのかぱっと見わかんないし、観察する必要があるかも?そう考えるとヒゲ失敗したのもまあよし?うんうん、何事もポジティブに行こうか。これ自体は意外と楽しいしなー。」


視線を落とすと、先程の倒れた青年が視野に入り、自分に言い聞かせるように言葉続ける。


「うん、まずは観察だね。使い勝手よさそうなら組み込めばいいし、だめなら回収て感じでいくか。・・・うぇ、あれって【停滞】かな?クロノスも見てんのかあ。邪魔されるだろうなあ、いっそ直接動くかなあ。」


別ないくつかの画面に指を指す。何かを確認しているようだ。


「こいつだと足つきやすそう。こいつはやりやすいかな。あ、こっちのがいいか。よっわいし、消えても、すぐにばれる可能性低いんじゃないかな。よしよし、取り敢えず次の手は打てるぞー・・・リソースがもっとあればなあ!いろいろ楽に進められるのに!いや、でもこれが上手く行けば芽は出るんじゃないか?」




突如、顔が虚空を向く。見開いた目が何かを見つめ、口元ににやけた笑みを浮かべながらつぶやいた。


「見てんじゃねーよ。」



小さな世界は消失した。



昨日だけで2万2千アクセス有難うございます。

現実に思考がついてきません。ポイントも579も頂いております。


評価いただくきっかけを下さった、これまで読んでくれていた方も、新たに読み始めてくれた方も有難うございます。


他に出来ることがないので、とにかく感謝の投稿を続けます。

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