あんたのところの上司って、顔が怖いのよね。
「へっくしょん!!」
「風邪ですか? 和泉さん!」
すかさず郁美が駆け寄り、心配そうな顔をする。
っていうかあんた、仕事しなくていいの?
上司にどやされない?
友人のそんな様子を見ていた結衣は胸の内で呟いた。
いつだったか郁美が言っていた。
これからはもうちょっと、積極的に和泉さんへアプローチする!! と。
「……うーん、誰かが僕の悪口言ってるんだよ」
たぶん間違いない……と思ったが、黙っていることにする。
この人、絶対に友達より敵が多いに違いない。
暮れも押し迫った12月27日。
早朝の電話で起こされ、広島湾にて遺体発見の一報が入った。現場は結衣の自宅からほど近くだったので実は一番乗りだった。
既に機動捜査隊と所轄の刑事達が集まっており、鑑識も作業を始めている。
捜査1課の中で最初に到着したのは結衣だったようだ。めずらしい。
駿河なんかは既に来ていて、聞き込みを始めているかと思っていたのに。
続いて到着したのが班長と和泉。
ちょっとだけ羨ましい、なんて思ってしまう。いつも一緒にいられるのが。
「……で? 身元を示すようなものは?」
班長の質問に、鑑識課の相原警部補が答える。
「所持品は免許証だけ。財布や時計はないな」
「行きずりの強盗かな……年末は増えるんだよね」
和泉が肩を竦めながら言うと、
「先入観を持つな」すかさず班長の声が飛ぶ。
はーい、とおよそ緊張感のない口調で和泉はキョロキョロ辺りを見回す。
「葵ちゃんとひろみさんと、友永さんは?」
言っている傍から日下部がやってきた。
「すみません、遅くなりました!」
そう言って走ってきた相棒の表情はなぜか嬉しそうだった。
これで年末年始、確実に休みが潰れるというのに……。
続けて友永と駿河のコンビもやってくる。
「すんませんね、道路が渋滞してたもんで。事故があったみたいですよ」
少しも悪気のなさそうで言う友永の隣で、彼の相棒は申し訳なさそうに俯き加減でいる。
全員が揃ったのを確認してから、班長は説明を始める。
「被害者の氏名は若尾竜一、36歳。免許証の住所から、東京の人間だ。つまり、こっちへは旅行か仕事で来ていると思われる。死因は解剖を待たなければ詳しいことはわからないが、恐らく……後頭部に固いもので殴られた跡があったことから、撲殺だろう」
結衣は必死でメモを取った。
東京の人間か……。
「まずは、周辺の目撃情報を聞き込み。そうだな……」
「はーい。僕、うさこちゃんと組んで行ってきまーす」
と、和泉がいきなり手を握ってきたので、結衣は驚いて硬直してしまった。
「ちょ、ちょ、ちょっと和泉さん?!」
思わずちらりと郁美の姿を探した。
彼女は手にしているボードに必死で何やら書き込んでいるから、こちらの様子には気付いていないようだ。
和泉はこちらに構わず、そのままどんどんと歩き進めて行く。
なんでそうなるの?!




