冗談じゃないわよ!!
「女性問題ですか……」
「かなりお盛んだったようですからねぇ」
「何か、それらしい場面をご覧になりましたか?」
すると川端は少し辺りを見回し、顔をそっとこちらに近付けてきた。
「それがもう、一度大変なことがあったんですよ……」
和泉も身を乗り出す。
近距離で男同士が見つめ合う、微妙な画が出来あがった。
「うちの事務員で、芳香ちゃんっていうのがいたんですよ。この子がまた、可愛い子でねぇ……胸も大きいし」
胸の大きさはこの際どうでもいい。
結衣が苛立って次の言葉を待っていると、
「腰の辺りなんてきゅっ、と締まってて、おし……」
「彼女のスタイルはこの際、置いておいてください。それで?」
にっこり笑って和泉が先を促す。
「若尾さん、一目で彼女のこと気に入っちゃってね。彼女の方も悪い気はしなかったみたいで、朝、一緒に出勤してきたりしたこともあったんですよ。ウチみたいな小さな会社だと、社内の人間関係なんて筒抜けじゃないですか。これは近々、おめでたい話が出るのかな、なんて思ってたら……とんでもない。彼、他に同棲してる彼女がいるそうじゃないですか」
チョコレートパフェとパンケーキと、コーヒーが運ばれてきた。
「……ある日、その同棲相手の彼女がですよ?」
パンケーキ用のナイフを持ち上げて、川端は声を潜めた。
「私の彼を寝盗った泥棒猫はどいつだ?! って、会社に怒鳴りこみにきたんです」
「……」
「そりゃもう、あの時は大騒ぎでしたよ。警察の人は来るわ、マスコミ関係者はやってくるわ。まったく……」
「その女性とは、もしかしてこの人ではありませんか?」
和泉はいつの間に撮影したのか、先ほど会って話を聞いた亜美の顔写真を見せた。
「そう、この人です!! いやぁ~……あれはほんとに、すごかった。ヤクザかと思いましたもんね」
結衣と和泉は顔を見合わせた。
「その時は、結局どうなりましたか?」
「若尾さんが土下座して、平謝りして、どうにか収拾がつきました。だから、どうせ新聞社を追われた理由も、そんなようなことなんじゃないですか?」
それからいくらか当たり障りのない質問と、アリバイを訊ねて終わった。
礼を言って店を出る。
結衣にはいろいろと思うことがあった。
前回の事件の被害者といい、今回のといい、どうしようもなく女癖が悪いという点で一致している。
「……うさこちゃん、なんでそんな顔してるの?」
「ものすごく呆れてるんです」
「ガイシャに?」
被害者にもだけど、その彼女にもだ。
「なんで男の人って、こう……」
「その言い方には語弊があるなぁ。男が皆、揃って浮気する生き物みたいじゃない」
思わず結衣は和泉の横顔を見た。
「かくいう和泉さんだって、相当女性にモテるでしょう?」
すると彼は肩を竦めた。
「……興味ない人達に好かれてもね」
はい? 今、なんて言いました?!
「だいたい、僕は一途な男なんだよ。一度好きになった相手には、添い遂げるまでも、その後もどこまでもつきまとうからね」
「それって、ストーカー……」
とにかくさ、と和泉は携帯電話を取り出した。
聡さんに連絡しておくね、と彼は結衣に背を向けた。
それからしばらくして。
「……なんかあったのかな」ぽつり、と和泉が言う。「なんだか、聡さんの様子がおかしいんだよね」
「えっ?!」
班長の様子がおかしい?
結衣の中で焦りの気持ちが生まれた。
「和泉さん、今すぐ広島に帰りましょう!!」
「うん。それはいいんだけど……ここから東京駅って、どうやって行けばいいのかな」
和泉はスマートフォンを操作している。が、
「飛行機で帰りましょう! その方が断然早いですから!!」
結衣は彼の腕をとって引っ張った。
「やだ、飛行機はやだ!! 新幹線で帰ろうよ!!」
「何言ってるんですか、ここは成田ですよ?! 成田っていえば空港ですよ!!」
「いやだぁあああ~~~!!」




