8話目:アウルム購買店へようこそ!
強制引退ライブ、もとい死によりダンジョンから強制排出される。
それからすぐ、仲間の三人が滑り込むようにダンジョンから脱出し……俺の上に圧し掛かってきた。
「あぁん! ちょっと皆、だいたぁん♪」
「ひゃっ! ご、ごめんなさいぃ!」
ちなみに柔らかさとか女子フェロモンとかは感じなかった。
防具さえ……防具と衣服と倫理さえなければ……!
「皆、おかえり。早かったじゃん」
「ヒビキの方が早く戻ってきてるじゃん……」
「死ねば助かるのにって、むかし偉い人が言ってたのじゃ」
まぁ実際には助かってないのだが、そこら辺はあとで片づけるから部屋の隅にでも置いとこう。
きっと年末の俺が綺麗にしてくれるはずだ。
「あっ、ダンジョンの種が!」
ダンジョンへの入り口が閉じ、光が再びダンジョンの種に戻るかと思われたが……元の場所には小さな小枝が落ちていた。
「おぉ! お前らダンジョン課題をクリアしたのか! うむ、うむ。愛い奴らだ!」
どこからともなくやってきたエトルリア先生が、皆の頭をペットのように撫でじゃくる。
見た目ロリの長命種にヨシヨシされる……有りだな!
「ところでエトルリア先生、なんか種が枝になったんすけど。なんかいやらしい意味とか暗喩だったりします?」
「アホウ、そんなもん配布するか。それはダンジョンの種が成長したからだ。これで今までよりも稼ぎが増えるぞ!……まぁ敵も強くなるがな」
「ええー! 強制難易度アップってこと!? 弱いボスを狩りまくってレベリングとかファーミングしたいのに!」
「別にボスを倒したところで一気に強くなることも、良い戦利品が手に入るということもないぞ?」
「じゃあボスなんて役立たずじゃないですか! <探索者>にとって邪魔でしかないってことですか!? ヒドイ! ボスちゃん泣いちゃいますよ!?」
「狩られる側は泣くどころではなかろうに」
う~む、戦い方が確立できたのにほとんど意味ないのか。
まぁでも元々は課題クリアの為だったんだし別にいいか。
「先生。ボスを倒した先にあった宝箱からこんな物が出たのですが、これも使い道がないものだったり?」
「んん? おぉ、珍しい。かなり希釈されているが<レベルダウンポーション>ではないか」
「レベルダウン……弱くなるってことですか?」
「ん? そういえばレベル制限について授業はまだだったな。丁度よい、説明しよう」
ホルン達は地面に座り、俺は地面に寝かされたままエトルリア先生のイケない突発授業が始まった。
「ダンジョンに入るには<ダンジョン耐性>が必要なのは知っているな。レベルというのはこの<ダンジョン耐性>に関わっている」
「なるほど、分かった!」
「いや、まだ説明の途中であろう。ちゃんと聞け」
「いわばダンジョンは体で、モンスターは抗体。<探索者>は侵入者で、レベルが低いと体に適応できない、高いと脅威とみなされてクシャミとかで強制排出される。これがレベル制限ってことですよね?」
「お前ほんとに分かってるな! 実はどこかで予習したであろう!?」
「食堂でパイセンにちょっと教えてもらってたんで」
マジでありがとう、食堂で飯奢ったり奢って貰ったパイセン達。
今だけは皆から尊敬される目で見られてる気がする。
「まぁそういうわけだ。<レベルダウンポーション>を飲めば弱くなるが、逆にレベルの低いダンジョンにも入れる。故に、行き詰った<探索者>が死ぬほど欲しがってたりする」
「あぁ、それも聞きました。レベルが上がっても弱い人は弱いまま。自分の入れるダンジョンじゃもうモンスターに勝てなくて戦利品も持ち帰れない。だからレベルを下げてなんとか生活できるだけのダンジョンにしがみつこうとしてるとか」
下手すると俺もその人達みたいにキリギリスになりそうなんだよな。
弱くて役に立たないのにレベルだけが上がって何もできなくなる感じで。
だからこそ!
生きる為に寄生できるパーティーが必要なのだ!
あとできればハーレムだと嬉しいかな!!
「そうなると……これって超お宝アイテムなのかな!?」
トゥラが目をキラキラさせてポーションを見つめるも、エトルリア先生は難色をしめすような顔をしていた。
「う~む、どうかのぉ……行き詰った<探索者>に金銭的余裕を期待するのもなぁ。それなら強いモンスターにも勝てる武器の一つでも買った方がまだマシであろう。それに階層の低いダンジョンで出たものだ。あまり期待せんほうがいいぞ」
「でも、でも! もしかしたらってことがあるかも! すぐ鑑定してもらおう!」
そう言ってトゥラが走り去り……出入口で大きく手を振ってこちらを呼んでいた。
「あ……先生、授業ありがとうございました!」
「ア、アゥ……」
ホルンとヨグさんも立ち上がってトゥラの元へと走る。
「……お前、忘れられてないか?」
「ッスゥー……みいいぃぃんなあああぁぁぁ!! おいてかないでえええぇぇぇ!!!!」
声帯が千切れるレベルの大声をあげたおかげで、みんな戻ってきてくれた。
だが俺はダンジョンで死亡したせいでまだちょっと立てそうにない。
抱っことかおんぶしてくれたらご褒美なのだが、急ぐトゥラが俺の足を持って引きずりながら走る。
「ごめーん! それじゃあ一緒に行こっか!」
「お願い待ってトゥラちゃま! そんな強引なプレイ、アタイの身体が耐えられないよぉ!!」
しかし今のトゥラは、オモチャを見つけて嬉ションしてるゴールデンレトリバー状態だ。
つまり止まらないし無敵だし手も付けられないということである。
「はーい、アウルム購買へようこそ☆ 特殊なプレイについては他のお客様のご迷惑なのでさっさとご退店くださーい☆」
「なんかこう、身体の奥までスゥーっと優しさが届くサービスないっすか」
「そういった薬物はあちらの棚からお選びくださーい☆」
あるんかい、そういうやつ。
それに、なんでもかんでもお薬で解決するのってどうかと思う。
エッチな漫画でもお薬ばっかだとマンネリになるじゃない?
