早く決めてくれ
『どっちも』は、なし。『どっちか』だからね?
別に、どっちも買ってやってもいいんだがな……と友永は思っていた。
昨日は絵里香の具合がイマイチ優れないので、と会うことは敵わなかった。
今朝になってようやく、少し落ち着いたという連絡が入り、友永は智哉とその妹を連れてデパートに出かけていた。
本当は今日から仕事に出なければならない。
しかし彼は、上司に無理を言って休みをもぎ取った。
おもちゃ売り場で幼い少女の興味ある玩具を見続けること、およそ30分。
新しいぬいぐるみ、それともおままごとセット。
買ってもらえるのならどちらか、で彼女はひどく悩んでいる様子だった。
どっちも買ってやるよ、と友永は申し出たのだが、彼女の兄は毅然と「どちらか一つです」と言い放った。
意外と頑固というか、一度こう、と決めたら案外、意志は固かったようだ。
ただ、正直なところこんなに待たされるのならいっそ両方買ってしまった方が……。
別れた妻も、買い物に関しては優柔不断なタイプだった。
友永の携帯電話が震えた。ディスプレイを確認する。和泉からだ。
「……なんだよ?」
この男から連絡があると言うことは、間違いなく仕事絡みだ。
今は、仕事のことは一切忘れさせてもらいたい。
『友永さん、これから宮島に来れますか?』
和泉の口調はいつもと違って真剣だった。
「まぁ、そりゃ物理的にはな……」
北海道から、九州から、今から宮島に来いと言われたら無理だが、ここは広島市内だ。
『例の事件、真相を知りたくないですか?』
「……」
くいくい、と上着の裾を引っ張られる。絵里香が不安げな顔でこちらを見上げていた。
絵里香、ダメだよ。兄は窘める。
行かないで。
彼女の顔にはっきりと、そう書いてあった。
迷いはなかった。
「……それは、後で書類の上で学習させてもらうさ」
『そうですか』
電話の向こうの声は特別失望したようでもなく、淡々としていた。
「俺は今、子供達の父親をやってんだ。悪いが邪魔しないでくれ」
『……そう仰ると思いました。どうぞ、お子さん達とごゆっくり』
通話を終えると、不安そうな智哉の顔が見えた。
友永は彼の肩にぽんぽん、と触れる。
「今回ばっかりは、何も心配しなくていい」
「……どうしてですか?」
「どうしてってお前、いつものパターンだからだよ」
友永は二カっと笑って見せた。




