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理系女子の恋~大学生編~  作者: 流音
act3:障害<詩織、井坂>
18/40

2、女子

井坂視点です。





『本当にごめんね…。』


電話越しに何度も謝る詩織に、俺は自分の気持ちを整理するのにいっぱいいっぱいになっていた。


というのも詩織からの報告が合コンに参加した謝罪だったからだ。

詩織からかけてくれる電話は久しぶりで嬉しさMAXになったのに、こんな仕打ちはあんまりだろう…


まぁ話を聞くに、勘違いして参加してしまったらしいから仕方ないのだけど…

ただでさえ離れて不安な俺の気持ちも考えて欲しかった…


ここは文句を言ってもいい所だろう。

そう思った俺は本音を少しだけ口にした。


「正直に話してくれたのは嬉しいけどさ。ちょっとムカついてる。」

『―――――』


電話の向こうで詩織が絶句しているのが分かったけど、俺は厳しく言うのも詩織のためだと続ける。


「合コンなんてさ、出会いがない奴らが相手を見つけるためにするものだろ?それを勘違いとはいえ参加してさ、そこで出会った俺以外の奴と良い感じになって、俺なんかどうでもよくなってさ。最終的に別れるって未来になる可能性を詩織は自分から作りに行ったんだ。ちょっとぐらいムカついたっていいよな?」


俺は自分で口にしながらそういう未来を想像してしまい、変に胸騒ぎを引き起こして背筋が寒くなる。


「詩織、まさかとは思うけど合コンで誰かと連絡先交換したりなんてしてないよな?」


俺の問いに詩織は黙ったままで、嫌な予感に俺の心臓がドッドッと速く鼓動を刻みだす。

重く苦しい沈黙がどれぐらい経ったか分からないけど、小さく鼻をすする音がしたと思ったら待ちわびていた答えが耳に届く。


『してないよ…。帰りに送ってくれた人がしようって言ってきたけど、ちゃんと断ったから…。』


よかった…


詩織の返答にほーっと安心していると、詩織が何度も『ごめん。』と謝ってきて、さすがに脅かし過ぎたかと声をかけた。


「詩織、もう分かったから。俺が言いたいのは、これからは軽はずみなことは控えて欲しいってこと。詩織だって俺が合コンなんか行ったら嫌だろ?」

『うん。やだ。私だったらそんなこと聞いた時点で別れるって思うかも。』


ん???別れる?


詩織の口から出た聞きたくもない言葉に呆けていると、詩織が続ける。


『井坂君が私以外の女の子と一緒ってだけで無理。想像しただけで泣きそうだもん…。』


―――――かっわ!!!!!


詩織の可愛すぎる嫉妬にケータイを持つ手が震えるぐらい身悶えていると、詩織は更に追い討ちをかけてくる。


『どうしても合コン参加することになったら、私には絶対言わないでね。隠されるのも悲しいけど、行ったって聞いて想像する方が辛いから…。本当は…行ってほしくないけど…断れない状況とかもあるかもしれないから…。』


!!!これ絶対拗ねてるだろ!!

詩織が拗ねてる顔見てぇ!!


遠距離ということに歯痒くなって床の上を転げ回っていたら、詩織が少し声のトーンを落として言った。


『さっき別れる未来とか言ってたけど…。私、井坂君だけだから。』


へ―――


『合コンで色んな男の人いたけど何も思わなくて…。全然楽しくなかったし…、ずっと井坂君の顔ばっかり思い出してて…。井坂君に会いたくて仕方なかった。』


俺の機嫌をとるために言ってくれてるんだと分かっていても、詩織から俺しかいないと聞いて顔が緩まないわけがない。

俺の中が詩織でいっぱいになって胸が押しつぶされそうに苦しい。


『井坂君、大好き。』


そこへ詩織からの嬉しい告白。

俺はその場にゴロンと寝転ぶと、愛しい気持ちを口にした。


「詩織のこと…、力一杯抱き締めてぇ…。」

『へ…!?』


詩織が声だけでも分かる程焦っているのが伝わってきて、俺は苦しくなる胸を押さえて再度伝えた。


「俺こそ詩織だけだ。今すぐそっち行って、力一杯抱き締めて、もう二度と放したくねぇ…。」


一度言葉にしてしまうと今まで我慢していた気持ちが溢れてきて、口をついて色々飛び出しそうになるのを口を噤んで耐えた。


詩織に触りてぇし、キスだってしてぇ…

覚悟してたけど、やっぱ遠距離はキッツい…


詩織に会いたくて気が狂いそうだ…


『………クリスマス…。』


俺の告白を黙って聞いていた詩織が急にそう切り出したのに、俺は声に出そうな気持ちを抑えて耳を澄ます。


『クリスマス…、プレゼントいらないから井坂君に会いたい。一緒にクリスマスしたいよ…。』

「クリスマス…。」


詩織からのお願いに俺はガバッと身体を起こした。


そうだ!クリスマスのためにバイトがっつり詰め込んできたんじゃねぇか!!

