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私はこれで、会社を辞めましたっていうCMがあったよね~

 出版社は既に年末年始の休みに入ったと聞いていたので、結衣と和泉は被害者の直属の上司だったという川端という男性に会いに行くことにした。


 出版社は神田にあるが、自宅は千葉県成田市にあるという。


 電車を乗り継いで該当の場所に到着した時、結衣は思わず溜め息をついた。毎日この距離を通勤しているのか……。


 ドアチャイムを鳴らすと不機嫌そうな女性の声で応答があった。


 ご主人はいるか、と訊ねたところ、無言のままフックの降りる音。

 感じ悪いなぁ、と結衣がムッとしたところに、玄関ドアが開いた。


「いやどうも、わざわざこんなところまで……川端です」

 コートを身に着けた恰幅のいい男性が外に出てきた。


「天気がいいから、ちょっと外に出ませんか?」


 どうやら家にいたくない様子だな、と思った。歩いて3分ほどの場所にファミレスがあり、そこに行こうという話になった。


「若尾さんのことでしたね。いや、驚きましたよ……」

 やれやれと首を横に振る川端という男性は、被害者の勤務していた出版社の所長だったらしい。


「ゴールデンウィーク用に宮島特集をしようって話になって、まぁあちこちの雑誌も旅行ガイドももうネタは出し尽くした感がありますのでね、穴場を探して欲しいって依頼して現地に飛んでもらったんですが」


「何日から何日までの予定でしたか?」


「えーと、27日から30日までですな。うちは28日が仕事納めだったんで、とりあえず下書きだけでもFAXかメールしといてって頼んだんですが……」


 店員が注文を取りにきた。


 結衣達はコーヒーだけを注文したのだが、川端はチョコレートパフェにパンケーキと、甘いものフルコースを注文した。

 ぎょっとしたが、他所のお父さんのことなので黙っておく。


「取材先からマメに連絡はありましたか?」

「ええ、定時連絡は入れるように言ってありましたからね」

「その時に何か気付いたことはありませんでしたか?」

 そう言われてもね……と、川端は困惑顔だ。


 ところで、と和泉が質問を変えた。

「若尾さんはどんな人でした? 評判は」


「まぁ、仕事はできる人でしたよ。彼がうちの専属になってから売り上げがアップしたのも事実ですしね。ただねぇ……」

「ただ?」


「ちょっとビッグマウスな感じはあったかな。元々は社会部の新聞記者だったそうなんですよ。それがゴタゴタを起こして、窓際に追いやられてね……でも、いつか必ず復帰してデカい事件を追ってやるとか」

 その辺りは亜美が語ったことと一致している。


「つまり、こんな小さな出版社で旅行雑誌を作ってるだけでは終わらないぞ、と?」

 余計なことを言う和泉を、結衣は肘でどついておいた。


「ははは、そういうことでしょう」

 幸い、相手は気を悪くした様子もなかった。


「その、新聞社を辞める羽目になったゴタゴタとは?」


「詳しいことは知りませんが、どうせこれじゃないですか?」

 と、小指を立てる仕草をしてみせた。


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