ぜ~んぶ、お見通しなんだよ?
「……で、これって既に決定事項なんですか?」
隣を歩く女性刑事はムスっとした顔をしている。
「何が?」
「私、今回はずっと和泉さんと組まなきゃいけないわけですか」
「嫌なの……?」
悲しそうな声音をしてみせると、気持ちの優しい彼女は途端、返答に詰まってしまう。
「い、嫌とかそういう……こと……じゃなくてですね」
「それとも所轄の脂ぎったオジさんと組みたかった? 気付いていないかもしれないけど、うさこちゃんのこと、すごくいやらしい眼つきで見てたのが1人いたよ」
「まさか……」
これは本当の話だ。
実を言うと和泉が相方に結衣を指名したのには、ちゃんと理由がある。一つは変態オヤジのセクハラから守るため、もう一つは……。
「ところで和泉さん。奈々子さんっていう仲居さんとは、どういう関係なんですか?」
「……うさこちゃんってさぁ~」
結衣が身構えたのがわかった。
「こないだの『周君とはどういう関係ですか?』に引き続き、今回は『奈々子さんって誰』ときたもんだよね。どうしてそんなこと訊くの? 僕のこと、そんなに気になる?」
理由は知っている。
彼女自身が和泉に興味があるわけではなく、彼女の友人のためだと。
結衣は再び答えに詰まっている。
和泉と結衣は2人で、姿を消した奈々子の行方を追うため、彼女の使用していた従業員寮へ向かっていた。
フェリーを降りて、まずは歩いて旅館へ向かう。
その道中のことである。
結衣はこちらに聞こえない声でブツブツ何か言っている。
適当に聞き流しているところへ、向かいから見覚えのある顔が歩いてきた。
和泉は思わず足を止めた。
相手もこちらに気付き、足を止める。
「これは……確か県警の刑事さん、でしたよね?」
直接遣り取りをした機会は少ないが、顔と名前は知っている。支倉潤。県内で巨大な勢力を誇る暴力団組員。
先日話を聞いた、被害者の彼女の実家を取り仕切っている男。
「魚谷組の支倉さん、ごきげんよう」
すると相手は微笑んだ。
「ええ、おかげさまで。今日はとても気分がいいのですよ」
「それは何より。白い粉が市場価格の、倍以上の値段で売れたりしましたか?」
初めは何のことやら、という顔をしていた結衣が、いろいろなことに気付いたのだろう。
顔を青くして、和泉の袖を引っ張る。
「……そうではありません」
和泉の挑発に相手は乗らなかった。
「とても可愛い男の子を見つけましてね。あの子なら、芸能界に入れても上手くやって行けるのではないかと……」
そう言えばこの男は表向き、芸能プロダクションの真似ごとをしていた。
それはよかったですね、と和泉は適当な相槌をうつ。
「もっとも、家族は猛反対するでしょうけどね。あいつは昔から頭が固くて、保守的ですから……ご存知ですか? 藤江賢司というんですが」
「……!!」
この男の言っている【可愛い男の子】が、周のことだとすぐにピンときた。
和泉は思わず手を伸ばし、支倉の胸ぐらをつかみかけた。が。
「和泉さん!!」
結衣の声で我に帰り、手を引っ込める。




