もうちょっといい例えはなかったのかしら?
実年齢よりも上に見えてしまうのは大抵の場合、心労が重なって、すっかり気持ちが塞いでしまうことに原因があると思っている。
重森悟史という巡査部長はあと2年で定年を迎えると言っていたが、もっと上の年齢に見えた。
杖をついて歩いているせいもあるかもしれない。
彼の別れた妻はそれに比べて、まだ若々しい。
2人はなぜ自分達が呼び出されたのか、よく承知している様子だった。
重森もその元妻も、坪井課長の顔を見てひどく驚いた表情を見せた。しかし、特に何も言わずに2人並んで、用意された席に座った。
彼の妻は鋭い目で部屋中に集まっている顔ぶれを眺め回し、そして奈々子のところで止めた。
睨まれた奈々子がびくっと震えたので、隣に座っていた結衣は彼女の肩を抱き寄せた。
「課長……」
しかし彼はそれ以上何も言わずに、口を閉ざしてしまった。
代わりに和泉は声をかけた。
「重森さん。なぜ、我々があなたをここにお呼びしたか……奥様ともども」
「私、この人の奥様なんかじゃないわ」
かつて『重森貴代』だった女性は、そこを強調するかのように言った。
しかし結衣は気付いていた。彼女が別れた夫を見つめる目が、とても温かく、どこか切なげな様子であることに。
妻であり、女性の見せる貌だ、と思った。
「話が面倒になりますから、今日のところは『奥様』でいいのではありませんか? 旧姓服部貴代さん」
重森貴代は黙り込み、俯いた。
沼田亜美は結衣の後ろに隠れるように座っている。まだ気付かれていないようだ。
どうか見つかりませんように。
「ねぇ、聡介君。これはいったい何の茶番なの? 私、暇じゃないのよ。急に呼び出されて……何かと思って来てみたら……」
すると和泉はムッとした顔で返答する。
「茶番はあなたこそですよ、重森貴代さん。聡さんみたいな純情オジさんを罠にはめようとしたりして。言っておきますが、この人が痴漢容疑で逮捕されたなんて話、厳島神社で徳川埋蔵金が見つかったって言うのと同じぐらい、信用できませんからね」
どういう例えだ……?
っていうか、痴漢って何?
結衣はちらりと班長を見た。
顔全体に汗を浮かべて、赤いんだか青いんだかわからない、そんな顔色をしている。
「……何の話?」
「そこは、聡さんの名誉のためにこれ以上掘り下げることはやめておきます。話を進めましょう。実を言うといろいろと調べていく内に、若尾竜一が殺害された事情、動機については、あらゆる側面があることに気づきました。詳しいことは、彼の学生時代にまで遡ります。若尾は……重森さん、亡くなられたあなたのお嬢さんとクラスメートでしたね?」
和泉は奈々子と、結衣の後ろに隠れている沼田亜美を見つめた。
「この件に関しては須崎奈々子さん、そして沼田亜美さん……ご本人の口から当時の状況をお聞きになった方がよろしいかと」
「沼田……?」
貴代の表情が強張る。
彼女は部屋の中を見回し、そうして気付いたようだ。
「あ、あんた……よくもノコノコと!!」
ものすごい勢いでこちらに近づいてくると、拳を振り上げる。
沼田亜美は怯えて、結衣の後ろで身体を丸めた。