「アウルムさん! アウルムさん! これ鑑定して! <レベルダウンポーション>!」
「あら、珍しい。ちょっと待ってくださいね☆」
学園の生徒全員からの評価が<金メッキの看板娘>と呼ばれているアウルムさん。
色々とがめついせいでそう呼ばれており、ベッドで一晩過ごそうとすると人生を一度破産しても足りない金額が要求されるとかなんとか。
ちなみに「いや、娘って歳じゃないだろ……」といった生徒は、卒業までずっと割増料金を取られることになったとかなりまくったとか。
ある意味、ダンジョンのボスより怖いお人である。
「うん、査定が完了しました。こちらでお値段をつけることができないので、オークションに出品することをお勧めします」
「うわぁー! おい、聞いた皆!? オークションだって!」
あまりにも貴重であったり値段がつけられないような代物はオークション制度によって売却することが可能である。
三人が手を合わせて喜びあってるが、俺は素直にその言葉を受け取れなかった。
「麗しき天上の叡智たるエチエチのアウルム様、どうか無知なるワタクシの疑問に解をお導きください」
「今すぐそのクソみてぇな呼び名を止めるなら考えてやる」
こわーい!
流石は荒くれものが千波万波と押し寄せる学園で購買を仕切るお人だ。
「ぶっちゃけ、いくらになりそうっすか?」
「そうですねぇ~……夕飯と朝食に一品追加できる程度かと☆」
先ほどまで喜びの舞を踊っていたトゥラが不満そうな声をあげる。
「ええー! なんでー!?」
「階層の浅いところで見つかったんでしょう。かなり希釈されているせいで、実用性がほとんどありません。珍しいものですが、ずっと保存できるものでもないですし」
あー……確かに貴重なものをコレクションにするなら美術品とかそっちの方向を蒐集するわな。
「なので、こちらでは値段をつけるのが難しい為、欲しい人だけがお金を出すというオークションを勧めさせて頂きました☆」
「でもそっちはオークション手数料があるから、確実な儲けはあって損はしない寸法っと」
「流石に落札額よりも手数料の方が高かった場合はこちらの一存で免除させて頂きますよ☆」
「そんで恩を感じてくれたら儲けもの。オークションを利用しやすくさせて、どんどんお得意さんを増やすって寸法っすよね」
「ウフフフフ☆」
なんとも頼りになる商人様である。
「うぇ~……あくどいなぁ」
トゥラがげんなりとしてしまっていたので、ちょっとフォローしておこう。
「トゥラちゃま、これでもアウルムさん優しい方よ? 本当にあくどい人ってのは、こんなもんじゃないんだから」
「えー! どこがー!?」
「例えば……俺だったら無料のレンタル装備の他に、最初の課題をクリアできる装備のローンタイプの有料レンタルサービスをやるよ」
「ローン式?」
「そそ。課題の締め切りが近づく度に、焦りが強くなる。そこに有料装備の営業をする」
課題がクリアできない?
ならこのつよーい装備を使ってクリアすればいいじゃないですか☆
お金がない?
ご安心を、将来皆様が稼がれたお金から少しずつ返済すればいいのです☆
クリアできなかったら?
その時は御代金は要りません、何度でもレンタルして頂いて構いません☆
これは――――皆様を救済する為の措置なのですから☆
「――――って感じで沼に足を踏み込ませて、ドロッドロの借金地獄に肩までつけさせる。こわいよー? いっぱい稼いでるのに手取りが増えず、どんどん搾取されてってるのって」
契約条件によってはもっとひでぇことも可能である。
しかも足元なんざ見ようと思えばいくらでも見られる商売でもあるから性質が悪い。
それを理解したのか、三人は真っ青な顔をしてしまっていた。
「それに比べれば、アウルムさんは超優しいよ? 要望を言えばしっかり叶えてくれるし、近い妥協案も出してくれる。他にも色々あるけど……一番は騙そうとしないこと。これだけで、外の商売畜生に比べることもおこがましいくらい優しいんだぜ?」
今回みたいに都合の悪いことは言わないこともあるが、それでも大きな損になりそうなら一言くれるだろう。
悪ぶってるのに悪になり切れてない人なんだ、カワイイね。
「ごめん、アウルムさん! ボク勘違いしてたよ!」
トゥラの真心を込めた謝罪と顔が向けられ、とても気まずそうな顔をして顔を背ける。
だがその先でも、ホルンが眩しいばかりの視線を向けていた。
ヨグさんは顔が髪で隠れてるせいで表情がよめないが、多分他の二人と同じ感じだろう。
「テ……テメェ……!」
やばい、どこに向ければいいか分からない感情の矛先がこちらに向いてしまった。
かくなるうえは……!
「ってことを、ヨーゼフ卿から聞きました!」
「あんの! ボンボンのクソガキャ!!!」
ふぅ、なんとかヘイトを逸らすことに成功したぜ。
まぁヨーゼフパイセンならなんとかしてくれるはずだ。
なんとかならなかったらレヴィ先輩がなんとかするだろ。
あの人、やれやれって言いながらヨーゼフパイセンの為に動いてる時が一番イキイキしてる気がするし。
とはいえ、一番の問題はまだ片付いていなかった。
「で……この<レベルダウンポーション>どうする?」




