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理系女子の恋~大学生編~  作者: 流音
act4:変化<貴音、新>
31/40

4、損な役回り

島田視点です。




八牧さんから友達としてしか見られてないと知って最初はだいぶ凹んだけど、彼女の言葉通りこれからだと言い聞かせて、俺はほぼ毎日好意をアピールする日々を過ごしていた。


バイトの迎えはもちろん、講義が一緒なら隣を陣取り、昼も一緒に食べる。

そして隙あらばそれとなく褒めたりしてきたのだけど…


全く手ごたえを感じない


この二カ月、打てども打てども響かない状況にさすがに焦り始めて、頭を抱えていた。


もうすぐクリスマスなんだけど…

どうすればいいのか…マジでお手上げだ…


長いため息をつきながらどうすべきか考えていたら、ズボンのポケットに入っているケータイが震え始めた。

俺はケータイを見なくても電話の主に心当たりがあり一瞬放置しようかと思ったけど、後々が面倒なのでしぶしぶケータイを取り出して電話に出た。


「もしもし。」

『島田!!頼みがある!!詩織にクリスマス会いに行くって伝えてくれ!!』


電話の主は井坂で、俺は毎度のごとく伝達係にされていることに不満を口にする。


「お前、それぐらい自分で言えよ。俺が毎回間に入るの変だろうが。」

『仕方ねぇだろ!?詩織の奴、あれ以来一回も電話に出てくれねぇんだから!!』


あれ以来というのは会う約束を引き延ばしたやつか?

あれが9月の話だから、丸3か月しゃべってねぇってことか…


この二人にしては長いな…と思いながら、一番手っ取り早い方法を伝える。


「じゃあメール送っとけよ。それで用件は伝わるだろ?」

『お前、一方通行の虚しさ知らねぇのか!?俺のこの3カ月、どれだけ地獄だったか――!!』

「谷地さん、まだ怒ってるのかなぁ?見た感じいつも通りだし、こっちですっげー楽しそうだけど。」


俺は八牧さんの横に谷地さんがいつも笑顔でいたことを思い出して井坂に伝えた。

良かれと思って伝えたことが奴には相当なダメージだったようで、苦しそうな声で「あと二週間…、二週間我慢すれば…」と呟く声が聞こえる。


「八牧さんも谷地さんは大丈夫って言ってたし、メールだけしとけば大丈夫だと思うんだけどなぁ…。」

『こっの!!他人事だと思って!!俺が!!大丈夫じゃねぇんだよ!!詩織の様子、何も分からねぇんだ!もう毎日気が狂いそうで…赤井に電話して聞こうにも、あいつ最近着拒してやがんだ!!最低だろ!?』


