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理系女子の恋~大学生編~  作者: 流音
act5:成長<詩織、井坂>
37/40

4、諭される

谷地詩織視点です。






「俺も知ってるけど、井坂君はここにいないよな?」



僚介君の鋭い視線と真剣な表情に、私は息をするのも忘れて彼の顔を見つめた。

そうしていると僚介君から手が伸びてきたのが見えて、私はビクッと身体の動きを取り戻して両手でガードして思いっきり後ろに下がった。

すると前から小さな笑い声が聞こえて、ちらっと目だけ前に向ける。


「やっと分かった?」


僚介君の優しい声と共に温かい手が自分の腕に触れて、ガードを下げさせられる。

私は声も出ずぽかんとするしかない。


「詩織、助けてくれる井坂君はいないだろ?」

「え…。」


やっと声が出て説明を待っていると、僚介君は顔を緩ませて言った。


「柳尾君と仲良く出かけるのはいい。だけどちゃんと男と女だってこと自覚して、警戒しないとダメだ。今みたいな状況になったとき、助けてくれる井坂君はいないんだからさ。」


僚介君の言いたい事がやっと分かって身体の緊張が解ける。


「今日だってライブの終わった時間遅いし、俺に会わなかったら二人で電車で帰るつもりだったんだろ?」

「うん。」

「その道中何があるか分からないしさ。あまり夜が遅くなるライブは二人で出かけるのは控えた方がいい。柳尾君が何を考えてるのか分からない以上は。」

「………うん、でも柳尾君は本当にそんなこと―――」


「詩織。」


私はやっぱり柳尾君はそんなこと微塵も考えてないと否定しようとしたのだけど、また僚介君の顔が厳しいものに変わり反射的に肩を縮める。


「はっきり言うけど、男が女を誘うときは大概下心があるんだからな。」

「え。」


私は下心の意味することがぱっと分からなくて目を瞬かせると、僚介君は視線を掴んでいた腕に移して言った。


「男が女を誘うとき、相手の女に少なからず気がある。あわよくば相手に好きになってもらいたい。そうならなくても接点が欲しい、相手に自分を見て欲しい―――できることなら相手に触れて…そこから関係を深めたい。」


僚介君は言いながらいやらしく私の手を握ってきて、思わずその手を振り払って窓際に寄ると僚介君と距離を空ける。

僚介君はそれにニヤッと意地悪な笑顔を向けてくると、前に向き直って車を発進させた。


「さて、詩織に俺の気持ちは分かるでしょうか?」

「!?!?」


私は頭が混乱してきて口をパクつかせて声が出ない。

そんな私の反応を面白がってるのか、僚介君は声を殺して笑う。


「俺の気持ちすら分からないなら、柳尾君の思ってる事なんてもっと分からないと思うけど?」


僚介君は「これからしっかり教え込まねーとダメそうだな。」とぼやくように続けて、私は身の危険を感じて肩を縮めながらちゃんと家に着くことだけ願ったのだった。








僚介君はガチガチに警戒していた私を意外にもちゃんと送り届けてくれると、別れ際にご飯の約束だけさせられてその日は帰っていった。

私はこの出来事を井坂君に報告すべきか悩んでケータイを握りしめていたら、何か察知したかのように着信を知らせて慌てて出る。


「はい!もしもし!」

『あ、詩織?今、家??』


電話の主は井坂君で私は怪しまれないよう明るい声で頷く。


「うん!家だよ。」

『そっか、それなら良かった。』

「良かった?」


井坂君が何を心配してそう口にしたのか分からず訊き返すと、井坂君が軽く咳払いしてから言った。


『いや、さっき寺崎僚介から電話きて…。』

「僚介君?え、なんで僚介君が井坂君の電話番号知ってるの?」


私は二人がそこまで仲良いはずはないと思って尋ねると、井坂君は言いにくそうに説明してくれる。


『いや…、その――前の…合コンつながりで…交換してて…。』

「あぁ…、そんなこともあったね。」


大学一年のときのことを思い出して納得する。


「それでなんで僚介君が井坂君に電話するの?」

『あー…、詩織今日、例のライブだったんだろ?偶然会って家まで送り届けたって連絡でさ。』

「あー…あははは…、わざわざ井坂君に報告してくれてたんだ…。」

『まぁ…過去の事もあるから、念のためちゃんと家にいるか確認しときたくて…。』


井坂君が私の身を心配して電話してきてくれたことに嬉しくて胸がいっぱいになる。


「大丈夫だよ。僚介君とは絶対そんなことにならないから。」

『そうみたいだな。今度飯も行くけど許せよって言われて、まぁ…なんとなく大丈夫そうかなと思ってさ。』

「あ、それも言ってたんだ。へぇ…。」


私が井坂君に説明する前に全部僚介君から伝わってたことに驚く。


いったい何を思って井坂君に全部報告したんだろう…?


僚介君の考えてる事がますます分からなくなってきて一旦考える事を放棄する。


『詩織…、その…大丈夫だって思いたいんだけどさ…。』

「うん?」

『その…、ちゃんと…遅くなる前に家に帰れよ?』


………ん?


