男の人ってほんと……
それから本棚の奥、旅行雑誌の後ろには成人男性向けの雑誌が大量に隠されていた。どうやらそちらの欲がかなり強い男性だったようだ。
男の人って……。
結衣は思わずちらりと横目で和泉の方を見た。彼は真剣な目で画面に見入っている。
ああして真面目にしていると、普通にいい人なんだけどな。
いけない、こんなことを考えてる場合じゃない。
それから引き続き作業を続ける。
「お茶、どうぞ」
亜美が盆に温かいお茶を載せて差し出してくれた。
結衣は恐縮して会釈した。ちらりと和泉の方を振り向くと、彼は相変わらず真剣な眼差しで画面に集中している。
「広島って……広島のどこですか?」
被害者の彼女は恋人の亡くなった場所を知りたがっている。
結衣は少し考えた末、どうせニュースでも報道していたからと答えた。
「宮島です」
「ああ、やっぱり……旅行雑誌の取材ですものね。でも、宮島なんて……いい加減情報も出尽くしたんじゃないかしら」
どうやら彼女は話したがっているようだ。
結衣は彼女に向き合って、カーペットの上に座り直した。
「……若尾さんとはいつから?」
「今から1年ぐらい前……でしょうか。実は私達、学生時代クラスメートだったんです。その当時はそれほど親しくもなかったのですが、ある日、いろいろあって都内で再会して……それから付き合いが始まって」
「ということはあなたも、広島のご出身なんですね?」
若尾竜一の経歴を調べたところ、広島市内の生まれ育ちで、高校卒業後は都内の大学に進学となっていた。
「……はい」
そう答えた彼女の表情は暗かった。何か忘れたい過去でもあるのだろうか。
「若尾さんについてご存知のことを、教えていただけますか? 特に交友関係など」
すると亜美は何か苦いものでも飲んだような顔になった。
これは結衣の勘だが、彼女はきっと本気で被害者を愛していたに違いない。今は同棲という状況に甘んじていても、いずれは正式に籍を入れて……そう望んでいたのではないだろうか。
それなのに。
事件のあったあの夜、被害者は他の女性と同宿していた。おまけに彼女には別の場所に行くと嘘をついて。恐らくこう言うことは初めてではないだろう。
要するに被害者は浮気癖のある、だらしない男だったということだ。
その線で考えるなら、彼女にも動機はある……。
「彼は……元々、社会部の新聞記者だったんです」
「どこの新聞社ですか?」
彼女が答えたのは全国的に有名な大手の新聞社である。その上、社会部の記者なんてそれこそ古い言い回しかもしれなが、花形ではないか。
「だった……ということは、お辞めになったんですよね?」
変なことを訊いてしまった。旅行雑誌の記者をやっているということはつまり、そういうことではないか。結衣は忸怩たる思いで、向かいに座る被害者の彼女を見つめた。
「私のせい……なんです」
「え?」
「私が、彼の人生を狂わせたんです」




