表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/175

そんなふうに見えるんだろうな

 なんとなく成り行きで友永と行動することになった聡介は、遺体発見現場にいた。


 目撃情報が出たのである。


 捜査本部に電話がかかってきた。現場からほど近い、とあるマンションの住人からである。


 そこで聡介と友永が訪ねて行ったのだが、風呂に入っているから少し待ってくれと待たされた。


 玄関先で手持ち無沙汰に待っている間、聡介は手すりにもたれて遠くを見つめつつ口を開いた。


「……友永、娘さんの具合はもういいのか?」

 娘と言っても赤の他人で、彼が親しくしている少年の妹のことだ。


「ええ、まぁ」

 自分とそう年齢が変わらないであろう刑事は、クセのある髪をかき回しながら答える。

「やっと熱が下がったんで、安心して出かけようと思ったんですがね……直前になってぐずられました」


「それは、たいへんだったな」

「班長だって経験があるでしょうが」

 まぁな、と答えておく。


 娘はぐずるようなことはしなかったが、きっといつも寂しさを笑顔の裏に隠してきただろう。


「ところで、母親はどうしてるんだ?」

 すると友永は不機嫌そうな顔になった。

「さぁ……?」


 どうやら余計なことを聞いたようだ。


 彼はしばらくムッツリと黙っていたが、やがてぽつりと

「……実を言うと、失敗したんじゃないかと思っています」


「……なぜだ?」


「子供を育てるのは、親の責任です。少なくとも俺はそう考えています。本来なら、他人の俺が口や手を出すべきじゃなかった……でも、見ていられなくて」

 彼は苦しそうに呟いた。


 彼の意見には聡介も同意する。


 もしかすると。子供達を可愛がってくれる他人がいるなら、いっそのこと、その人に任せてしまえばいい。

 親がそんなふうに考えているのだとしたら? 


 しかし、

「本来の役割を放棄する親は、確実にいる」

「……班長……」


「あまり思い詰めるな。篠崎君とは何度か会って話したこともあるが、あの子はとても賢い子だ」


 知ってます、との返事があった。


「あいつも、和泉の奴が班長にするぐらい、俺に胸襟を開いてくれたらって思うんですけどね……」


 その台詞には聡介も苦笑せざるを得なかった。


 和泉はまだ、完全には心を開いてくれていない。だが、そのことで今彼に愚痴を言っても仕方ないだろう。それよりも。


 まさか彼が胸の内を明かしてくれるとは、思ってもみなかった。嬉しかった。


 その時、ドアが開いた。


 あらわれたのは30代ぐらいの男性。中が散らかっているので、と玄関先での立ち話となった。


「あの夜、仕事帰りに一杯引っかけて、ちょっと足元がおぼつかない状態だったんですよ。で、このマンションの下に普段見かけない車が停まっていたんです。実は私、車のディーラーをやっていまして、つい興味を引かれてじっと見ていたんです。まぁでも不審に思われたら嫌だから、そろそろ帰ろうと思って歩き出したんですよ。そうしたら車にぶつかってしまって……」

「どんな車でしたか?」


「外車でした。暗かったので色ははっきりしませんが、左ハンドルでした。たぶんあれベンツかポルシェじゃないかな……そしたら、中から若い男が飛び出してきて、ものすごい剣幕で怒鳴られたんですよ」

 男性は恥ずかしそうに言って続ける。

「こっちもホロ酔いで気が大きくなってまして……普段なら飛んで逃げるんですが、なんだよ、と言い返したんです。そしたら中にもう一人いて、その人が止めたら、相手は大人しくなりましたよ」


「……顔は見ましたか?」

「いえ、顔は見てないですが、香水の匂いがきつかったな……」


 礼を言って情報提供者を解放する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