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理系女子の恋~大学生編~  作者: 流音
act3:障害<詩織、井坂>
27/40

番外編:志村優

井坂の大学の同級生、志村優視点です。





背が高いのに可愛くて

控えめで大人しそうな女の子




井坂君の彼女を初めて見た時の印象はそんな感じだった。

たった一回しか会ったことがないけど、井坂君の隣にいるのが自然ですごく羨ましかったのを覚えてる。


それまでは井坂君に一番近い女子は自分だと思い込んでいた。


同じ学部で同じ教授を慕って入学した同級生。

藤城を介してだけどよく話もしていたし、なんとなく心を許してくれてるような気がしていた。


だけどそれは私の思い違いだった。




あの日、井坂君の彼女を初めて見た日――――


井坂君は私の知らない井坂君だった。


彼女を見る愛おしそうな優しい瞳、繋がれた手。

彼女を守るように立つ姿。


いつも冷めたような余裕のある姿しか知らなかった私は衝撃を受けた。

それと同時に言いようのない悲しさが胸に広がり、言葉が出てこなかった。


なんで彼女なんだろう


私は彼女を見てから何度も考えた。


彼女と自分の違いは何なのだろう。


立ち振る舞い?

話し方?


――――出会ったタイミング?


それだけはどうにもできない。


私より先に井坂君に出会えた彼女がとても羨ましい。


もうどうにもならないのだろうか。

私のこの想いはここでおしまいなのだろうか。


私は自分の入り込める隙はないかと、いつも通りの井坂君を観察しては何度も思った。


意外と自分の気持ちを打ち明ければ上手くいくんじゃないか。


そんなことを前向きに思い始めたとき、井坂君が彼女とクリスマスを過ごすことを耳にした。


井坂君から出る辛辣な言葉の数々に私は胸が痛くて黙ってられなかった。

だからあんな言い争いをして絶縁宣言までされてしまったのだけど…




後悔したあの日から一週間後。


私は目の前の状況に自分の目を疑った。


「……この間は悪かった。……言い過ぎたって反省してる…。」


普段より小さめの声で軽く頭を下げて謝ってきたのは井坂君で、てっきり幻滅されたと思っていた私は口を開けたまま固まった。


「…志村は俺のことを思って忠告してくれたんだろ。俺、頭にきてたから考えなしに怒鳴って…きっと傷つけた…よな?」


私の表情をちらと目線だけで窺ってくる井坂君に私はやっと状況を理解した。


「わっ、私の方こそ!!よく知りもしない彼女さんのこと悪く言っちゃって…ごめんなさい…。本当はあんなこと言うつもりじゃなくて…」

「分かってる。俺の言い方が悪かったんだろ。志村はもう気にすんな。」


井坂君は顔を上げるとまっすぐ私を見つめてそう言って、私は許してもらえたことにほっと安堵の息を吐き出した。


井坂君がいつも通りだ…


私はそれだけのことが嬉しくて表情を緩ませていると、井坂君が咳払いしてから言った。


「昔からついカッとなること多くて…。詩織…、あ、彼女にも怒られて…。」


彼女?


私は井坂君の言葉に彼をじっと見つめた。


「そこまで言ってくれる友達なかなかいないって。せっかくできた友達大事にしないとダメだって怒られてさ。確かにそうだなーと思ってさ…。今回のは全面的に俺が悪いから。謝るのは俺なんだ。ほんとごめんな。」


