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理系女子の恋~大学生編~  作者: 流音
act3:障害<詩織、井坂>
20/40

4、燻る

井坂視点です。





藤城と志村に絶縁宣言した後、無性に詩織に会いたくなった俺はクリスマスの予定を早めて詩織に会いに行くことに決めた。

こうなったら俺の行動は早いもので、その日の内に支度を済ますと新幹線に飛び乗った。


そうしてその日の21時過ぎに駅に着き、22時前には詩織の住むマンションに降り立っていた。

さすがに家にいるだろうと思っていたのだけど、何度インターホンを押しても返事がない。

バイトが長引いているのかと思い、マンションの外で詩織の帰りを待つこと一時間。


さすがに身体が冷えて固まってくるのを感じた俺は、荷物を下ろしてその場で屈伸したり運動をしていたら口論する声が聴こえ、耳を澄ました。


嫌な予感もしたので暗い通りに出て声がした方向に目を凝らすと、揉み合っている男女が見え俺は誰だと判別する前に身体が動いていた。


「てめぇっ!!何してんだっ!!!」


見知らぬ男に腕を掴まれているのは詩織だと確信があり、俺はその男を殴り飛ばすと怒りのままそいつの胸倉を掴んだ。


「おい、何してたか言ってみろ!!それによっちゃ警察に突き出すからな!!」

「――――っ、お前こそ誰や!なに邪魔してくれてんねん!!」


そいつは俺の服を掴み返してくると睨みつけてきて、俺は何も悪い事をしてない態度のそいつにブチ切れた。


「ふっざけんな!!どう見ても嫌がってんのを無理やり襲おうとしてただろうが!!」

「襲うわけないやろ!!どこに目ぇついとんねん!どけや!!」


そいつは俺を思いっきり蹴とばしてくると立ち上がって詩織に目を向けたので、俺はそいつに突進すると押し倒した。

そして詩織に向かって声をかけた。


「詩織!!警察に電話しろ!!早く!」

「え―――、あ。うん!」


詩織は俺の声に放心状態から解けたようで鞄からケータイを取り出している。

それを見た男が急に暴れ出すと俺の下から抜け出してしまい、俺は逃げ出すそいつを追いかけて走った。


「待てよ!!」


そいつは土地勘のあるやつなのか器用に路地を右往左往して逃げられてしまい、俺は見失ったところで足を止めた。


くっそ!!

何なんだあいつ!!


