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王の住まう城の地下。
今日も魔女は魔法の鏡に問いかけます。動きが普段よりゆっくりなのは筋肉痛だからです。
「鏡よ鏡、答えておくれ。世界で一番美しいのは誰?」
「それは……白雪姫です」
「あら、あらあら、今日はスタンダードなのね。どうしたの、お腹痛い? ……お腹?」
「いえ、別に体調が悪いわけではありません。ただ白雪姫がこちらに近付いてきていて……」
「お義母様!ケーキ食べましょう!」
「ついには忍び込むのをやめて堂々と入ってきたわね! 出ていきなさい!」
「えぇー、食べてください。私の手作りですよ!」
「なにが手作りよ。しょせん出来たものにちょこっと手を加えただけでしょ。あんたのような小娘が汚い手で弄繰り回したケーキなんて食べたくないわ」
「酷いです、私ちゃんと一から作ったんですよ……イチゴだってベランダで育てて、小麦粉だって裏庭の菜園で農家の人に教えてもらって……」
「白雪姫、そこまでしてご主人様に」
「牛乳だって、牛の出産に立ち会って取り上げた子牛を乳牛まで育て上げたのに」
「想像以上に長期戦」
「パティシエだって一から作り上げたんです」
「そこの分野は自分でやろうか……。パティシエを一から!」
「あぁ、白雪姫帰っちゃった。一口ぐらい食べてあげたらよかったのに」
「ちょっと優しくすると直ぐつけあがるから良いのよ。それにあの子には私が毒リンゴを食べさせてやるんだから!」
「はいはい、そうですね。ところでご主人様」
「なにかしら?」
「世界で一番美しいのは俺です」
「ぶり返す」




