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43話 似て非なるもの


 色々あってドッと疲れたまま朝を迎えた僕たちは、前日の提案通りグラーヴァさんに連れられて皇城の敷地内にある訓練施設場へと向かっていた。


「おう、本当に大丈夫かよ? 別に明日でもいいんだぜ?」


 疲れた顔してんぞって心配してくれたグラーヴァさんが、そう声をかけてくれる。


「ご心配をおかけしてしまい、すみません。昨夜は少し気分が高ぶりすぎてしまって、よく寝付けなかっただけなんです。本当に大丈夫ですから」


「そうかあ……? ならいいんだけどよ。ま、無理はすんじゃねーぞ。お、ここだ」


 たどり着いたのは、石造りのスタジアムのような場所だった。


 周囲には幾重もの結界が張られていて、上級魔法くらいまでなら外部への影響を防いでくれるそうだ。


 スタジアムの中心に設置された大きな闘技場に上ると、グラーヴァさんが我慢しきれないといった様子で口を開いた。


「お前さんがどの程度のことが出来るのかわからねぇから、ひとまず午前中は貸し切りにしてある。早速だが、まずは攻撃魔法をあの木型に向かって適当に放ってみてくれるか? 気になって仕方ねぇんだ」


 グラーヴァさんの言葉に頷いた僕は、『火刃』を始めとした各属性の刃魔法。

 『火球(ファイアーボール)』を始めとした(ボール)魔法。

 最後に『火剣』を始めとした剣魔法を発動し、合計30の魔法をグラーヴァさんに見せた。


「僕が使える攻撃魔法は以上です。あとは多少アレンジして使ったりするくらいですね」


「ふーむ。発動から魔力操作まで、どれをとっても一級品だな。これでなぜ中級魔法が使えないのか、さっぱり理解できん……」


 うーむとしばらく考え込んでいたグラーヴァさんは、気持ちを切り替えるように頭を振ると次の指示を出す。


「とりあえず、次は無属性だな。まずは『マジックボックス』を見せてくれるか?」


 僕は指示通りにマジックボックスを発動させると、空中に生まれた裂け目から手を入れ、亜空間からいくつかの素材を取り出して見せた。


「こんな感じですが……」


「んん……? これはどうなってやがんだ……??」


 頭の上に疑問符をたくさん浮かべたような顔をしたグラーヴァさんが、唸りながら首をひねる。


「んー、わからん! とりあえず保留だ! お次は『テレポート』を頼みたいんだが、気持ちが悪くなるんだったか? すまねえが、一回だけ頼めるか?」


「……わかりました!」


 覚悟を決めると、少し離れた場所に移動してからテレポートを発動。

 一瞬でグラーヴァさんの後ろへと回り込み、肩をトントンと叩いた。


「こいつは驚いた。確かにテレポートに()()()な……。だが、お陰でようやくわかったぞ」


 その場にへたり込んだ僕に、ニヤリと笑うグラーヴァさん。


 ほどなくして体調が戻った僕を見て、説明を始めてくれた。


「坊主が『マジックボックス』と『テレポート』だと思って使ってる魔法だが、あれは似たような能力をもつ、まったく別もんの魔法だな。おそらく、ワシの本を読んで独学で覚えたんだろう?」


「え……? そ、そうですけど……」


「まずはマジックボックスだがな。あれは確かに、亜空間に接続することで重量なんかを気にせず大量の荷物を持ち運べる収納魔法だ。そこは合ってる。だが、亜空間を自ら形成して作り出す魔法ではないんだよ。お前さんのマジックボックスが魔力の割に容量が少ないのは、そのせいだろう」


「えぇ?!」


 衝撃の真実に固まる僕。


 対照的に、ティアとネイアは腑に落ちたのか、なるほど……とどこか納得した様子だ。


「次にテレポートだが。これは完全に似て非なる魔法だった。本来のテレポートは、事前に準備した転移先の目印――魔力痕の元に自分自身を召喚する遠隔逆召喚魔法だ。入念な準備が必要だし、なにより付けた目印にしか召喚できんから戦闘ではそうそう使えん代物なんだがな。坊主のはどちらかと言えば、ゲートという空論上にだけ存在する魔法に近いものだと思う」


「ゲート……?」


 僕たちは聞いたことのない魔法に、そろって首を傾げる。


「ゲートは空間と空間とを繋ぎ合わせることで、距離に関係なく一瞬で移動できるという魔法だ。これなら理論上は思い浮かべた好きな場所へと移動することが可能なわけだが、実際は仮に目印があったところで現実問題無理だと結論づけられた」


 はずだったんだがなぁ……。と、ひと呼吸置いたグラーヴァさんが呆れ顔で僕を見やる。


「まず、第一に空間同士を繋げるのにとてつもない魔力を消費するんだよ。それこそ、『天道』3~4人がかりでやっとといったところだな。二つ目に、空間を渡る際にかかる負荷が多すぎて身体が耐えられないんだ。一度試しにと他の天道とゲートを発動させたことがあったんだが、結果は散々だったぜ」


「ど、どうなったんですか……?」


「確かに、理論通り移動には成功した。大木どころか、天道二人掛かりで散々魔力を込めて高硬度にしたミスリルでさえ、移動した瞬間に吹っ飛んだけどな」


「「「……」」」


 ミスリルといえば、魔力を込めれば込めるほど硬度を増す魔鉱石だ。


 天道二人掛かりで魔力を込めたミスリルなら、それこそ世界最高の硬度を誇るとされるアダマンタイトにすら匹敵するほどだろう。


 自分がとんでもなく恐ろしい魔法を行使していたと知って、顔を青ざめさせた僕。 


「ああ、おそらくだがお前さんのは心配ないぞ。ワシらのと違って、空間同士の接続がしっかりしていたからな。気持ちが悪くなるのも、一度に大量の魔力を消費したことによるものだろう」


 真面目な顔で、自身の見解を告げたグラーヴァさん。

 ただ、一応奥の手としていざというとき以外は使わないほうがいいと注意された。


 それから僕はグラーヴァさんから正しいマジックボックスを教わり、ほどなくして本来の『マジックボックス』を習得するに至った。


 グラーヴァさんは何やらインスピレーションが刺激されたらしく、もう一度ゲートの研究を始めるらしい。


 こうして、グラーヴァさんと別れた僕たちは皇城へと戻るのだった―――。

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