村八分ってつまり、こういうことよね。
忌中のため、ということで今日の営業は休止となっている。
それほど多くもない予約を入れてくれた客には他の旅館に振り替えてもらった。
これからどうなるのか、漠然とした不安が美咲の胸をよぎる。
葬儀の手配は年内ギリギリで間に合ったようだ。
白と黒の幕が張り巡らされた葬儀会場は、ひっそりとしていた。
今日は米島朋子の葬儀の日である。
ビアンカが一緒で助かった。先日、旅館で働きたいと申し出てくれた彼女は無事採用の運びとなり、臨時アルバイトではあるが今では同僚である。
その彼女は自分から、葬儀の手伝いを申し出てくれた。
助かった。こんな気の進まない葬儀に1人で参列していたら、気が滅入っていた。
「周はどうしてるの?」
「今日は冬休みの宿題を片付けるんだ、って部屋にこもってたわ」
休業日となった今日、周は朝からずっと勉強しているようだ。
「それにしても、田舎のお葬式って本当に盛大なのね」
ビアンカが呟く。
米島朋子の葬儀は浅井梅子が喪主となり、とり行われることになった。こういう時、生前の人となりがどうだろうと、一応、義理で近所の人達が集まって葬儀の準備をする。
年内ギリギリなので、誰もが不満げな様子だった。
参列者はほとんどない。ところが。
「……この度は御愁傷様でした」
そう言って記帳した男は、先日白鴎館で見かけた、ヤクザのような男である。
その後ろに控えているのは、斉木晃だ。
今度の彼氏はとうとうヤクザか。
この男は昔から自分が男色であることを隠そうともせず、常に力のある者の後ろに隠れているタイプだった。
子供の頃は一番体が大きくて乱暴な子、学校に上がればクラスを仕切る影響力のある生徒。
駿河がこの島に駐在としてやってきた時は、迷いなく彼に擦り寄って行った。
警察という国家権力を持つ上に、県内では名の知れた実家。
何より顔が好みのタイプだったらしい。相手にされなかったけれど。
ちなみに美咲が駿河に惹かれたのは、決して晃への当てつけではない。
冠婚葬祭の折りにはどんなに両家が憎み合っていても、一応顔だけは出す。それはおそらく平安時代よりも前から続いている社会通念のようなものだろう。
晃もまた、仕方なくといった空気を隠そうともせず、面倒くさそうに名前を記入した。
そう言えば……と美咲はふと思い出したことがあった。
晃の母親、つまり白鴎館の女将は長い間『行方不明』となっている。が、その理由については長い間、不明確となっている。
重い病気で伏せっているという噂もあれば、実は若い男と駆け落ちして海外に逃げた、とかいろいろ好き勝手なことを言われているのだが、こういう席に女将が参加しないということは本当に行方が知れないのだろう。
腕をつつかれて、美咲は考えごとをしていたことに気づく。
おざなりに儀礼的な挨拶を返すと、相手も美咲の顔を覚えていたらしい。
「あなたは確か、賢司の……」
ヤクザ男が話しかけてきた。
どうしよう?
「どうぞ中へ」
さりげなく、しかしはっきりとビアンカがそう言ってくれたので、失礼、と男は去って行く。
「ねぇ……」
男と晃の背中を見つめながら、ビアンカが眉根を寄せて訊ねてくる。
「今の人、知り合い?」
「和服の方は……ね」
晃は外出の際も、仕事の時もいつも和服を着ている。彼が学校の制服以外に洋服を着ている姿を見たことがない。
「気をつけた方がいいわよ。どっちも普通じゃない空気だったわ」
ビアンカは寒そうに身を竦めて言った。
猫がちょっと、亡霊みたい……(汗)




