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理系女子の恋~大学生編~  作者: 流音
act3:障害<詩織、井坂>
17/40

1、思わぬ場所

詩織視点です。





「今日の出会いにかんぱ~い!!」


陽気な掛け声に合わせて周囲のグラスが音を立てるのを流されるまま見つめ、私は今ある状況に疑問ばかりが浮かんでいた。


今日は普通にタカさんとご飯に行く予定だった

それが何故、見知らぬ男の人たちやそこまで仲良くもない女の子たちと乾杯することになったのか…


私はことの発端である、同じ講義をとっている彼女たちとの会話を思い返した。


確か予定していた子達が来れなくなったとか言っていて…

今さらキャンセルできないからと聞いた気がする…


私はてっきりキャンセルできないような高くて美味しいお店に行くんだとばかり思っていて、

誘いを気軽にOKしたんだけど…

まさかこんなお食事会だとは思わなかった


私は目の前で繰り広げられる女子と男子の何とも言い難い会に、ひたすらジュースだけをちびちびと口にして様子を見守る。


「そんな可愛いとか今まで言われたことないですよ~。」

「え~!!皆さん、あの西皇大なんですか?すごーい!!」


テンション高めの女子の口から飛び出す褒め言葉の数々。


「ネームバリューだけだって、俺らいたって普通だよなぁ?」

「そうそう、大学に可愛い子あんまいなくてガッカリしたぐらいだし、今日は超テンション上がってる!」


気持ち悪いぐらいのドヤ顔で軽い口の男子たち。


私はテレビのドラマ等で見た事あるような光景に、次第に自分の置かれてる状況が分かり血の気が引いていく。


「……まさか合コンだったとは。」


私の隣で同じように会話に参加せずご飯だけ食べていたタカさんが呟くのを聞いて、まさに同じことを思っていた私はグラスを置いてタカさんにしがみついた。


「だよね!?これって合コンだよね!?どうしよう…。」

「どうするもなにも…来ちゃった以上はいなきゃいけないんじゃない?」


達観したように言うタカさんの横顔を見つめて、私は泣きたくなりながら帰るなんて言えない空気に口を引き結んだ。


~~~~!!なんで軽はずみにOKしちゃったんだろう!!

井坂君という素晴らしい彼氏がいる身で合コン参加だなんて…

こんなの井坂君への裏切りだ!


私はこのまま居続けるなんてことがどうしても我慢できなくて、勇気を出して立ち上がると息を吸いこんだ。


「始まったばっかりなのにごめんなさい!用事を思い出したので帰ります!!」


楽しそうな雰囲気をぶち壊すことを口にすることに申し訳なさを感じながら、私は深く頭を下げて謝った。

すると横から神の助けにも等しいフォローが入る。


「しおりん、バイト入ってたの思い出したの?だったら遠慮せず行った方がいいよ。」


タカさん…


「そうだったんだ。そうとは知らずに急に誘っちゃってごめんね。」

「ここは大丈夫だからバイト優先してきて!」


タカさんの機転の利いたフォローのおかげで、女の子たちは気分を害した様子もなくそう口々に言ってくれて、私はタカさんに心から感謝した。


「ありがとう!それじゃ、本当にごめんね。」


「あー、じゃあ俺途中まで送ってくるわ。」


へ――――!?


これでこの場から逃げられると安心したのも束の間。

コートを手に立ち上がった男子を見て、私は信じられない気持ちになる。


「おっまえ、とんだジェントルメンだな~!!カッコつけすぎだっつーの!!」

「そんなんじゃねぇわ。店入る前から暗くなり始めてたし、女の子一人じゃ危ないやろ。」


そう関西弁で言う男子は私の背をポンと優しく叩くと「行こか。」と歩き始めて、私は断るタイミングを逃したことに慌てながらついて行くしかなくなってしまった。


そうしてその人に続いてお店を出ると、私より頭一つ分背の高い彼が私の方へ顔を寄せてきてビックリして仰け反った。


「バイトってどこなん?駅まで行ったら大丈夫?」

「え…あ、っと…。駅で大丈夫…です。」


