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理系女子の恋~大学生編~  作者: 流音
act4:変化<貴音、新>
32/40

5、後輩君

八牧貴音視点です。






慌てて走り去る島田君の背中を見ながら、私は彼と同じように内心穏やかじゃなくなり、しおりんに気になる事を尋ねた。


「しおりん、バイトの後輩くんとさ…いつからそんなに仲良くなったの?」

「え?いつから…、わりと最初からだった気がするけど…、遊びに出かけたりし始めたのは9月ぐらいかな…。あ、そうだ!井坂君のことで機嫌が悪くて、そのときに気を使って誘ってくれたのが最初だったと思う。」


しおりんがかなり落ち込んでたときを思い返して、私は弱ったところにつけ込まれたのではと思ってしまう。

どんな後輩くんか知らないので憶測でしかないけど…

嫌な予感がしてるのは私だけじゃないはず。


島田君も同じことを感じて焦ってる。

彼とは似ているところがあるから絶対そうだと直感が告げていた。


「しおりん、その優しい後輩くんに会わせてくれたりしない?どんな子か見てみたいんだけど。」

「うん、いいよ。今日バイト一緒だったはずだから、時間あるなら一緒に来る?」

「行く。私もバイトあるから長居はできないけど。」

「じゃあ早めに行こっか。きっとタカさんもいい子だって思ってくれるはずだよ。人懐っこい子なんだ。」


しおりんはニコニコと嬉しそうに歩き出して、私はその横に続きながら自分の目で見定めようと心に決めていたのだった。





***





「詩織先輩、こんちわ!!」



しおりんが紹介してくれたバイトの後輩君は明るい茶髪に人懐っこい笑顔の明るい子だった。

しおりんに懐いているようで、しおりんと話す距離がやたらと近い。

いつものことなのかしおりんは楽しそうに話をして、ふっとこっちに視線を向けた。


「彼女が私の大親友の八牧貴音さん。何度か話したでしょ?」

「いつも助けてくれるって言ってたタカさんですよね?想像通りクールな感じでカッコいい方っすね。」

「でしょ?タカさんはいっつもカッコいいから。」


しおりんは嬉しそうに私の方へ寄ってくると、後輩君に目配せしている。

それを見て察した後輩君がペコッと会釈して自己紹介してくれる。


柳尾やぎお ろうって言います。詩織先輩にはバイトでたくさん世話になってて…。あ、あと好きなバンドが一緒で話も合うんで仲良くしてもらってます。」

「バンドって…もしかしてベルリシュ?」

「あ、タカ先輩ももしかしてお好きですか?」

「え、私はそこまでじゃないけど…しおりんが大ファンだから…。」


タカ先輩?


面白い呼び方に面食らいながら答えると、柳尾君はへらっと後ろ頭を掻きながら謝ってきた。


「すみません。詩織先輩の親友さんなんでてっきりそうかと思いました。ベルリシュだけじゃなくてPPとかラッシュウォードとか聞いてるバンドかぶってて、休憩中そんな話ばっかりしてたんで…。」

「こんなに好きなバンドかぶるの珍しいから運命みたいだねって言ってたんだよね。」

「なんか照れますね。」


本当に仲良さそうに私の分からないバンドの話で盛り上がる二人を見ていて、色恋の匂いこそしないものの何かあったらそっちに転びそうな不安定さがあると推察した。


柳尾君の頬の赤さが照れてるだけなのか判別しにくい。


「あ、先輩。クリスマスだめになったって本当っすか?俺、もうチケットとっちゃってて…。」

「え!?そうなの?じゃあ、ライブだけでも行こうかな…。」


「ライブって?」


二人だけの会話が気になり尋ねると、しおりんが困った顔をしながら説明してくれる。


「クリスマス、柳尾君と遊ぶ予定にしてたんだけど…その遊びっていうのがマイナーバンドが集まったクリスマスフェスライブなんだよね…。井坂君とは会えないだろうなって思ってたから、チケット柳尾君にお願いしてて…、そっか。もうとっちゃったんだね…。」

