表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/175

どこ行っちゃったのかしら?

「周君、周君?」


 女将と専務との遣り取りを終えた後、美咲は弟の姿を探した。館内では見つからなかったので実家に行ってみる。


 擦り寄ってくる猫達をおざなりに相手して、2階に昇る。


「……ねぇ、周君を見なかった?」


 2階の客間で賢司はパソコンを開き、仕事をしているようだった。


「さっき一度こっちに来たけどね。それからどこへ行ったかは知らない」

 そう、と美咲はもう一度旅館に戻ることにした。


 すると。

「放っておいてあげたらどうだい。あまりかまい過ぎると、うっとおしがられるよ。猫と一緒でね」

 後ろから夫の声が聞こえた。


 ムっとした時に携帯電話が鳴った。


 弟からだ。美咲は着信ボタンを押す。


『姉さん、今から浅井さんっていう人の家に……来られる?』

「え? 浅井さんって……」


『俺達の母さんのこと、よく知ってる人なんだって。いろいろ話したいことがあるから、来て欲しいって言われて』


 美咲はちらりと賢司の様子を見た。


 少なくともこちらの会話に耳をそばだてている様子はない。

「わかった、行くわ」


 美咲が部屋を出ようとすると、

「……どこへ行くんだい? また何か、トラブルでもあったのか」

 おかしそうに賢司が言った。


 どうしてこう、いちいち人の神経を逆なでするようなことを言うのだろう? この人は。


 隠しだてした、と後で変なことを言われるのも気に障るので、美咲は本当のことを言うことにした。


 浅井さんとは、かつての担任教師のことだ。美咲達の母親の担任だったこともあるらしい。


 そういえば。

 退院したら訪ねてくるよう言われていたことを思い出す。


「……僕も一緒に行く」

 賢司はパソコンの電源を落とすと、立ち上がって上着に袖を通した。


「どうして……?」

 美咲が困惑して訊ねると、


「どうして? おかしなことを聞くね。家族のことを知りたいと思うのは当然じゃないか」


「家族?」


 思わず美咲は日頃の様々な不満や、感情を込めて口調に思い切り出してしまった。


 しかし賢司は何も言わずに階下へと降りて行く。


 猫達が再びまとわりついてくる。

 美咲は三毛猫を抱き上げて、思わず話しかけてしまった。


「ねえ、プリンちゃん。私、失敗したかしら……?」


 それから玄関で靴を履こうとしている夫の後ろ姿を見て、美咲はふと感じた。


 なんとなく小さくなったような気がする……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