普通に訊いてきた彼の姿に、声が聴こえやすいように屈んできただけか…と理解して警戒を解いた。

その人は「了解。」と言うとゆっくり夜の繁華街を進んでいき、私はその後に続きながらいつ別れるかを考え込んだ。


「えーっと、詩織ちゃんやったやんな?」

「へ!?あ、名前言いましたっけ?」


どこで私の名前を聞いたんだと訊き返したら、その人は口元を少し隠しながら笑った。


「ははっ、最初の自己紹介すら忘れてるとか、よっぽどバイトのこと気がかりやったんやねぇ~。」

「え、あ、自己紹介…そっか…。すみません…、まったく覚えてなくて…。」

「ええよ。俺は横浦準太よこうらじゅんた。皆からジュンって呼ばれてるから気軽にそう呼んでな。」

「あ、はい。ジュン…さん。」


初対面の人のことをいきなり名前で呼ぶのが変な感じでどもっていたら、ジュンさんは笑うのを堪えながら小さく言った。


「めっちゃピュアな感じやな~。胸こそばゆいわ。」

「はぁ。」

「そのとぼけた顔!!わざとなんか!?参るわぁ~!!」


一人でテンションを上げていくジュンさんを横目に、街並みのクリスマスに向けた装飾や音楽に12月に入っていたことを思い出した。


今年のクリスマスは井坂君と一緒になんて、きっと無理なんだろうなぁ…

せめてプレゼントだけでも当日に届くように考えなきゃ


そんなことを考えながらショーウィンドウを眺めていたら、急に視界にジュンさんの顔が割り込んできて一瞬息が止まった。


「さっきから心ここにあらず~って感じやなぁ。なんや、そんなに俺の話はおもろないか?」

「え…、すみません。考え事してて…。」


つまらなそうにため息をつくジュンさんを見て、切り出すなら今だと察した私は意を決して口にした。


「あ、あの。ここでもう大丈夫です。駅もすぐそこなので。皆楽しんでるだろうし、ジュンさんも戻ってください。」

「すぐそこやから送ってくって。気にせんでもええから。」

「本当に!大丈夫です。ありがとうございました。」


食い下がろうとするジュンさんを諦めさせようとキッパリお礼を口にすると、ジュンさんはじっと私を見たあとふっと息を吐いて言った。


「分かった。ほなら連絡先教えといて。ちゃんと無事帰りましたって連絡欲しいし。」

「え―――」


連絡先……って…

これって…絶対ダメだよね…?


私はジュンさんの優しさを無下にすることに少し胸が痛んだけど、はっきり断ることを決めた。


「ご、ごめんなさい。連絡先はちょっと…。」

「え?なんでなん??俺のことなんか疑ってる?」

「そういうわけじゃなくて…。え、えっと…―――」


断り文句にどうしようかと考え込んでいたら、ふっと井坂君の顔が浮かんだ。


「か!彼氏が!!いるので!すみません!!」

「へ?彼氏?」


ぽかんとしているジュンさんに軽く頭を下げると「ここまでありがとうございました!」とだけ告げて、逃げるようにその場を後にした。


そして、しばらく歩いてからちゃんと断れたことに妙な達成感が湧き起こる。


やった!!自分一人でなんとかなった!

一時はどうなるかと思ったけど、なんとか切り抜けられて良かった~


今度タカさんに何かお礼しなきゃなぁ…


私は一人残してしまったタカさんのことを考えて少し心配になったのだけど、タカさんのしっかりした面を思い出して大丈夫かなと結論付けた。


それにしてもさっきのジュンさん…

送ってくれたり、連絡先聞いてきたり、どういうつもりなんだろう…

初対面の私に対して親切過ぎて、ちょっと違和感あったなぁ~


初めての合コン参加はものの10分ぐらいだったけど、その時間の間に色々あって今になって疲労感に襲われた。


そして更にこれからしなければいけない井坂君への報告と謝罪のことを考えて、私は気を引き締めると共に何を言われるのかということに身体が重くなってきたのだった。












お待たせしています。

詩織、井坂編再スタートです。

よろしくお願いいたします。

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