「ダメになった理由って遠距離彼氏さんですか?クリスマス会えるようになったんすか?」

「うん、なんだか急に来れるようになったみたいで。」

「へぇ!それなら良かったじゃないっすか!!ライブなら友達誘うんで大丈夫っす。気にしないでください!」


柳尾君はドンと胸を叩くとしおりんと井坂君が会う事を本当に喜んでいるようだった。

しおりんはそんな柳尾君を見て申し訳なさそうに顔を歪めている。


「でも…柳尾君と先に約束してたのに…。」

「本当に大丈夫なんで!会うの半年ぶりとかですよね?待ちに待った再会楽しんできてください。また先輩が暇なときに誘うんで。」

「じゃあ、お言葉に甘えようかな。本当にごめんね。」

「いえいえ。」


しおりんが手を合わせて謝る姿を見て、柳尾君は気にしてなさそうにあっけからんと笑う。

その様子を見て特に害はなさそうだと安心する。


しおりんに好意はなさそうだし、井坂君との仲を邪魔する様子もないし大丈夫かな。


私は柳尾君の人の良さを見てそう判断すると、自分もバイトに行こうとしおりんに声をかける。


「じゃあ、私そろそろ行くね。しおりん自慢の後輩君に会えて良かった。また機会があったら話そうね。」

「あ、はい!!楽しみにしてます!」


柳尾君は私にまで懐っこい笑顔を向けてくれるとペコッと頭を下げる。


本当に良い子だな~


私はしおりんが彼と仲良くなったのも分かるなと思いながら、二人に手を振って別れたのだった。








***








後輩君と話した次の日、私は心配していた島田君に後輩君のことを伝えようと、構内で彼を捕まえて中庭のベンチに並んで座っていた。


「昨日しおりんの話に出た後輩君に会ってきたんだけど、本当に良い子でしおりんに邪な気持ちもなさそうだったよ。」

「へぇ、そうなんだ――――って、なんで俺にその報告?」

「え?だって昨日心配してたでしょ?」


島田君は数秒固まってしまって、私は自分の勘が外れたのかと思った。


「え、いや…あってる…けど。え、俺そんな分かりやすかった?」

「うん、分かりやすいよね。後輩君の話聞いて明らかに焦ってたし。急用っていうのも赤井君か井坂君に連絡とってたんでしょ?」


分かりやすい反応に笑っていると、島田君は肩を落としながら大きく息を吐く。


「マジで八牧さんには敵わねぇ…。いつか俺の考えてること全部読まれそう。」

「それはさすがに無理だよ。島田君はしおりんのこと考えてるときが一番分かりやすくて、そのとき限定で分かっちゃうんだよね。」

「はー…谷地さん限定って…、そんな態度に出してるつもりねぇんだけどなぁ~。」


島田君は空を見上げると参ったなぁというように笑みを浮かべる。

私はその横顔を見て、またしおりんのこと考えてると察した。


島田君がこの表情をするときは大体しおりんのことを想ってるとき。

長い間見てきたんだから見間違うはずがない。


私は気づかなかったふりをして昨日の成果を尋ねる。


「それで?赤井君と井坂君はなんて?」

「あー、赤井は八牧さんと同じこと言ってた。後輩の柳尾?だっけ?そいつは天然で何も考えてないから大丈夫だって。人懐っこい奴だから誤解するかもだけど、それがあいつの普通だって。」

「あははっ、それ分かるかも。」


私は昨日の柳尾君を思い出してまさにぴったりだと思った。


「井坂はこっちに来るの早める!!って慌ててたけど、さっき話したときは落ち着いてたし。谷地さんと話できて安心したのかも。」

「あ、しおりん、井坂君からの電話出るようになってたんだ?」

「そうみたいだな。ちょっと心配で…今朝井坂に電話したらそう言ってたから。お礼言われて気持ち悪かったし。」


島田君が分かりやすく身震いして、私はその様子に笑ってしまう。


「あははっ、もうあの二人から目離せないよね。本当色々あって飽きないよ。」

「だな。おかげで自分のことそっちのけになっちまうけど。」


島田君が迷惑そうに顔をしかめたのを見て、私は以前聞いたことを思い出して尋ねた。


「あ、例の好きな人と上手くいってないんだ?」

「まったく。最近は現状維持で良いような気になってて、時間かけて頑張ろうかなってとこ。」

「へぇ…島田君、長期戦好きだね~。」


しおりんへの片思い期間を指してからかうと、島田君は「好きなわけじゃねぇって!」と楽しそうに笑う。

その笑顔を見て辛い片思いではなさそうだと感じた。


やっぱり恋愛は楽しい方がいいよね


私は自分も笑って誰かのことを好きになりたいと、遠い空を見て祈ったのだった。












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