私は井坂君が何に対して注意してるのか理解できず考えを巡らす。

すると井坂君が再度言う。


『寺崎僚介は…たぶん大丈夫だと思うんだけど…、夜遅いのはよくないと思うからさ…。21時前には家に帰るって約束してくれ。』


ここでやっと僚介君とのご飯の件だと理解して大きく頷く。


「うん、大丈夫!21時前には帰るって約束するよ!」

『良かった…。じゃ、それだけだから。疲れてるだろうし、ゆっくり休めよ?』

「うん、ありがとう。心配して電話してくれたこと、嬉しかった。また電話するね。」

『おう。じゃ。』


井坂君はちょっと声が嬉しそうに上擦っていて、私は井坂君から伝わる気持ちに顔が緩んでおさまらなかったのだった。






***






そうして僚介君とご飯する約束をした日がやってきて、お互いの中間地点の駅で待ち合わせて合流した。

僚介君は駅前の個室居酒屋を予約してくれていたようで、並んでいるお客さんを横目にしっかり壁で仕切られた個室の席に案内される。

私は掘りごたつタイプの奥側の席に腰を落ち着けると、居酒屋独特の空気に緊張の息を吐き出す。


「詩織、もしかして居酒屋初めて?」

「うん。二十歳になったの最近だし…、みんなお酒飲まないから…。」

「マジ?せっかく飲めるようになったのにチャレンジしないなんて勿体ないな~。じゃ、今日デビューするか。」


僚介君は慣れたように私にドリンクメニューを手渡してきて、私はたくさんある種類に目がチカチカする。

眉間に皺を寄せてなんとか種類を理解することに努める。


「女の子なら初めてはカクテルとかじゃないかな。ジュースみたいで飲みやすいし、よく頼んでるの見るけど。」

「ふーん…、じゃあ、このピーチ…なんとか系にしようかな…。」


桃ベースのお酒と書いてあったのを見て適当に一つを選ぶ。

それを見ていた僚介君が自分のハイボール?というお酒と一緒に注文してくれる。

あ、もちろん食べるものも一緒に。


そして運ばれてくるのを待つ間、僚介君がふーっと息を吐いてから話しかけてくる。


「詩織、井坂君とは変わらずなんだ?」

「え、うん。遠距離だけど…なるべく会うようにしてるよ。」

「そっか。遠距離になってもう三年目だろ?変わらず想い続けられるってすげーよな。」

「そうかな…。」


僚介君とは過去の事もあるので話題に返し辛くなっていたら、私の気持ちを察したように僚介君が笑った。


「俺は今まで何人か彼女いたけど全然ダメ。距離近くてもこれだから本当すげーと思うよ。」

「彼女…、そうなんだ。」


私は僚介君もちゃんと恋愛していたことにほっとする。

まぁ、モテる僚介君なら当たり前だろうけど。


「上手くいく秘訣って何かある?ほんっと長く続かなくてさぁ…。」

「秘訣か…、そんなのあったら私も知りたいけど。特に何もしてないからな…。」

「ふ~ん…、きっと詩織のことだから無意識にやってんだろうな。現に今もちょっと詩織に癒されてるし。」

「へ!?今、何もしてないけど!?」


私がビックリして首を振ると僚介君は楽しそうに笑い始める。


「あはははっ!そういうのが気が抜けるんだよな~。雰囲気変わっても中身そのままで安心した。」

「……それって成長してないみたいに聞こえるんだけど…。」

「褒めてんだって。そのままが良いって最高じゃん?」


小馬鹿にされたように笑われているので、いまいち納得できない。


「そういえばあれから柳尾君だっけ?特に何も言ってきたりしてない?」

「柳尾君?うん、いつも通りだし…何か言われたりはしてないけど…。」

「そっか、なら様子見かな。」


スッと目を細めた僚介君の表情が一瞬怖く見えて、私は以前も言った事を口にする。


「何を心配してるのか分からないけど。柳尾君は良い後輩なんだから疑って欲しくないんだけど。」

「良い後輩なら疑わないんだけど。俺の目にはそう見えなかったからさ。詩織はもう少し人を疑うってことを覚えた方がいいよ。」


僚介君が言い終えたところで注文したお酒とお通しが運ばれてきて、私は言い返すタイミングを見失って店員さんが立ち去るのを待つことになる。

そうして店員さんが立ち去ったタイミングで口を開こうとしたら、僚介君が「はい、乾杯。」とお酒の入ったグラスを傾けてきて、私はそれに倣って同じように傾けて一口飲んだ。


「うわ、なにこれ。美味しい…。」

「だろ?」


私はジュースみたいに甘いお酒にビックリしてさっきまでの不満を忘れてもう一口飲む。

それを満足そうに眺めながら、僚介君はお通しをつまみながら同じようにお酒を口にして微笑む。


「他にも種類いっぱいあったはずだから、色々試してみたら。飲み放題だし、飲んだ方がお得だしさ。」

「へぇ…。飲み放題なんだ。じゃあ、次この辺いこうかな。」


飲みやすいせいか気が付いたら半分以上なくなってしまったので、メニューを手に次に挑戦したいカクテルに目星をつける。

そこからお酒の効果か気分が弾んできて、私は三杯目を頼んだ辺りから僚介君と何を話していたのか全く覚えていないという事態に陥ってしまうのだった。


















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