表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/103

70話 暴虐の灰厄禍6

灰龍戦、ひとまずここで終了……!


 シズクは左手を前にかざすと、一枚の障壁を展開した。

 

「そんなチンケな壁で、俺様の新たな技である『角突槍弾(グングニール)』が止められるかよォ!!」


 鼻で笑いながら、勝利を確信し叫ぶアッシュヴァイオレンスドラゴンーー灰龍。


「シズクは何考えてんだい?! いくらなんでもあれじゃぁ無理だよ!!」


「クソっ!!」


 無意味と分かっていても、いても立ってもいられず駆け出そうとするアスリとガレリア。


「シズク様なら大丈夫です。信じましょう」


 どこか達観した様子で見守るリルノードに止められた二人は、心配そうにシズクに視線を向けた。


 そして、ついにぶつかる灰龍のグングニールとシズクの障壁。


 大きな衝撃音が遠く離れたリルノードらの元まで鮮明に鳴り響くも、障壁に完全に阻まれた灰龍は障壁にぶつかったまま回転し続ける。


 灰龍は一瞬でシズクごと貫通すると思っていただけに、障壁を貫いた感触がないことに驚きを顕にした。


「どう言うことだッ?! ざけんなよ、こんなことある訳ねぇ!!」


 事実を受け入れられず、その場でさらに灰炎を吹き出し突破を試みる。


 だが、結果は変わらない。

 

 やがて徐々に失速していき、ついにはその場でピタリと止まってしまった灰龍。


「お、俺様のグングニールが……?!」


「残念だったね。出直しておいでよ」


 失意のどん底にいる灰龍に向けて、障壁を消したシズクは無数の氷柱の雨を見舞わせる。


 灰龍は咄嗟に腕と翼を交差させて身を守るも、成すすべなく身体中に深い傷を負いながら吹き飛んでいった。


「クソ……。このままじゃ終われねぇ……。終わらせねぇぞ……ッ!!」


 よろよろと立ち上がり、全身に力を込める灰龍。


 だが、その気迫からプレッシャーこそ放たれたものの、身体から黒炎が吹き出すどころかうんともすんとも言わない。


「魔力切れ……?! 俺様が……?!?!」


「で、どうするの? まだやる?」


「あの雌が余計な手間をかけさせなきゃ、こんな奴……!! テメェの顔は忘れねぇぞ……。次に()る時は、ぜってぇぶっ殺す!!」


「……次? 次が本気であると思ってるの……?」


 シズクが言葉と共に放った冷たく重いプレッシャーは、灰龍に容易に自身の死を想起させた。


 無意識に後退りすると、まるで逃げるようにその場から勢いよく飛び立ちシズクから離れていく灰龍。


 その姿が見えなくなるまで見つめていたシズクは、完全に気配が消えたことを確認するとセツカに振り返る。


「セツカ、大丈夫? ヒールとかって効くのかな……」


「これくらいの傷、なんてことはありません。主殿の食事を食べていれば、放っておいても回復します」


「そうなの……?」


「我らの身体は魔力さえあれば、たとえ腹に風穴が空こうが翼がもげようが回復します故」


「凄いんだね……。なら、たくさん食べなきゃだ。人化はできる?」


 シズクの言葉にコクリと頷いたセツカは、その場でススス……と縮んでいく。


「ちょっとごめんね」


「なっ?! 主殿?!」

 

 人の姿に変化したセツカをお姫様抱っこしたシズクは、ふわりと空中に浮かび上がるとリルノードたちの元へと移動し始める。

 その間、顔を真っ赤にして茹蛸のようになったセツカは終始固まっていた。


「お疲れ様です、セツカ様。シズク様。この度は……あら?」


 セツカの異変に気付いたリルノードが言葉を止めると、慌てて頭を振るセツカ。


「オホン。任せよなどと大口を抜かしておきながら、リル嬢たちに心配をかけてしまったようですまぬ」


「いえ。元はといえば、わたくしたちがこの場にいたせいですから……」


「それでも、だ。我に慢心があったのは否めん。結果、主殿の前でこのような醜態を晒す結果になってしまった。本当に不甲斐ない」


「セツカ様……」


 悔しそうに顔を歪めるセツカに、悲しそうに目を伏せるリルノード。


「セツカらしいね。でも、僕は怒ってるんだ」


「シズク様?!」


 シズクの思いがけない言葉に、驚くリルノード。


「我が弱いばかりに、お手間をかけさせて申し訳ありませんでした! どのような罰でも受ける覚悟です!」


 その場で片膝をついてかしずき、じっとシズクの言葉を待つセツカ。


「違うよ。僕が怒ってるのは、そう言う理由じゃない。セツカが僕たちのために、自分の命を投げ捨てるようなことをしたことだ」


「ですが、我は……」


「僕がセツカの立場だったとしても、同じことをしたかもしれない。だから否定することはできないって、頭では分かってるんだ。それでも……やっぱりセツカが僕のせいで傷つくのは嫌だった。だから、約束してほしい。今後似たような状況になった時、自分のことも大切にして。僕だって自分の身を守ることはできるつもりだよ。それとも、セツカにとって僕はそんなにも頼りない?」


