表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

161/175

早く決めてくれ

『どっちも』は、なし。『どっちか』だからね?


 別に、どっちも買ってやってもいいんだがな……と友永は思っていた。


 昨日は絵里香の具合がイマイチ優れないので、と会うことは敵わなかった。

 今朝になってようやく、少し落ち着いたという連絡が入り、友永は智哉とその妹を連れてデパートに出かけていた。


 本当は今日から仕事に出なければならない。


 しかし彼は、上司に無理を言って休みをもぎ取った。


 おもちゃ売り場で幼い少女の興味ある玩具を見続けること、およそ30分。


 新しいぬいぐるみ、それともおままごとセット。

 買ってもらえるのならどちらか、で彼女はひどく悩んでいる様子だった。


 どっちも買ってやるよ、と友永は申し出たのだが、彼女の兄は毅然と「どちらか一つです」と言い放った。


 意外と頑固というか、一度こう、と決めたら案外、意志は固かったようだ。


 ただ、正直なところこんなに待たされるのならいっそ両方買ってしまった方が……。


 別れた妻も、買い物に関しては優柔不断なタイプだった。


 友永の携帯電話が震えた。ディスプレイを確認する。和泉からだ。


「……なんだよ?」

 この男から連絡があると言うことは、間違いなく仕事絡みだ。


 今は、仕事のことは一切忘れさせてもらいたい。


『友永さん、これから宮島に来れますか?』 

 和泉の口調はいつもと違って真剣だった。


「まぁ、そりゃ物理的にはな……」


 北海道から、九州から、今から宮島に来いと言われたら無理だが、ここは広島市内だ。


『例の事件、真相を知りたくないですか?』


「……」

 くいくい、と上着の裾を引っ張られる。絵里香が不安げな顔でこちらを見上げていた。


 絵里香、ダメだよ。兄は窘める。


 行かないで。


 彼女の顔にはっきりと、そう書いてあった。


 迷いはなかった。


「……それは、後で書類の上で学習させてもらうさ」


『そうですか』

 電話の向こうの声は特別失望したようでもなく、淡々としていた。


「俺は今、子供達の父親をやってんだ。悪いが邪魔しないでくれ」


『……そう仰ると思いました。どうぞ、お子さん達とごゆっくり』


 通話を終えると、不安そうな智哉の顔が見えた。


 友永は彼の肩にぽんぽん、と触れる。


「今回ばっかりは、何も心配しなくていい」

「……どうしてですか?」


「どうしてってお前、いつものパターンだからだよ」


 友永は二カっと笑って見せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