着拒…

こりゃ相当だな…


井坂の事に関してまだ寛容だった赤井が着拒となると、井坂は一体どれだけ赤井に鬼電していたのか…

俺は自分にきていた電話の回数を思い返して、最近頻度が増えている事に思い至ると、赤井にいっていた分が自分のところに流れてきている気がして背筋が震えた。


「わ、分かった。とりあえずクリスマスに来るって谷地さんに伝えればいいんだな?」


俺は鬼電は勘弁してほしいと思い、要求に応える事にした。

井坂は少し気持ちが落ち着いたのか『頼む。』と真面目な声音で言った。


『そんでできれば詩織の様子がどんなだったか教えてくれ。俺に会いたいって思ってくれてるのかどうか…知りてぇ…。』

「分かったよ。きっと普通に喜ぶと思うけど。ちゃんと教えてやるよ。」

『助かる。』


井坂は急にしおらしくなると『それじゃ』とあっさり電話を切ってしまった。

俺はケータイをしまいながら、井坂と谷地さん二人を思い浮かべた。


高校のとき、ほぼ正反対だった二人はまるで磁石がくっつくかのように徐々に間を詰めて上手くくっついた。

くっつく前も後もまぁそれなりに色々あったけど、こうして物理的な距離があいていても心はお互い一直線だ。


俺は自分と八牧さんを当てはめて、どうすればああいう上手い磁石になれるのかと考えた。


相性は悪くないと思う。

お互い似ている所も多いし、一緒にいて楽で気兼ねしなくていい。


井坂にあって俺にないもの…


俺は周囲を振り回すほどの井坂の傍若無人っぷりを思い返して、ああはなれないと首を振る。


こんなこと思う時点で無理かもしれねぇなぁ…


どう頑張っても恋愛中心に考えられない時点で誰かの気持ちを動かすなんてことはできなのかもしれない

俺はもう成り行きに任せる方が無難だと思い至って、長期戦を覚悟することに決めたのだった。







***









「それ、本当?」



井坂に頼まれた伝言を八牧さんと一緒にいた谷地さんに伝えると、谷地さんはポロポロと涙を零し始めて俺は大きく目を見開いた。


まさか泣かすことになるとは思わず、俺は二人の前で慌てふためくことしかできない。

谷地さんは両手で顔を隠すと肩を震わせて鼻をすする。

そして涙に濡れた瞳だけ覗かせると、遠慮がちに訊いてきた。


「井坂君…、研究はもう大丈夫って言ってた?」

「え、あー…それは聞いてないけど、谷地さんが自分に会いたいって思ってるかどうかを心配してた…。」


「そんなの会いたいに決まってる。」


谷地さんは眉間にぎゅっと皺を寄せるとまた泣き始めて、その背中を八牧さんが支えるように撫でている。

こんなに会いたがっていて井坂の電話に出ないことが分からず、俺は谷地さんの様子を窺いながら尋ねた。


「井坂、谷地さんが電話に出てくれないこと…かなり辛そうだったけど…。その…電話に出ないのはどうして?」


谷地さんは何度か鼻をすすると、鞄からハンカチを取り出して顔を拭いながら答えてくれた。


「だって…、声聞いたら会いたくなるから…。頑張って我慢してるのに、井坂君の研究邪魔したくなかった…。」


井坂のことを想っての行動だと知り、俺は遠く離れても変わらないことに笑ってしまった。

自分のことじゃないのに嬉しい。


「井坂も二週間の我慢だって自分に言い聞かせてたよ。毎日気が狂いそうだって、地獄だってぼやいてた。」


俺が聞いたまんまを伝えると、目を丸くさせた谷地さんの泣き止んだ顔が俺に向く。


「遠く離れてても気持ち一緒なんだな。そこまで想い合えることがすげー羨ましい。」


俺の正直な気持ちがするりと滑り落ちて、谷地さんの表情が優しく緩む。


「ありがとう…。井坂君に会えなくてずっと辛かったけど、すごく気が楽になった。井坂君からの電話…ちゃんと出るね。」

「そうしてくれると助かる。」


ほっとして自然と笑っていると、谷地さんはケータイを取り出して引っかかることを呟いた。


「クリスマスの誘い断っとかないと…。」

「ん?」


独り言にも聞こえる呟きに変な違和感を感じて、俺は谷地さんを見つめて説明を求めた。

それに気づいた谷地さんがへらっと笑いながらケータイで何やら打ち始める。


「井坂君に対して不満ばっかりで荒れてたのを見兼ねて、バイトの後輩がクリスマス一緒にしようって誘ってくれてたんだ。井坂君が来てくれるなら、それ断らないとと思って。」

「へぇ…。」


谷地さんはその後輩に断りメールでも送るのか熱心にケータイ画面を見つめて指を動かしている。

俺は初めて聞くバイトの後輩の話に興味があり、聞きたい事が湧いて出てくる。


「その後輩ってさ…男?女?」

「男の子だよ。大学一年の男の子。私が教育係で面倒見てたら仲良くなって…、ちょこちょこ出かけたりしてたんだよね。」

「……出かける…って二人で?」

「え?そうだけど…、あ、二人ってダメだったかな?」

「いや、ダメってことは…。」


「ないけど。」と言葉が続かずに消えて、俺はぞわぞわと気持ち悪い嫌な予感に頭の中が支配される。


「うちの弟とは違ったタイプの男の子で、すごく懐いてくれて可愛いんだよね。話も合うし、しゃべってるのが楽しくて。」

「へぇ…、バイトはその後輩と一緒のこと多いんだ?」

「うん。不思議とシフトがよく被るんだよね。」


これはヤバいやつか…?どっちだ…??


俺はその後輩を直に見たわけでもないので、上手く判断できずもやもやする。


「あ、そうだ。赤井は?赤井も同じバイトだったよな?」


一筋の光を思い出し尋ねると、谷地さんがメールを打つのを一旦やめてこっちに視線を向ける。


「赤井君?赤井君はなんだか接客の腕を見込まれて激戦区の別の店舗に移っちゃったんだよね。」

「は!?別の店舗!?」

「そう。夏からこの12月の間だけなんだけど、時給アップするって店長さんに言われて、短期でそっちに行ってるんだ。だから最近はバイトで全然会ってないよ。」


おいおいおいおい!!どういうことだよ!!

井坂に谷地さん守るって啖呵切ってたのどこのどいつだよ!!

短期とはいえ目離したらダメだろ!

っつーか、二人の仲が一番怪しい時期に何やってんだよ!!


あ!!もしかしてそれで井坂の電話着拒してやがんのか!?


俺はすべてを理解すると、居てもたってもいられなくなりケータイを握りしめて二人に作り笑顔を向けた。


「ちょっと急用思い出しちまった。とりあえず井坂からの伝言は伝えたから、よろしくな!!」

「あ、うん。忙しいのにごめんね。色々とありがとう!」


谷地さんの和らいでいる表情を確認してから背を向けると、俺はケータイで赤井に電話をかけながら早足でその場をあとにした。



くっそ!!

なんでいっつもあの二人の事で気を揉まなきゃならねぇんだよ!!



俺にも恋愛に集中する時間をよこせっつーの!!














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