リンドーリグ・アイビーネ・カリス
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「いまだに発見できんのか!子供一人なぜ見つけられぬか!」
怒りを隠すこと無く怒鳴りつける。下賤の民に、私に貢献する機会をくれてやったというのに、あろうことか私の足を引っ張るなど・・・まったくもって許しがたい事である。
繊細に魔力を操り、耳を軽く焼いてやると、酷く慌てながら言い訳をしてくる。
「お待ち下さい閣下!くまなく!!そう、くまなく探したのです!部下が1名殺害された痕跡を中心に、鼻の効くもので追跡したのですが!大穴の手前で忽然と匂いが消えているのです!もちろん!他の道、細かな横穴等もくまなく探しております!ネズミ一匹見落とすはずがございません!」
解析をかけよと妖精に命じる。
『心理解析・・・色は青。虚偽の可能性を否定。』
ふむ、となると事実であるか。
しかし、消えた。消えた、か。犬系の獣人がこう言い切る以上、物理的な探索は限界であろう。
問題は、転移にせよ、隠匿術式で潜伏しているにせよ、一切の魔力痕跡が無い事である。
まさか生後1週間足らずの赤子ごときが、妖精の補佐も無しに痕跡を消去できるとは思えぬ。
うむ、見えてきた。やはり、潜伏しているのであろう。・・・限りなく低いが極小の時空震に飲まれた可能性もあるか。
「過去にあのような大穴があったという報告は有りません!戦闘の余波で魔力暴走でも起こして自壊したのではございませんか。」
「それは有りえぬ。」
そうだ、それは有りえぬ。腕輪とのリンクは生きているのである。
忌々しい、あの男もこれを見越して、座標情報も受信出来るよう作っておればよいものを。
なぜ私の周りには無能が多いのであろうか。
自らの不運を嘆くが、今はそれどころでは無い。これも、為政者として天命を受けた者の試練であろう。
転移が起きた形跡を改めて洗い直したが、見つからぬ。潜伏していると見て間違いなかろう。
魔術的な探索は、下賤の鼻を頼りに探すわけにもいかぬ。
私が手を下す他、あるまい。これ以上、無能共をあてにできぬ。
ああ、忌々しい。無能に簒奪された地位を、奪還する為の完璧な計画であったというのに!
いつもこうなるのだ!無能が私の足を引っ張り、気づけばハーキルが私が居るべき地位を掠め取っている。
「もうよい、私が直々に手を下すのである。無能は消えるがよい。」
「おまちくだっ・・・」
消去を命じる。私の足を引っ張った無能が消滅する。
罪人に適切な罰を与える事で、多少は溜飲が下がった。この程度は私の役に立って貰わねばな。
しかし、ハーキルめ。つくづく運のいい男である。嫡男も適切に守護できぬ無能であるというに。
あの男の言う通り、やはり正当な領主は私なのだ。
思い返せば、無能に足を引っ張られる中、功績を残してきた、私の力を解せぬ父も母も無能であった。
しかし、嫡男を洗脳し、救出に助力したと見せかけ、嫡男に暗殺させる算段がこうも簡単に崩れるとは。
まて・・・何故私の作った牢は破壊された。
なんらかの第三者が居る可能性は否定できんが、とは言え私の牢に干渉できる者などそうおらぬ。いかんな、推察に足る材料が無い。
いっそ腕輪めがけて追跡転移しても良いのだが・・・万一時空震に飲まれていた場合が面倒である。
無能共がいくら死のうが構わんが、私の身に何かがあれば世界の損失である故に、慎重に動かねば。
「報告書を。匂いの消えた位置を中心に解析をかける。」
「解析対象が広大です。3割程度消費する事を懸念します。」
「ふむ、では領主権限で行う。施行事由は反逆者の探査である。」
「申請認可。探索開始します。指定範囲の探索完了までの予測時間50秒。」
これで見つからねば、いよいよ時空震にでも巻き込まれ、乱数転移している可能性を考えねばならぬな。
そうなると面倒である。まあ、そう起きるものでは無いが。
「探査完了。報告通り、戦闘と移動の痕跡は有りましたが、潜伏の可能性は否定。」
「ふむ、であれば転移痕跡は。」
「不確実な痕跡が1件。付随して報告ですが、妖精が居た痕跡があります。大穴の外壁に探査痕の可能性を発見。自然形成の可能性は38%。断定は難しい状況です。」
妖精が居ただと・・・?外部通信は絶ったはずである。どうやって座標を調べたというのか。
いや、そもそも牢の中であるぞ。転移させたとでもいうのか・・・?睡眠のレジストすら出来ぬ赤子であるぞ?
まて、この距離の転移であるぞ。私ですら8割消費したというのに。隠蔽の分を差し引いたとしても、補佐無しに実行できるわけが・・・
いや、冷静になれ。なんらかの保険をコームが持たせていた可能性があるではないか。
そうか、そういう事であったか。それならば得心が行く。
あやつめ、散々ハーキルに手を焼かされたであろうに。まったくもって・・・
『警告。魔力反応。隠蔽されていた模様。転移前兆を検知。』
賊か、思考加速。多重詠唱。
『転移阻害五重、転移遅延五重、座標撹乱五重。』
『施行、失敗。レジストされました。』
馬鹿な。私の阻害の全てをレジストだと。となると賊は・・・
「やあ、リンド。突然すまないね。少し話を聞かせてもらっていいかな。」
やはり貴様か、ハーキル・アイビーネ・ブルーク。
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