この人絶対、詐欺師の才能があるわ。
ふと、壁にかかっているクリスマスリースが目に入った。
赤と緑のコントラストが美しく、犬や猫やクマを象った小さなぬいぐるみもところどころにくっついている。
手先が器用なのだろうか、とても丁寧で精巧に作られている。
「あ、これ……手作りですか? すごい、素敵ですね!!」
結衣はリースを指差して言った。
お世辞ではなく、本当に上手くできている。
すると。女性は気を良くしたらしく、制作に当たっての苦労などを話し出した。
用件と関係ない話に流れてしまったことを、和泉は怒っているだろうか? 適当に相槌を打ちながら、ちらりと彼の横顔を見上げる。
目が合った。
気のせいだろうか、笑ってくれたように思えた。
そうこうしている内に女性は、上がってお茶でもとさえ言ってくれた。
ひとしきり話し終えてやや打ち解けた頃、再び学生時代の頃の話題を振ってみた。
「それで、重森玲奈さんについてですが……」
女性はやや顔を強張らせたが、今さらだと悟ったのかもしれない。
諦めたようにはい、と返事をする。
「彼女は若尾さんに片想いしていたのですが、他に好きな女性がいると断られたことを苦にして、自殺した……とお聞きしました」
和泉はどうして、そんな嘘を言うのだろう?
結衣は不思議に思って彼の横顔にちらりと視線を走らせた。
「誰に聞いたんですか? そんな話」
「元、担任だった先生からです」
すると彼女は嘲笑を浮かべて肩を竦めた。
その仕草にどういう意味があるのか、結衣には図りかねた。
それから彼女が話してくれた詳しい内容、人間関係については、担任教師が教えてくれたこととほぼ相違がなかった。
だが。
「ここだけの話ですよ? 私は絶対に関わっていませんからね」
彼女は声を潜めて話し出した。
「もちろん、そんなことは少しも考えていませんよ」
そう語る和泉の口調は、どこか詐欺師のように結衣には思えてならなかった。
「重森さんが亡くなったのは自殺なんかじゃなくて、沼田亜美が殺したんだって噂になったことがあります」
「なぜ、そんな話に……?」
「私、見たんですよね。彼女が亡くなったあの日、沼田亜美とその取り巻きが4人ぐらいで……一緒にあの、みなと公園の方に歩いて行くのを……」
「その時、須崎奈々子さんは一緒じゃなかったんですか?」
女性はしばらく記憶をまさぐるように天井を見上げていたが、
「あの日は確か……珍しく、放課後に須崎さんの方が先に帰ってたかも……そう、思い出した! 重森さん、沼田亜美の手下に囲まれて、あれはまるで刑務所に連れて行かれる囚人みたいだったわ……」
嫌な例えだ。
しかし結衣は、顔にも口にも出さないように気をつけた。
「私はその後のことを見ていないからわかりませんけど、次の日に……重森さんが亡くなったって聞いて……まさかと思いました」
「まさかと思ったとはつまり、沼田亜美が彼女を殺したんじゃないかと考えた、ということでしょうか? あなただけでなく、当時のクラス内の実情を知っていた全員が」
和泉が問うと彼女はそうだ、と答えた。
「でも、誰もそんなこと口にしません。下手なことでも言おうものなら、例の父親が出てくるってわかってますもん。それに、妙な噂が立たないようにっていう釘刺しかどうか知りませんけど、わざわざ警察の人が来て、詳しい事情を説明したんですよ。もうびっくりしました……」
普通はそんなことをしない。
何か裏でもあったのだろうか……。