会えるじゃん!!クリスマス!


俺は今までのことを思い出して、気持ち明るく詩織に言った。


「行く!!クリスマス!―――っていうか、行くに決まってるだろ!バイトばっかしてるから費用もあるし、楽しみにしててくれよ!」

『え、本当!?井坂君、こっち来てくれるの?』

「おう!元からクリスマスは会いに行こうと思ってバイト詰め込んでたからさ!」


明るくなった詩織の声を聞きながら自分まで嬉しくなっていると、詩織が一呼吸おいてから絞り出すように『ありがとう』と呟いた。

そのたった一言に自然と口角が持ち上がる。


離れていても気持ちは一緒だ

たった一本の電話だけど詩織の気持ちを間近に感じる


電話は相手の声しか聴けない手段だけど、普通に会うときと変わらず気持ちだけははっきりと分かる


離れていても大丈夫


電話で話す度、苦しくなる気持ちが少し軽くなっては救われてきた


俺はなんとか気持ちを持ち直すと、来るクリスマスへ向けてプランを練り始めたのだった。






***






「なー井坂~。お前クリスマスって何してんの?」


クリスマスまで残り一週間と迫ったある日、藤城が講義の合間に尋ねてきて、俺は何か期待している藤城から目を逸らして答える。


「もちろん彼女と過ごすけど?」


「だよなー!!やっぱそうだよなー!」


藤城はどこか嬉しそうに笑い出して、俺は意味が分からず眉をひそめた。


「……分かってんなら聞くなよ。」

「いやいや、確認だよ。あっちこっちでクリスマスということに期待してる方々がおられるからさ。」

「は?何に期待すんだよ。」


「……――――お前さ、自分がアホほどモテるってこと頭からすっ飛んでんだろ。そんなもん、そこら辺の視線に気づけば嫌でも分かるだろ!!」


今度は急に怒り出して情緒不安定かと思っていたら、横から声をかけられる。


「あ、あの、井坂君。クリスマスって…、予定空いてたりしないかな?」


声をかけてきたのは三人組の女子で、俺はそこでやっと藤城の言う事を把握した。


「悪い。クリスマスは彼女と過ごすから。」


今後こういうことで声をかけられないようハッキリ断ると、周囲がざわつき始めて目の前の女子の口が震えているのが目に入る。


「か、彼女…いたんだね…。そっか。ごめんね。」


傷ついた表情を見せる女子は固まって去って行って、俺は多少罪悪感はあるもののほっと息をつく。

すると藤城の隣にいた志村が不機嫌そうに口を開いた。


「井坂君って女子に冷たいよね。」

「は?」


ケンカを売るような言い方にカチンときて、俺は志村を軽く睨みつけた。

志村はそれに少し怯みながらも口を止めようとしない。


「いくら可愛くて従順な彼女がいるからって、勇気出して声かけた子の気持ちを真っ向からぶった切るような言い方ないんじゃないの?あんな断り方、思いやりがない!」

「相手に興味もねぇのに曖昧な言い方する方が、逆に気を持たせて傷つけることになんだろ。こういうのは早めにバッサリいった方がいいんだよ。」

「気を持たせないって心がけはいい事だと思うけど、もうちょっと相手の気持ちに寄り添った断り方があるんじゃないのって言ってるの!せめてもうちょっと申し訳なさそうにするとかさ!!」

「思ってもねぇのにそんな演技できねぇよ。」


俺は昔からの経験で変に優しさを残すと厄介なことになると分かっていたので、志村の言う事をはね返した。

しかし志村はそれが気に入らないらしく、鬼のように顔を歪めて言った。


「やっぱりイケメンって碌な奴いないよね!勉強熱心でチャラチャラしてないから井坂君は違うと思ったのに、今まで見てきた奴らと一緒だった!!彼女もどうせ井坂君の顔だけで好きになったとかでしょ?浅い者同士お似合いだ――――」

「おい。俺の事はともかく、よく知りもしねぇ詩織の事侮辱すんな。」


聞き捨てならない詩織の悪口に黙っていられず、声音を低く言い返すと志村の表情が固まった。

その横で藤城も息をのむのが見える。


「俺の態度が気に入らねぇなら俺の事だけ言ってればいいだろ。――――ほんっと女子のそういうとこ嫌なんだよな。」


俺は中学、高校の周囲で騒いでいただけの女子たちを思い返して気分が悪くなってくる。


純粋でまっすぐな詩織に向けられ続けた女子の打算的で姑息な行為の数々。

詩織はいつも俺の気づかない所でそれに立ち向かっていた。


詩織の傍にずっと一緒にいたから分かる。


今の志村は詩織を貶めようとしていた女子とよく似ている。


俺はこのままこいつらと講義を受ける気分ではなくなり荷物を持つと席を立った。


「悪いけど、今後お前らとはつるまねぇから。もう話しかけんなよ。」


そう突き放すように告げると藤城が立ち上がり「待てって!」と引き留めてきたが、俺は振り払うように早足でその場を後にしたのだった。








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