誰か一人、忘れているような気が……。
奈々子についてこれと言った情報は得られなかった。
彼女とはほとんど話をしたこともないが、美咲から少しは話を聞いている。
その後もあちこち聞き込みに回ったが、有力な情報は拾えないまま、駿河は今回組んだ相方と共に捜査本部へ戻った。
会議室に入ると友永が、妙な表情でミルクティを啜っていた。
「友永さん……?」
「おぅ、おかえり」
彼は顎で会議室の前方、管理職にある警官が座る席の方を示した。
班長である高岡警部が座っていた。それも、ぼんやりとした表情で。
こんなことはめずらしい。
彼の隣では管理官と所轄の刑事課長が色々話し合っているというのに、上司は上の空といった感じである。
それから駿河は部屋の中を見回した。
どうやら他の和泉とうさこのコンビはまだ戻っていないらしい。
「で、何かわかったのか」
「……それよりも、班長はいかがなさったのですか?」
すると友永はなぜか、駿河の顔をじっと見つめてきた。
「何ヶ月か前のお前と同じだな、たぶん」
余計にわからない。
「わかるように言ってください。和泉さんじゃあるまいし」
「お前、俺をあんな変人野郎と一緒にすんなよ!!」
ぬっ、と和泉本人があらわれるかと思いきや、そうではなかった。
班長があの調子なので、駿河は相棒に結果報告することにした。
「……ガイシャと親しげに会話していた、という仲居の情報を得ましたが、特にこれといった情報は得られないまま終わってしまいました。周囲の人間にも話を聞きましたが、やはり……」
「もしかして、奈々子っていう仲居か?」
「そうです。でもなぜ、彼女のことを?」
友永は空になったペットボトルをつぶして、なぜか溜め息をついた。
「その奈々子っていう仲居と同じ旅館で働いてる鶏ガ……節子って仲居から聞いたんだよ。被害者とは知り合い同士だったみたいだとよ」
先ほど美咲とビアンカから聞いた話では、奈々子は警察が何か聞きにきても、何も知らないと伝えてくれ、と残して去って行ったという。
駿河がそのことを話すと、
「……めちゃくちゃ怪しいじゃねぇか、その奈々子って女。確実に何か知ってんな」
自分もそう思う。
早いうちに報告しておこう。
駿河は会議室の前方を見たが、班長はやはりどこかぼんやりしている。
その時だった。
「戻りました~!」
うさこの声。そして、和泉がヘロヘロの状態で会議室に入ってきた。
彼はなぜかひどく青い顔をしている。
「和泉さん、何かあったんですか?」
駿河が声をかけると和泉は涙目で、
「僕は嫌だって言ったのに、うさこちゃんが無理矢理……!!」
「誤解を招くような言い方をしないでください!! 班長の様子がおかしいから、早く帰ろうって飛行機に乗っただけです!!」
確かに。
いつになく、班長である高岡警部はどこか変だ。
だけど。部下達がいつものようにくだらないことで騒いでいるというのに、上司はぼんやりしていた。




