消失
ランキング5位有難うございます。感謝の投稿です。
『警告。魔力反応極大。領主権限を使用した攻撃と推測されます。』
くそっ、また光線だろうか。手の内がわからない以上、断定はできない。
落ち着け。冷静になれ。相手を観察しろ。そうだ。よく見るんだ。
「まずは1条。」
目の前に光点、直線でチルと俺に向かっている。チルが防壁を張っている。あれでは耐えられない。
その前方に注げるだけ魔力を注ぎ防御隔壁を展開する。
ガギッ・・・っと鈍い音を立てて俺の展開した隔壁が割れる。
しかし、衝撃は削ってくれていたようで、チルの防壁で止まってくれた。
耐えた!よし、耐えられる!まて、奴はまずは1条と言っていた。
『感謝します。マスター。ですが再度来ます。反応増大。』
となると次にくるのは・・・
「ふむ、凄まじいな。ではこれは。」
思考が加速する。頭が熱を帯びる。
『転移反応。9時方向。』
リンドから1条、左から1条俺に光線を確認。転移してから撃ってきた?今はそれは良い。
先の防御は光線より一回り大きく展開した。故にロスが有った。
ピンポイントで止めれば割れない。観察しろ。
2条の光の規模と経路を見極める。それぞれの先に相殺しうる規模で展開。耐えうる規模のはずだ!
ジッ・・・と何か焼き切れるような音が聞こえた。
「クククク」
体に痛みはない。止められたのか?
『お見事です。マスター。』
(いや、チルのお陰だ。転移先を教えてくれて助かった。しかし、あいつは何を笑っているんだ。)
「ハハハハハハ」
「・・・何がおかしい。」
一瞬、静寂に包まれる。だが、それもつかの間。
「フハーハッハッハッハッ!」
時間稼ぎか・・・?
火球速度重視左足。ダメだ、防がれる。
接近して魔導刃で切る他無いか・・・?だが、光線の射出点に飛び込むことになる。
射出から、防御までにタイムラグがある。近すぎると防げない。
ギリギリ防御できるラインで、一度防いでから飛び込む。
「我が砲を受けて無傷であるぞ!これが笑わずにいられようか!そうか!そういうことであったか!貴様!管理者の使徒であろう!?」
・・・何を言っているんだ?いや、耳を貸さない方が良いか。じりじりと距離を詰める。
「それであの男は、お前を押さえておきたかったのであるな!・・・ククク、良い札を手に入れたものだ。」
『警告。魔力反応極大。4点計測。妖精が分裂しています。』
妖精が4・・・?本体と合わせて5条・・・まずい!止められない。
「殺しはせぬが、まあ、足や腕は諦めると良い。褒めてやろう、なかなかの健闘であったぞ。」
『警告。魔力反応極大。上方、左方、後方、右方より検知。』
思考を加速させる。防御?不可。回避を。脚部に魔力を込め跳ぶしか・・・
「「光弾速度重視」」
双子から光が走り、リンドに向かう。舌打ちをしつつ、リンドがそれを防いだ。
チャンスだ!
足に貯めた魔力を開放、前方に向かい跳ねる。足に鋭い痛みが走る。無視。
右手を突き出し、魔導刃を展開する。
驚愕に目を見開いたリンドに極大の光の刃が伸び・・・
かき消えた。
・・・これで、二人殺してしまった事になるか。
意外と、手応えを感じないな。
そうだ、皆にお礼を言わないと、そう思い振り返る。
安堵の表情を浮かべた二人と、未だ羽根が赤いまま、こちらに向かってくるチルがいた。
『転移反応。敵健在。後方に集結。』
振り返ると、リンドが4機の妖精を従え立っている。
・・・失敗した!まずい!
『警告、魔力反応極大。5点より計測。マスター、防御を。』
「この程度の欺瞞に釣られるとは、無能であるな。さあ、私の真髄を魅せてやろう。双子を殺したくはなかろう?全力で防いでみよ。」
まずい!まずい!まずい!
思考が加速する。負荷に脳が灼ける。世界が遅くなる。
回避はできない。後方に二人がいる。守らねば。
チルが慣性に任せ俺の前に進み、盾を貼ろうとしている。
身を捨てて俺を守ろうとしている、それは、だめだ。(見捨てろ)
失敗したのは俺だ、チルを犠牲になどできない。(囮にして回避しろ)
心が別れていく。
リンドを睨む。妖精が4体、詠唱は完了している。(今跳べば可能性は有る)
光点が5つ現れる。杖である左手を突き出す。(双子ともども見捨てろ!)
防壁を展開、経路は見切った。(防げる規模ではない!)
防がなければ。(無理だ!回避しろ!)
うるせえ!俺は守るんだよ!
冷静な思考をカットする。加速した思考が力任せにそれを成してくれた。
左手の先に膨大な魔力が流れていくのが分かる。
守る。絶対に。
『とーや、無事でいてね。』
光線が走る。
極大の光で、視界白に染まる。
左腕が焼けるように熱い。
熱から、生を感じる。
生きている・・・?
防げた・・・!守れた!
(やったぞ!チル!防げたんだ!)
反応がない。
「チル・・・?」
視界が薄く戻る。
リンドの輪郭が見える。
チルはどこだろう。
視界が戻ってくる。
リンドの足は修復を終えていた。
チルがいない。
突き出した左手の、肘から先が無い。
骨杖・・・が入っ・・・左手・・・
”「私はトーヤの杖よ!」”
そんな・・・はずは・・・
"「私はトーヤの左手に埋め込まれた、杖の管理を補佐する人工妖精なの。」"
いやだ。そんなのは、いやだ。
"「本体はトーヤの杖になるのね。」"
「チルウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」




