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こう言う時だけは少し便利だと思う。

 向こうもだいぶ心を許してくれて、今ではすっかり親子の気分でいる。


 智哉もまた母子家庭の子供だった。


 彼の母親は智哉の父親と離婚した後、しばらくはシングルマザーで頑張っていたらしいが、来年の春に再婚する予定らしい。


 高校を卒業したら就職して、妹を連れて自立する、ある時、智哉はそう言った。


 だからといって妹を連れて自立するとは……。


 確かに、いわゆるステップファミリーが上手くやって行くのが難しいことは友永もよく知っている。


「……って、どう思います? 友永さん」

 ふいに回想を破られた友永は、話しかけて来た所轄の若い刑事を思わずジロリと睨んだ。


「何がだよ?」

「……俺の話、全然聞いていなかったんですか?」

 睨み返された。


「悪りぃ、考え事してた」


 コンビを組んだ若い刑事はとにかくおしゃべりだった。正直、右から左に聞き流していたのだが、耳栓でもしておかない限りは否応なく断片が頭に残る。


 するとその時、携帯電話が鳴りだした。ディスプレイを確認する。智哉だ。


「おぅ、どうした?」

 いつものことだが、智哉は電話をかけてもなかなか話し出さない。


『……あの、今……お仕事中ですよね?』

「気にすんな。それより、正月に行きたいところは決まったか?」


 沈黙が降りる。


 どうやら、少し様子がおかしい。


「今どこにいる? 何かあったのか?!」


『フジマート宇品店……です。絵里香が……』

「わかった、すぐに行くからそこを動くなよ?!」

 返事を待たずに友永は電話を切った。


「おい、俺はしばらく抜けるから! 後は1人で適当にやっておいてくれ!!」


 はい?! と呆気にとられた様子の若い刑事を無視して、友永は車を止めた場所に向けて走った。


 が、ふと気がついた。


 車に戻るよりもそのまま走った方が、現在地から近い場所だったことに。



 確かに『何か』あったらしい。


 パトカーが数台、黄色いテープで規制線が張られ、野次馬がぞくぞくと集まってくる。


 友永が規制線をくぐろうとすると、ダメダメ!! と制服警官に抑えられる。


「同業者だ!!」

 手帳をかざして中に入る。


 智哉の姿を探す。

 おそらく事務所だろうとあたりをつけた友永は、近くにいた店員を捕まえて、事務所はどこかと訊ねた。


 嫌な予感がした。


「智哉!!」

 事務所のドアを開けると、友永さん!! と叫んで飛びついて来たのは妹の方だった。


「絵里香?! どうしたんだ、何が……」

 智哉は2人の制服警官に囲まれて、青い顔をしていた。


「保護者の方ですか?」

 制服警官の一人が訊ねてくる。


「県警捜査1課強行犯係、友永だ」


 肩書きが大きく物を言ったようだ。相手はやや、気圧された様子を見せる。


 それから友永は事の次第を聞いて驚愕した。


 無事で良かった……。


 腕の中の小さな温もりが夢でも幻でもない、現実だと確認して安心する。


 それからふと嫌なことに気がついた。母親の姿が見えない。


 智哉にそのことを問いただそうとしたが、何も訊かないでほしい、そう顔に書いてあった。


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