井坂君は少し照れくさそうにあまり見せない優しい顔をしていて、私は頬の筋肉が強張って上手く笑えない。


「えっと…そっか…。彼女さんに言われて…。私は大丈夫だよ。気に…してない…から。」


返す言葉とは裏腹に気にしまくりの私は、色んな感情がグルグルしてそこから先のことはあまり覚えていない。

井坂君は彼女さんとの惚気話を口にしていた気がする。



それからただただ重い気分で学食の隅の席で一人落ち込んでいたら、能天気な声が前から聞こえてやっと我に返った。


「おーい。どした?この世の終わりみたいな顔して。」

「藤城…。」


藤城は私と向き合うように椅子に腰かけると頬杖をついてこっちの様子を窺ってくる。

私は苦しさから自然と言葉が滑り落ちる。


「さっき…井坂君と会って…。仲直りできたんだけど…、なんだか複雑な気持ちっていうか…。」

「なんだ、志村のとこにも行ったんだあいつ。」

「え?」


私は藤城から出た言葉に驚いて彼の顔をじっと見つめた。

藤城は少し目を細めて続ける。


「俺のとこに『悪かった』って謝りにきてなんか気持ち悪くてさ。あいつが自分から謝るのもそうだけど、わざわざ俺に会いに来たりとかしねーじゃん?だから変な感じでさ。俺もきっと今のお前と似た気持ちだと思う。」

「へぇ…井坂君が藤城のとこにも…。」


私と藤城が井坂君の中で同レベルだととどめを刺された気分で更に落ち込む。


自分がすごく惨めだ…

井坂君にとって何でもないことで一喜一憂して、一人で浮かれて…

バカみたい…


すぐにでも泣きたくなるぐらいになっていたら、明るい藤城の声が耳に入る。


「井坂ってさ、彼女のこと口にするときちょっと変わるよな。」

「え―――?」

「井坂の彼女には一回しか会ってねーけどさ、そんときの井坂もいつもと違ったんだよな。なんか余裕がなくなってるっていうか…空気が柔らかいっつーか。」


私も感じてたことを藤城も感じてたと知り、続きが気になり黙って話を聞く。


「今日会った井坂もちょっと雰囲気が優しい感じで、なんか納得したというか。」

「納得?」

「そう。あいつ彼女の影響受けてこうなんだろうなって。彼女いなきゃきっとものすげーとっつきにくい奴なんだろうなって思って。」

「え…、それってなんで?」


「だって彼女の存在を知る前の井坂って、ただのガリ勉モテ男で誰に対しても心のない奴だって思ってたからさ。彼女がこっち来てから割と人間らしい面見る事あって、あ、ほら。俺らに感情剥き出しで怒鳴ってきたときとか。」


そういえば…

あそこまで言い返してきた井坂君は初めてだった


「事の発端は彼女のことだったけどさ。井坂がどれだけ彼女が好きで大事にしてるか伝わってきたよな。」


それは痛いぐらい伝わってきた


私は少し顔をしかめると頷いて相槌を打つ。


「井坂が井坂なのは全部彼女の存在が大きかったんだって、俺に謝ってきた井坂を見て思ったんだ。今日の井坂気持ち悪かったけど、どこか可愛げあったしな。」


「うん…。あんな井坂君見たの初めてだった…。」


恋してる井坂君の顔を見るのが辛かったのは、すごくキラキラしていて眩しかったからだ。


井坂君にあんな顔させるのは彼女さんしかいない

私にはできない


「きついなぁ…。」


心から出た言葉が小さく飛び出し、それを聞かれたのか藤城にポンポンと頭を撫でられた。


「あれは無理だよ。俺がお前でもきっついわ。」

「え…。」


まるで私の気持ちを気づいてるような言い方に驚いて固まると、藤城はにっと笑ってから更に私を驚かせた。


「まぁ、そんなお前のこと俺は好きなんだけど。俺だって大概きつかったからな?」

「え!?!?!」


驚きのあまりガタタッと椅子から立ち上がり、少し照れている藤城を凝視した。


「そんな驚くってことは、俺の今までのアピール全く届いてなかったんだなー。軽くヘコむわ。」


ケラケラと軽く笑い出す藤城に私はどんどん頭の中がパニックになっていく。


えぇ!?

藤城は私が好きで…

でも私が井坂君のこと好きなの知ってて…


「まぁ、これでお前も井坂のこと諦められるだろうし。弱ってる今がつけ込むチャンスかと思って言ったんだけど。これからはちょっとぐらい俺のこと意識してくれよな。」


藤城はそう言うと意地悪く微笑んで、私は井坂君のことなんかどこかへ飛んでいくほど顔に熱が集まり、今にも卒倒しそうだった。


だから藤城に対して胸が大きく鳴っていたことを、このときは気づかなかったのだった。













長らく投稿せずすみません。

ちょっとずつ再開していきます。

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