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北の大陸、凍てつく風が吹き荒れる「氷狼の国」の外れに、一年中枯れることのない不思議な丘があった。季節を問わず、そこだけは柔らかな紫色の絨毯が敷き詰められている。そこはラベンダーの丘と呼ばれている。その甘く、少し切ない香りは、遠く離れた王都にまで届くと言われていた。


丘の頂上には、一軒の小さな石造りの小屋があった。そこに住んでいたのは、「紫煙の魔女」と呼ばれた老婆だった。彼女は国のあらゆる病を癒やす薬師であり、同時に、王家でさえ手出しできない強力な呪術師でもあった。しかし、魔女にも寿命は訪れる。


彼女の最期を看取ったのは、ただ一人の弟子、リラだった。リラは森で捨てられていたところを魔女に拾われ、育てられた孤児だ。彼女には魔力はなかったが、薬草を見分ける鋭い目と、誰よりも優しい心を持っていた。


「リラよ」


死の床で、魔女は枯れ木のような手でリラの手を握った。


「この丘のラベンダーは、ただの花ではない。私の全魔力を注ぎ込んだ『身代わりの花』だ」

「身代わり、ですか?」

「そう。これは、魂の傷を肩代わりしてくれる。誰かが深い絶望や、死に至る病、あるいは避けられぬ呪いに掛かった時……この花束を抱かせれば、花がその苦しみを吸い取って枯れるのだ」


魔女は咳き込みながら続けた。


「だが、心せよ。この花が一度に肩代わりできるのは、一人の人間の、一度きりの不幸だけ。そして、花が枯れるたび、この丘の魔力も少しずつ失われていく。……大切に使いなさい。本当に救うべき者のために。リラ、お前が幸せになることを願っている」


魔女はそう言い残し、静かに息を引き取った。翌朝、リラが小屋の外に出ると、丘一面のラベンダーが、昨日よりも深く、濃い紫色に染まっているように見えた。それは、師匠が最後に遺した、世界で最も優しい呪いだった。

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