意外と冷たいのね
「お名前は?」
「亜美です」
「戸籍上、若尾さんは独身となっていましたが……つまり、内縁関係ということですね?」
「はい……」
女性は少し俯き、肯定した。
それから、
「あの人が何かしたんですか? 今は出張で、遠くに出かけていますけど」
驚いた。彼女はまだ、彼氏の死を知らされていないらしい。
「残念ですが、若尾竜一さんは亡くなられました」
和泉が感情を込めずに淡々とした口調で言うと、亜美と名乗った女性は驚きを顔いっぱいにあらわした。
「嘘……」
「真実です。我々は若尾さんの死に関して調べるため、広島から参りました。いくらかお話を……」
亜美はその場に崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?!」
結衣は急いで手を差し伸べ、彼女の肩を支える。
「……広島って何? あの人、北海道に行くって出かけたのよ。何かの間違いじゃないですか?」
すると和泉がポケットから被害者の顔写真を取り出して見せた。
「若尾竜一さんは、この男性で間違いありませんか?」
間違いなかったようだ。
奪い取るようにして写真に顔を近付けた彼女は、はっと息を呑んで、それからがたがたと震えだした。
「……そんな、どうして!? いつの話ですか?」
「……2日前です」
「なんで私に連絡をくれなかったんですか?!」
無理もないと思う。
緊急事態があった場合、初めに連絡が行くのは戸籍上の家族である。
こちらが黙っていると、それ以上問い詰めても無駄だと悟ったらしい。相手は黙り込んでしまった。
「……若尾さんから、最後に連絡があったのはいつですか?」
「出かけて行った日の……昼間です。今、目的地に着いたって……」
そう答えて亜美は両手で顔を覆い、泣き崩れた。
そんな彼女に同情するフリも見せず、あくまで事務的に和泉は言った。
「少し、部屋の中を拝見させてください」
結衣は亜美の肩を抱いて、その背中をさすった。
返事を待たずに彼は中へと入って行った。
2DKの狭い部屋はきちんと片づけられていて、綺麗にしてある。
和泉は恐らく被害者の、部屋の奥に置いてあったパソコンの電源を入れた。
「パスワードをご存知ですか?」
先ほどまで泣いていた彼女は、それでも震える声ではい、と答えた。
口頭で答えるのではなく、自らパソコンに近づいてキーを叩く。デスクトップには様々なフォルダが置いてあって、どうやらタイトルを見る限り、ほぼ仕事関係のようだ。
和泉は無言のままメールソフトを開いた。
結衣はと言えば、本棚や三段ラックなどを調べてみた。本棚には被害者が勤めていた出版社の発行している旅雑誌が整然と並んでいる。
ランダムにそれらの雑誌を抜きとってペラペラめくると、何かがはらり、と床に落ちた。
拾い上げてみると、かなりクセのある字でメモが書いてある紙切れだった。
どうやら誰かの携帯電話の番号のようだ。
とりあえず写真を撮ってビニール袋に回収する。




