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行ったり来たりはよくある話だが

「なぁ、葵。これから俺と一緒に宮島へ行かないか?」


「……つい先ほど、行って戻ってきたばかりですが?」


「もしかしたら、何か有力情報が手に入るかもしれないぜ?」


 彼は感情のこもらない顔でじーっ、とこちらを見つめてくる。


 顔にも声にも出さないくせに、割と内心がわかりやすい相棒だが、時々は本当に何を考えているのかわからないことがある。

 そう言う時はさすがに、少しだけ怖いと思ってしまう。


「……今の電話は、どなたからです?」

「鶏ガラ……もとい俺の檀家さんだ。節子さんって言ってな。彼女の同僚なんだぞ?」


「……彼女?」

「お前の元カノだよ」

 ぴく、と強い反応があった。


 元カノという表現はまずかったかもしれない。

 別に、さよならをした覚えはないだろうから。


「あの美人、弟と一緒になんだかんだってやたら事件に絡まれてんだろ。あの弟は確実に【持ってる】タイプだ。俺達もそれにあやかろうじゃねぇか。上手くすればまだ、他の刑事が掴んでない情報を手にいれて、手柄を挙げられるかもしれないぜ?」


 駿河は少し迷ったようだったが、

「あの子が『持って』いるのは確かです。しかし、班長の指示なしに、勝手な行動はできません」

 だいたい、と相棒は続ける。

「……組んでいる相方はどうしました?」


 忘れていた。

「所轄の若いのか?」名前も顔も忘れた。


 なんていうのは半分嘘だ。顔は覚えている。名前は忘れたが。


「わかってねぇなぁ、お前。俺はお前みたいな、未来のある若いのに名を挙げさせてやろうっていうな……」


 本音を言えば。

 一人であの原田節子に会うのが面倒だった。


 あの年齢で、あの外見でありながら【女性】であることを決して捨てていない。

 こちらはただの情報提供者として利用させてもらうつもりだったのだが、相手はどうやら……少なからず好意を持っているように思えるのだ。


 冗談じゃない。


 鶏ガラよりもしっかりと肉がついている方が、美味しいに決まっているじゃないか。


 とにかく。

 今はぼんやりしている上司に報告はしておこう。


 友永は立ち上がって班長に声をかけた。


「……ということなんで、葵の奴を連れて宮島に行って来ていいですか?」

「ああ、そうか。わかった。頼んだぞ」


 商談成立(?)

 友永が笑顔で駿河の元に戻ると、思い切り不審者を見る目で見つめられた。


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