「そんなことはありません……! 我などいなくても、主殿はとてもお強いです!! ……だからこそ、我は矛となり盾となることでしかお役に……」


「セツカは強いよ。僕も頼りにしてるし、ティアやネイア、ラナだって同じ気持ちだと思う。でも、僕たちがセツカと一緒にいるのは、セツカが強いからって訳じゃない」


「……? 龍たる我に、強さを求めない……?」


 心底不思議そうに、ぼうっとシズクを見つめるセツカ。


「出会いこそ決して良いものとは言えない僕たちだったけど、今はお互いに少しずつ歩み寄れてると思うんだ。僕はセツカと一緒にいるようになって、真面目な性格や人間に興味があることを知ったし、これからもいろんなことを知りたいと思ってる。それは龍だからとか強いからとかじゃなくて、セツカだからなんだよ」


「我だから……。で、では仮に我が何かしらの理由で戦えなくなったとしても、傍に置き続けてくださると言うことですか……?」


「セツカがそう望んでくれるなら、僕はもちろんと答えるよ」


「望みます! 我は……我は主殿に見限られるのが、怖くて怖くて仕方がなかった……」


 俯いたまま、わずかに身体を震わせるセツカ。


「主殿のお力の一端を垣間見た時の衝撃は、今でも鮮明に思い出せます。生まれて初めて、何があろうとも絶対にこの方と敵対してはいけないと本能が警鐘を鳴らし、同時に畏敬の念を強く抱きました。そればかりか、ティア嬢やネイア嬢の命を脅かし主殿の命までもを狙った我を許してくださり、食事まで与え、不躾に願い出た頼みも聞き入れてくださった。主殿のおかげで、我の世界はとても暖かく、光あふれるものとなりました。主殿の傍にいると、我は生の喜びを実感できるのです……」


「セツカ……」


「我に求められるのはいつでも強さでした。庇護を求めて近づいてくるもの。脅威を取り除いて欲しいと願うもの。様々な理由から色々なものたちが寄ってきましたが、その誰もが我が負けると去っていくのです。故に、我の存在意義は強さなのだと、強くなければ何処にも居場所は無いのだと思っていました。でも……主殿はそうでは無いと、我であればそれで良いと、そう言ってくださるのですよね? 誓って頂けるのですよね?」


 今にも泣きそうな瞳で、すがるようにシズクを見上げるセツカ。


「そんなに不安に思っていたなんて、今まで気づけなくてごめんね。僕、シズクはここに誓うよ。セツカを強さで判断なんてしない。セツカがセツカらしくいてくれることを望む。僕とセツカは、これからも一緒だよ」


「ありがたき幸せ……! このセツカ、改めて主殿に我の全てを捧げることを誓います!」


「ま、今はこれでいいのかな……。改めて宜しくね、セツカ」


 結局付き従うような感じになってるけど、ゆっくりと打ち解けて関係性も変化していけばいいかな。

 そう思い、セツカに笑顔を向けたシズク。


「なんと尊い光景でしょう……。わたくし、お二人に出会えた奇跡を神に感謝せずにはいられません。そうですね、このお話を本にいたしましょう。それがいいです」


「リルノード公、やめてください……。それと、そろそろ出てきませんか? いつまでも隠れているようなら、敵対心がなくとも敵とみなしますよ」


 リルノードの提案に苦笑いを浮かべたシズクは、すっと目を細めると夜空の一点を見つめた。


「……バレてたのね。さすが、と言うべきなのかしらぁ?」


 何もいないはずの場所から声がすると、突如として一匹の龍が姿を現したーーー。


いつも当作品をお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、↓の⭐︎から評価や感想、ブックマークをお願いします!

皆様の応援が執筆の力になり、作者の励みになりますのでぜひ……!

よろしくお願いしますー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載始めました!
追放《クビ》から始まる吸血ライフ!
よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[一言] あートドメさせませんでしたか……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