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きっとこういうのが『あなたの知らない世界』なんだろうな

 店の奥、窓際の席に彼女はいた。


「あー、ともっちじゃん! おひさ~!!」


 日本語なのかそうでないのか、イマイチ確信が持てない言語で話しかけてきた少女を見た途端、聡介は似顔絵に描かれた女性と同一人物だと確信した。


 それにしたって……。


 今の若い子にしてみればそれが普通なのかもしれないが、なんていう格好だろう。


 そもそも髪が黒くないのがおかしい。生まれながらに明るい髪色をしている人間も確かにいる。が、この少女の髪は黄色に染まっているが根元は真っ黒だ。

 その上、まつ毛が明らかに不自然だ。


 キラキラというよりギラギラした派手な化粧に埋もれた素顔は、まぁ似顔絵で知っているが……。


「ねぇ何食べる? あたしねぇ、オムライスとクリームソーダ」

「自分で払えよ」

 友永が素っ気なく言うと、少女はむくれた。


「だったら、話ししない」

「おい、ふざけんなよ?」


 めずらしく、友永が凄味を効かせた調子で話し出す。「下手をすると、お前があの若尾竜一っていう野郎を殺したって疑われるかもしれないんだぞ」


 すると、少女は怯えた表情を見せた。


「そんな、困るよ……!!」

「だったらちゃんと、知ってることを全部話すんだな。それと。いつまでも他人にたかるのはやめろ。ちゃんと働いて、自分で稼ぐってことを覚えろ」


 牧田春子はしばらく悄然とうなだれていた。


「こういう店なんかどうだ? お前もやってみろよ、なんだっけ? お帰りなさいませだかなんだか……」

 しみじみと聡介は、友永の子供の扱いの上手さに驚いていた。

 

 長い間、生活安全課にいたという経歴は伊達ではないようだ。


 メイドの格好をした女性が注文を取りに来た。


 それにしてもなんだこの値段設定は。


 聡介は何も要らないから水、と言うつもりだったのだが、

「あ、俺とこっちのオジさんはカプチーノね」と、友永が勝手に注文してしまった。


 お前に『オジさん』とは言われたくないぞ。聡介は胸の内で呟く。


「……で。若尾竜一とはどういう知り合いなんだ?」

「ネットで知り合ったの」


「出会い系か? お前、ああいうのはやめろって……」

「違うよ、フェイスブック!! 竜ちゃん、コハルの中学時代の先輩の友達で……今は東京に住んでるけど、元々はこっちの生まれなんだって。それでネットの遣り取りをして仲良くなったんだけど……今度、取材旅行で宮島に来るから会わないかって誘われたの」

「取材旅行?」


「なんか聞いたこともない、旅行雑誌の記事書いてるんだって。あたしも別に宮島なんて今さらって気もしたけど、ちょっと高い旅館に泊まれるって聞いたし……」

「それから?」


「別に観光とかしなくていいから、って待ち合わせたのが夕方の5時ぐらいかな。それから一緒に旅館へチェックインして……そう、すっごい可愛い顔した男の仲居がいてね! 結局、連絡先教えてもらえなかったなぁ……」


 そこへメイドの格好をした店員が飲み物を運んできた。


「お飲み物にイラストを描けるんですけど、何の絵にしますか?」


 何を言ってるんだ? この子は。


私自身はメイド喫茶に行ったことはありません。他人様の経験談を元に書きました……。

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