俺はゲホッと何度か咳をすると大きく息を吸いこんで来た道を戻った。

そうして詩織がいる通りに出たところで、前から思いっきり抱き付かれて尻餅をついた。


「―――!!っと!!」

「~~~~っ、井坂君っ…。いさかくんっ~~!」


詩織は「う~~っ!」と小さく唸りながら俺の胸で泣き始めて、俺は詩織が無事だったことにほっとしながら優しく抱きしめ返した。


「詩織…。無事で良かった…。何もされてないか?大丈夫か?」


俺が詩織の背を撫でながら尋ねると、詩織は何度も小刻みに頷きながらぎゅうっと力を入れてくる。

それが詩織の怖かったという気持ちを表しているようで、俺はただ詩織が落ち着くまでそっと抱き締めることしかできなかったのだった。



そうしてしばらくすると詩織は落ち着いてきたのか、力を緩めるなり俺の顔を両手で包み込んできて一瞬ビクついた。


「井坂君っ、怪我してない?蹴られてたけど…痛いの我慢してたり…。」

「あー、平気平気。ちょっと擦りむいたぐらいで何ともないよ。」


俺はアスファルトに擦ってヒリヒリする手の甲を見せながら、大丈夫アピールしたのだけど、詩織はその手を見るなりくしゃっと顔を歪めて泣き始めてしまった。


「ごめんっ…。井坂君…、ごめんなさい…。」


詩織の涙が傷口に落ちて沁みる。

俺は詩織が泣くのを見つめながら、どう声をかけても詩織は自分を許せないだろうと思ったので口を閉じて彼女の涙を拭った。


詩織のこんな顔を見るために会いに来たんじゃないんだけどな…


俺は詩織に泣き止んで欲しくてそっと彼女の頬を一撫ですると、優しく唇にキスした。

すると詩織が一瞬泣き止んだあと、更に瞳を潤ませて涙を零しながら呟いた。


「井坂君っ…、会いたかった…。」


「……うん。俺も。」


涙でぐちゃぐちゃになってる詩織を見てふっと笑ってしまうと、詩織は「なんで笑うの~…。」と言いながらやっと笑顔を見せてくれたのだった。






***






やっと落ち着いた詩織と一緒に詩織の家へと戻ると、俺はリビングで温かいお茶をもらいながらここまでの経緯を説明した。


本当はクリスマスの一日前に来ようと思っていた予定を早めたこと。

予定を早めたけどクリスマスが終わるまではこっちにいること。


そして詩織の帰りをマンションの前で待っていたら、もめる声に気づいて助けに入ったこと。


俺はあの男と詩織の関係が知りたくて、なるべく追い詰めないようやんわりと尋ねた。


「詩織。あの男…とは、顔見知り…なのか?」


詩織はお茶を一口飲むと、小さく頷いてから重そうな口を開いた。


「…前に合コンに参加しちゃったって…話したよね?」

「あぁ、勘違いしてって言ってたやつだよな?」

「そう…。あの人…、そのときに駅まで送ってくれた人…なんだよね…。」

「は?」


俺は連絡先も交換せず、その場限りの奴だと聞いていただけに意味が分からず混乱した。

詩織はお茶のカップを持つ手を震わせながら、説明してくれる。


「私…もう会う事もないって思ってたんだけど…。今日、大学で待ち伏せされてて…。彼氏いるって言ってるのに信じてもらえなくて…。すごく強引にご飯行く流れになっちゃって…。」


待ち伏せ…!?


「私、ご飯なんか行きたくなくて…。バイト先の店長に頼んで残業させてもらって…、時間も遅いし、さすがに帰ってるだろうって思ってたんだけど…。」

「まさか…バイト終わるまで待ってやがったとか…?」


俺は事の経緯に信じられず顔が引きつりながら訊き返すと、詩織は口を引き結んで頷いた。


それに背筋が凍るように寒くなる。


「は…!?それ…ストーカーじゃねぇの?バイト終わる時間まで何時間も待ったり…家まで付け回したり…。普通の神経じゃ考えられねぇんだけど…。」

「……私も…バイト先出たときにすごく怖くなって…、とりあえず逃げて…家までと思ったんだけど…。途中で…。」


詩織はそのときのことを思い出してしまったのか、震える手を押さえ込むようにきつく握りしめていて、俺はたまらず詩織を抱え込むように抱きしめた。


「詩織、もう大丈夫だ。俺がいる。ずっといるから安心していい。」


俺は詩織の恐怖心を取り除きたくてなるべく優しく抱き締めていると、詩織のか弱く震える腕に掴まれる。


「うん…。井坂君が来てくれたの夢みたいで…、最初信じられなかったけど、今目の前にいてくれて本当に嬉しい…。」


詩織はすがりつくように俺の胸に顔を埋めると小さな声で呟いた。


「助けに来てくれたときスーパーヒーローみたいだった。来てくれて、本当にありがとう…。」


ヒーローという例えに少し恥ずかしかったけど、俺の事を必要としてくれてることが嬉しくて顔が緩む。


詩織をこの手で助ける事ができて本当に良かった

今日来てなかったらどうなっていたか…


俺は自分がいなかったときのことを考えると心臓が縮むようで、つい詩織を抱きしめる力を強めてしまう。


何もなくて本当に、ほんっとーに良かった


詩織が腕の中にいる安心感に浸って、何度も涙が出そうになった。


『詩織は俺にとって特別でかけがえのないもの』


そうより一層感じる夜になったのだった。






***






それから一晩明けて、俺は隣で眠る詩織を見ながら昨日のことを冷静に考えていた。


合コンでたった一回会っただけの男

それだけの奴がストーカーともいえる行動に出た


詩織から『横浦準太』という名前と西皇大出身だという情報だけは聞きだせたけど…


さてどうしたものか…


詩織は何もなかったから警察沙汰にはしたくないと言うけど、一週間後にいなくなる立場の俺としてはそれ相応の罰を与えて詩織には近づかせないようにしたい。


というか、法が許すならばぶち殺してやりたいところだけど…

犯罪者になるわけにはいかない


一晩経つと沸々と怒りが湧き上がってきて、俺は冷静に考える事で自分を抑え込んだ。


俺の一番大切なものに手を出した罪は重い


俺はどう思い知らせてやるかだけを考えて、心の底で怒りを燻らせたのだった。










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