そういった趣味は持ち合わせていないので
大人しそうだ、と駿河は思った。
今回コンビを組んだのは、自分とそう年齢の変わらないであろう若い刑事である。
若くして刑事になった警官と言うのはたいてい、少し天狗になっているのが多い。
肩書きと、華やかに思える部分しか見ていないからだ。
その上、希望すれば誰でも刑事になれる訳ではない。狭い門を突破してようやく【刑事】を名乗れるのだ。
しかし今回の相棒に関しては、そういう様子は見えない。
覇気がないと言ってしまえばそうかもしれないが、今時の若者はだいたいそういうものだろうか?
駿河達は被害者の行動を遡って追うよう命じられ、宮島にいた。
後で判明したことだが、被害者は殺害された日の前の晩から宮島に来ていたらしい。取材のため御柳亭だけではなく、白鴎館にも泊まっていたそうだ。
白鴎館で客室係を担当した仲居を探し出し、事情聴取せよとの命令だが……正直言って気乗りがしなかった。
何しろあの旅館には、駿河が人生の中で1番苦手だと思う人物がいる。
それも若旦那という立場で。
しかし、そうは言っても仕事だ。
気を取り直して白鴎館の玄関をくぐる。
いらっしゃいませ、と従業員に出迎えられる。
「警察の者ですが」
威圧的にならないよう、かつなめられないよう、気を遣いつつ名乗る。
応対に出た仲居の1人は顔を引きつらせ、少しお待ちください、と奥に引っ込んだ。
やがて。
「駿河さん!!」
予想はしていたが、やはりか……。
「いつこちらにお見えになられたのですか? 前もって教えていただければ、お迎えに上がりましたのに」
白鴎館の社長であり、若旦那と呼ばれる斉木晃が嬉しそうに走ってきた。
一応、性別は男であるはずだ。
が……。
駿河が警察に奉職してから初めに、宮島での駐在所勤務をしていた頃、用もないのにやたらとこの男は交番にやってきた。
初めは島内に近い年齢の男性がいないから、友達になって欲しいのかと思っていた。
が、それは大きな勘違いだった。
彼は友達以上の関係を求めていたらしい。
冗談じゃない。
まだ美咲と出会う前の話だったが、そもそもそういう趣味を一切持ち合わせていない駿河は、今後一線を引いて接するようにしよう、と心に決めた。
その後も斉木は懲りずにアプローチしてきたが、一切相手にしなかった。
その内、他にいい相手が見つかったようで、特に悩まされることはなくなったのだが……。
「……26日の宿泊客のことで、お聞きしたいことがあります」
すると斉木は少し眉根を寄せた。
「お客様のことは、あまりお話できません。個人情報ですから」
「殺人事件の関係していることなので、ご協力をお願いします」
一歩だって引かない覚悟で駿河は言ったが、相手は鼻を鳴らした。
「私どもも、おかげさまで商売繁盛しておりましてね。特に今日は……別の旅館が急遽、休業したおかげで予定外のお客様を引き受けることになりました」
要するに『忙しいから相手をしている暇はない』と言いたいらしい。
苛立ちを覚えた駿河は、こんな時班長ならどうするだろうか、と考えた。
「どうか、お願いします。決してお手間は取らせません」
これがいわゆる面従腹背っていうやつだろうか。
駿河は頭を下げながら、そんなことを考えていた。
「……なんというお客様です?」
「若尾竜一さん、という男性です」
すると。
なぜか斉木の表情に動揺が走った。
ほんの一瞬だったけれど、駿河は見逃さなかった。




