そんなふうに見えるんだろうな
なんとなく成り行きで友永と行動することになった聡介は、遺体発見現場にいた。
目撃情報が出たのである。
捜査本部に電話がかかってきた。現場からほど近い、とあるマンションの住人からである。
そこで聡介と友永が訪ねて行ったのだが、風呂に入っているから少し待ってくれと待たされた。
玄関先で手持ち無沙汰に待っている間、聡介は手すりにもたれて遠くを見つめつつ口を開いた。
「……友永、娘さんの具合はもういいのか?」
娘と言っても赤の他人で、彼が親しくしている少年の妹のことだ。
「ええ、まぁ」
自分とそう年齢が変わらないであろう刑事は、クセのある髪をかき回しながら答える。
「やっと熱が下がったんで、安心して出かけようと思ったんですがね……直前になってぐずられました」
「それは、たいへんだったな」
「班長だって経験があるでしょうが」
まぁな、と答えておく。
娘はぐずるようなことはしなかったが、きっといつも寂しさを笑顔の裏に隠してきただろう。
「ところで、母親はどうしてるんだ?」
すると友永は不機嫌そうな顔になった。
「さぁ……?」
どうやら余計なことを聞いたようだ。
彼はしばらくムッツリと黙っていたが、やがてぽつりと
「……実を言うと、失敗したんじゃないかと思っています」
「……なぜだ?」
「子供を育てるのは、親の責任です。少なくとも俺はそう考えています。本来なら、他人の俺が口や手を出すべきじゃなかった……でも、見ていられなくて」
彼は苦しそうに呟いた。
彼の意見には聡介も同意する。
もしかすると。子供達を可愛がってくれる他人がいるなら、いっそのこと、その人に任せてしまえばいい。
親がそんなふうに考えているのだとしたら?
しかし、
「本来の役割を放棄する親は、確実にいる」
「……班長……」
「あまり思い詰めるな。篠崎君とは何度か会って話したこともあるが、あの子はとても賢い子だ」
知ってます、との返事があった。
「あいつも、和泉の奴が班長にするぐらい、俺に胸襟を開いてくれたらって思うんですけどね……」
その台詞には聡介も苦笑せざるを得なかった。
和泉はまだ、完全には心を開いてくれていない。だが、そのことで今彼に愚痴を言っても仕方ないだろう。それよりも。
まさか彼が胸の内を明かしてくれるとは、思ってもみなかった。嬉しかった。
その時、ドアが開いた。
あらわれたのは30代ぐらいの男性。中が散らかっているので、と玄関先での立ち話となった。
「あの夜、仕事帰りに一杯引っかけて、ちょっと足元がおぼつかない状態だったんですよ。で、このマンションの下に普段見かけない車が停まっていたんです。実は私、車のディーラーをやっていまして、つい興味を引かれてじっと見ていたんです。まぁでも不審に思われたら嫌だから、そろそろ帰ろうと思って歩き出したんですよ。そうしたら車にぶつかってしまって……」
「どんな車でしたか?」
「外車でした。暗かったので色ははっきりしませんが、左ハンドルでした。たぶんあれベンツかポルシェじゃないかな……そしたら、中から若い男が飛び出してきて、ものすごい剣幕で怒鳴られたんですよ」
男性は恥ずかしそうに言って続ける。
「こっちもホロ酔いで気が大きくなってまして……普段なら飛んで逃げるんですが、なんだよ、と言い返したんです。そしたら中にもう一人いて、その人が止めたら、相手は大人しくなりましたよ」
「……顔は見ましたか?」
「いえ、顔は見てないですが、香水の匂いがきつかったな……」
礼を言って情報提供者を解放する。




